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「完全な傍観者でいるのは無理。
 自分も含めた状況や世界の「観察」、
 つまり今回の「観察映画」は参与観察なんです」
『選挙2』想田和弘監督インタビュー

 『演劇1・2』に続く想田和弘監督の観察映画第5作は、デビュー作『選挙』の続編『選挙2』が、7月6日(土)より第七藝術劇場にて公開。政治から退き、主夫をしていたが、震災直後の統一地方選で突如立候補を表明した『選挙』の主人公、“山さん”こと山内和彦を再び追う。東日本大震災の爪痕がまだ色濃く残る中での選挙戦。大災害を前にしても変わらない日本の政治と民主主義の現実が見える。2005年、自民党公認で川崎市議会初当選を果たすも、2年後の選挙では公認を得られず、政治から離れた山内和彦。以来、主夫となった彼だが、2011年の川崎市議会議員選挙に無所属で立候補を表明。それは原発事故をはじめとする政治への怒りからだった。

――1作目とは対照的な作品になりましたね。
 
「真逆なんですよね。山さん自身、前回のどぶ板選を反省したらしくて(笑)。選挙活動を一切やらないというスタンスで出ていました。あまりにも何もしないので最初はこんなの映画になるかよって思いましたよ(笑)」
 
――ははは(笑)。でも、撮影をやめなかった。
 
「普通の作家だったら撮っても意味が無いので撮影をやめるでしょう。でも、僕は「観察映画」をずっと提唱してきて「ドキュメンタリーはネタじゃなく、どう切り取るかなんだ」と言い続けてきているので、ここでやめたら負けだなぁと思って(笑)。意地になって撮ったようなところがあるかもしれません。実際に撮ってみて、よく見てよく聞けば必ず何かがみつかるから、映画になるんだなと思いました」
 
――とくに子どもとのシーンが長くて印象的です。
 
「情報を伝えるだけならあの長さはいらない。でも、僕は情報を伝えるのが目的ではないんです。余計なところに目がいってしまうし(笑)、その余計なところが余計じゃなく見えてくるというか。余計なところを言い出すと、ほぼ全部余計なんで(笑)。本筋とは関係ないところから醸し出される“何か”があると思っているから入れています」
 
――あと、今回は想田監督自身が映画に結構出てきていた印象があります。
 
「必然的にそうなってしまいました。ただこれは『精神』(2008年)を撮ったときに既に出来上がっていたスタンスなんです。『精神』を撮影しているとき、いくら僕の存在を消そうとしても、被写体である精神科の患者さんたちがカメラを向けている僕に話しかけてきて。最初は困ったなと思いましたが、そのやりとりがだんだん面白くなったきたんです(笑)。それを映画に含めることにしたときに「観察」とは言っても、完全な傍観者でいるのは無理。自分も含めた状況や世界の「観察」になる。つまり「観察映画」というのは参与観察なんだと、僕の中で理論化していました」
 
――なるほど。
 
「今回も絶対そうなるだろうなという予感はありました。山さんの今回の選挙ポスターは前回の映画のデザインだし(笑)。映画が現実に影響を与えてしまっているので、僕の存在を消すのは無理なんです。自民党の候補者が僕に言いがかりをつけてくるのだって、僕がいくら状況に参加するのではなく観察者に徹したくても、参加させられてしまうということですよね(笑)」
 
――「撮るな」と言われてましたね…。
 
「公けの道路で公けに行っている選挙運動で「撮るな」と言うのはありえないでしょう。僕にそういう発想が無かったので、ちょっと驚きました。「撮るな」と言われてもそのまま撮ったんですが、その夜には弁護士から「今日撮ったものを使うな」という文書が来ていました。なので、やっぱり使うかどうかちょっと考えましたけどね。でも、弁護士に相談したら「訴えられる可能性はあるけど勝てるよ」と。その根拠は憲法の21条、言論の自由、表現の自由なんです。ちょうど今、憲法の論議が起きていて、奇しくもこの21条を自民党の改憲案は変えようとしてるんですよね。つまり、表現の自由を制限しようとしている。僕はそれに反対です。今、ここで自主規制をしてしまうと、自分からその表現の自由を放棄するようなもの。だから自主規制するわけにはいかないんです(笑)。改めて憲法を読んでみると第12条に“こうした国民の権利は不断の努力によって保持されなければならない”と書いてあるんです。不断の努力というのが、こういうとき怯まないで憲法を使うというのが不断の努力なんだなと、初めてピンと来て。憲法書いた人すごいなって思いましたね(笑)。」
 
