「もしかしたら現実離れした世界観のように
一瞬映るかもしれないんですけど、これが現実」(宅間)
『くちづけ』貫地谷しほり、宅間孝行インタビュー
2012年末で解散した人気劇団「東京セレソンデラックス」の10周年記念公演作を堤幸彦監督が映画化した感動作『くちづけ』が、5月25日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開。30歳の体に7歳の心を持つマコ(貫地谷しほり)が暮らす知的障害者たちの自立支援のためのグループホーム“ひまわり荘”を舞台に、マコの父親で漫画家のいっぽん(竹中直人)との絆や、友だち・うーやん(宅間孝行)との淡い恋愛を笑いと涙のエピソードの数々で描き出す。舞台の公演当時から「魂が震えるほど泣ける」と評価され、劇団を主宰する宅間のもとには、映像化のオファーが殺到していたという。そこで、映画初主演の貫地谷しほり(マコ役)と実際にあった事件の新聞記事を元に原作、脚本を手がけた宅間孝行(うーやん役)に話を訊いた。
――宅間さんは舞台版に続いて、映画でも同じくうーやん役を演じていますね。
宅間孝行(以下、宅間):堤監督からの指名なんです。堤監督に「やっぱりあの役はどうしても宅間さんが演じるべきなのではないか」と言っていただいて、それで演じることになりました。
――舞台と映画で演技に何か変化を加えたところはありましたか?
宅間:全くありませんでした。変えようかという話も出たんですが、堤監督から「そのままで」と言われて。でも、芝居から2、3年経っているので、いろいろ忘れていることもありましたし、演じているうちに思い出したという感じです。あるシークエンスを撮るのに、普通の映画だとカットの長さが短いんですけど、一気に撮ってしまうスタイルだったのでリハーサルは結構入念にして。
貫地谷しほり(以下、貫地谷):毎日20ページくらい撮ってたんです。平気で15分~20分くらいカメラを回して。カメラ5台がそれぞれのカメラに映らないようにどこに隠れるのかという段取りも必要でした。
宅間:堤さんの提案で、朝イチみんなで輪になってラジオ体操して、そこからリハーサルをする。出番が少ししかない人でも朝イチに来なくてはいけなかったので、結果的にその場所にずっといなくてはいけなくて、必然的にコミュニケーションが取れて距離がギュッと近くなった気がする現場でした。
――貫地谷さんは今回、映画初主演ということですが、オファーをいただいた時の率直な感想を教えて下さい。
貫地谷:オファーをもらった時というか、ある日『くちづけ』の台本をポンと渡されたんです。それで、中を見ると竹中直人さんの名前があり「あ、また竹中さんとご一緒できるんだ。コメディーだろうな」と最初は思って。でも、台本を読み進めるとすごいお話で。1回読んだだけでは整理しきれなくて、わけも分からず泣いてしまいました。それから、これは本当に覚悟を決めて挑まなければいけない、と自分に喝を入れました。
――どのように役作りを進められたんですか?
貫地谷:実際にあるグループホームを、この映画のひまわり荘で暮らすメンバーで見学させてもらったんです。それでイメージを膨らませて、少女のようにどこか高校生時代のような甘酸っぱい悩みを抱えてたりするようなキュートな女性を演じたいなと思い頑張りました。
――宅間さんから見た、貫地谷さんが演じるマコちゃんはいかがでしたか?
宅間:舞台版でマコ役を演じた加藤貴子さんが作りあげたマコと遜色ないと言いますか、貫地谷さんが演じられたマコは、とても素晴らしかったんで演じていただいて良かったと思います。
貫地谷:本当に思って言ってます? なんか棒読みですけど(笑)。
――ハハハ(笑)! マコ役を演じる上で悩んだ部分は?
貫地谷:今までチャレンジしたことのない役でしたし、容易な役ではなかったです。何かしらの答えがみつかると思ったグループホームの見学でしたが、個性豊かな方が大勢いらっしゃってどんどん自分の中の選択肢が広がってしまって、余計に悩んでしまったり。本当、いろんな方がいらっしゃいましたよね。いきなり体当たりしてくる方とかいて元気だなーって思ったり。
宅間:最高に楽しいですよ。
――グループホームを訪問したことでこの作品に活かされた部分はありますか?
宅間:原作を書く前の段階で取材をした時、直接やりとりをすると緊張してしまうかもしれないとのことだったので、ビデオを回させてもらったんです。そしたらその撮った映像の中にずっと喋ってる楽しい人がいて、それがまさにうーやんだった。それで、こういったキャラクターをうまく活かせたらすごく楽しくなるなと思って。それで、また別のグループホームに行った時にテンションの高い女性に出会ってそのキャラクターも取り入れた。僕らが訪れたグループホーム内で本当に付き合っている人もいたしね。
貫地谷:ラブラブでしたよね。
宅間:話していても、知的障害について分からない人もいますし。入居者とスタッフの見分けがつかないというエピソードも実際にあって。見た話、聞いた話を全部盛り込んでいます。だから施設の方がこの作品を観て「本当にこういう人いるんですよ」と喜んでくださいました。もしかしたら現実離れした世界観のように一瞬映るかもしれないんですけど、これが現実というかみんな本当にピュアなんで、行くだけで、すごく心が洗われました。だから、そんな感じのひまわり荘になればいいなと思って、本作を作りました。
――公開を前に今のお気持ちは。
貫地谷:こうして取材を受けていても涙が出そうになっていて、私の中でまだ思い出になっていないんだなと思います。とにかく素晴らしい脚本の中で参加できたことが嬉しいですし、早くみなさんに届けて観てもらいたいという思いでいっぱいです。
(2013年5月23日更新)
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