――憲法があるだけでは意味が無い、それを使わないと意味が無いということですね。
 
「だからここで僕が圧力を受けて怯んで、じゃあカットしようという風にしたら、憲法21条がある意味が無くなってしまう。あったって書いてあるだけで使っていないことになるから。だからここは使わないといけないと思うんです。もし、訴えられたりしたら大々的に記者会見するから来るなら来いという感じです(笑)。でも生身の人間を相手に撮るということはとても難しいことで『精神』の時には撮影時は良かったんだけど、後で不安になって「この映画の公開日に自殺します」と言われたりしたこともあります。下手すると映画を公開することで人の命を奪うことになるかもしれないというくらい大変なことなんです。ドキュメンタリーにはそういう大変さは必ず付きまといます。その危うさが魅力でもあるんですがね」
 
――今回、他の候補者の方ともたくさんお話されましたか?
 
「最近知ったんですけど、実はみんなの党の竹田さんは映画『選挙』を観て、「ああいう選挙をやってはいけない」と思ったらしく、ポスターは自分でデザインして事務所も間借りかなんかして選挙カーも使わずに費用を4万円くらいに抑えてるんですよ」
 
――えぇ? 山さんより下回ってますね。
 
「それでトップ当選してるんです。朝4時からビラ配りをしたり、ずいぶん前からコツコツと努力されていたようです。それで当選したのかは知りませんが、とにかく4万円台の選挙費用で自民党候補を抑えて勝っているわけですからすごいですよね。山さんもうまくやっていれば当選した可能性もあったかもしれないですよね(笑)。がんじがらめの選挙制度に見えますが、実は隙間があるんですよ。」
 
――ははは(笑)。今回の山さんは常にニコニコしていたのも印象的でした。
 
「何のプレッシャーもないですからね。何か言いたいことがあるときにちゃんと選挙に立てるというのは民主主義のあり方としてすごく健全だと思います。時々、山さんには本気度が足りないんじゃないかという批判も聞くんですが、山さんは普通の主夫で、特別な資格があって出ているわけではない。別に僕が出ても誰が出てもいいわけですよね? その中で選挙に出たというのは、すごい行動力だなと思うんです」
 
――確かにそうですね。
 
「よく“おまかせ民主主義”とか言われていますが、その対極にあるのが投票するだけではなく“自分も出れる選挙”じゃないかと思うんです。山さんみたいに普通の主夫でも破算を心配することなく出れるという道筋を示したことはすごい大きなことだと思います。竹田さんみたいに実際当選する人もいるし」
 
――震災直後の選挙でしたが監督から見た世間の印象は?
 
「あんな事態が起きてもこんなに盛り上がらないんだなと思いましたね。みんなビラも取らないし。ただ、最初はそういうことに気づいていませんでした。ただ、撮影時に変なものが写っているという自覚はあったんですが、それがどうして変で、どう変なのかは分からなくて。でも、この間の衆院選で自民党が圧勝したのを見てピンと来るものがあって、こういうことだったのかと思ったんです」
 
――山さんは間違ったことを言っているわけではないのに、周りはしらけているという状態が不思議なんですよね。
 
「普通では理解出来ない事態が起きていますよね。原発事故が起きて、それを推進していた政党が落ちたというのなら分かる。しかし原発を推進している自民党が勝つという逆のことが起きた。この方程式を解くのは難しいんですが、それを解く鍵が実はこの選挙にもあるんです。僕の個人的解釈ですが、事故直後の1ヶ月も経っていない時点で無意識に「原発事故を無かったことにしてる」んじゃないかと。そう考えると合理的な選択なんですよね」
 
――無かったことにしたいという気持ちからですかね。
 
「僕もその気持ちは分からなくもないんです、とくに東京にいると。放射能を避けるのはたぶん不可能で、それは今も状況は変わらない。これが地震や津波なら耐震構造を考えようとか食料を備蓄しておこうとか、いろいろ考えることがあるけど、放射能の場合は何も出来ない。そこで、一番合理的な逃げ方が無かったことにするということなんですよね」
 
――放射能が降り注ぐなんて状況は今まで誰も想像もしなかったですもんね。
 
「ある意味『ゴジラ』の来襲みたいなSF映画の世界。だけどキャーと言って逃げ回るわけでもなく、みんな普通に通勤しているんです。マスクをしている人が少し増えたくらいで。このことが腑に落ちるまでに時間が掛かってしまって編集に入るのに時間が掛かりました」
 
――「観察映画」とは言え、反原発のメッセージが込められていると感じましたが。
 
「映画で反原発のメッセージを伝えようとは思っていないんですよ。ただ、反原発を訴えている山さんに僕は興味を持って、その人の活動を追った。それが結果的に山さんの目線と僕の目線が交じり合ったような映画になっているんです。そういう視点から今のこの世の中を見ているのでそういう風に見えるんでしょうね。ただ、この映画を観た人に“反原発”“脱原発”になって欲しいとは思っていなくて、それが目的ではありません。ま、なっていただいてもかまいませんけど(笑)。僕自身、原発はいらないと思うし、やめればいいのにと思いますから(笑)」
 
――山さんに必要なのは何でしょう?
 
「ノウハウや戦略じゃないかな。これは脱原発派全体にも言えることですね。事故が起きてから脱原発に目覚めた人たちってすごい多いはずなんですよね。でも一時期の盛り上がりから、その火がどんどん小さくなっているように見えるのは、デモとかしても政治的な力にはなかなか変換されないからだと思う。その思いを政治的な力に変換する能力や戦略が必要なんです。思いだけではどうにもならない。でも逆に言えば、そこを何とかすれば、具体的な力が発揮できるんじゃないかと思う。これはあの事故以降、脱原発に目覚めた人たちに共通する問題だと思います」
 
――山さんも頑張ってほしかったですね(笑)。
 
「この映画は山さんが主人公ではあるんですが、本当の主人公はわたしたちだと思っています。主張がなくて操り人形になっていた『選挙』の時には当選して、自分なりの主張があって独立してそれを訴えようとしたときには当選しない。これって、世の中の仕組みというかからくりというものをすごく表してるところがあってすごく象徴的なことなんですよね。ただ、脱落しても再攻撃をしかけられることも事実で。僕なんかそうで(笑)。僕と山さんには重なるところがあるんです」
 
――山さんと想田監督の重なるところとは?
 
「山さんは自民党から独立してて、僕はテレビの世界から独立した。テレビ番組を作っていたころは、やりたいことが出来ないジレンマと戦っていたけど、そのテレビは大勢の人が見るような状況で。それに僕は違和感を抱いてひとりになったんです。ひとりになって「観察映画」というのを作り始めた。最初は不安でした。自分を守ってくれる組織や名目が無くて裸にされたような感じでしたね(笑)。ある意味、後ろ盾があったからいろいろなことをやらせてもらえてたんだなとか。それもひとりになって分かったんですけどね。最初は映画祭にいろいろ応募してもことごとく落とされて最初に拾ってくれたのがベルリンで。ベルリンが拾ってくれてから口コミで広がって日本の劇場公開につながってデビュー出来たんですけど、全然そこで陽の目を見ないことだってありえるわけです。そういう意味で山さんの軌跡と僕の軌跡を僕が勝手に重ねて見ているようなところがあります」
 
 



(2013年7月 5日更新)


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想田和弘 監督 プロフィール(公式より)
そうだ・かずひろ●1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアルアーツ卒。93年からニューヨーク在住。NHKなどのドキュメンタリー番組を40本以上手がけた後、台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。その第1弾『選挙』(07年)は世界200カ国近くでTV放映され、米国でピーボディ賞を受賞。ベルリン国際映画祭へ正式招待されたほか、ベオグラード国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリ

Movie Data



(C)2013 Laboratory X,Inc.

『選挙2』

●7月6日(土)より、第七藝術劇場、
7月20日(土)より、
神戸アートビレッジセンター、
順次、京都シネマ にて公開

【公式サイト】
http://senkyo2.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/162329/

Event Data

舞台挨拶決定!

【日時】7/13(土)10:00の回上映後
【会場】第七藝術劇場
【料金】通常料金
【トーク(予定)】想田和弘監督