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ホーム > インタビュー&レポート > 「虹というのはとても台湾的なもの。いろいろな民族の それぞれの色を際立たせてはじめて尊重しあえます」 『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』 ウェイ・ダーション監督インタビュー

「虹というのはとても台湾的なもの。いろいろな民族の
それぞれの色を際立たせてはじめて尊重しあえます」
『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』
ウェイ・ダーション監督インタビュー

 日本統治下の台湾で、原住民族独自の文化や習慣を守るために蜂起し、命をかけて戦ったセデック族の悲劇を2部作に渡って描いた歴史ドラマ『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』が4月27日(土)より、シネ・ヌーヴォにて公開。リン・チンタイを始め、ビビアン・スー、安藤政信ら日本と台湾の俳優が出演する。セデック族の苦難と蜂起までを描いた第一部に続き、日本の警察・軍との壮絶な戦いを描いた第二部『虹の橋』もあわせて公開となる。二部構成、計4時間36分の超大作。そこで、来日したウェイ・ダーション監督にインタビューを行った。

 

――この題材を扱った漫画を読んだことがきっかけで本作を撮ろうと思ったと昨年のアジアン映画祭の時におっしゃっていたかと思いますが、その漫画の内容をベースとして脚本を書かれたのですか?
 
「漫画はこの事件の全体図を教えてくれただけで、そこから資料を探したり、今では老人になっている生き残った方たちから話を聞いたりして、文化振興という立場から切り込みを入れて脚本を書きました」
 
――脚本にはかなり長い時間がかかったとか。
 
「書き出してからはそうでもなく、書く前の準備期間ですね。資料を探したり読み返したり。それに時間がかかりました。最初に漫画でこの物語を知り、この事実を映画で描こうと思ったんですが、それだけでは書けない。半分ぐらい脚本を書いてから、新しい資料をみつけて見てみると今まで自分が書いたものに間違いがあって。間違いと言っても細部が間違ってたのではなく、全体的な見方が間違っていたんです。それで書き直しました。しかし、書き直しているとまた、この部分が違ってるとか気づいたり。なので一旦書くのを止めた時期もありました。2年間かけてすべての資料を見直して、脚本自体を書き上げるのにかかったのは2ヶ月くらいです。その2ヶ月のために2年かけたということです」
 
――脚本を書く上でもっとも大事だったことは?
 
「価値観をどこに置くのかですね。特に原住民の文化的な部分です、本当に細かいところまで理解する必要がありました。ひとつでもどこかの見方が間違っていると立場が変わってきますので」
 
――『海角7号』が先に公開されましたが、企画は『セデック・バレ』の方が先なんですよね?
 
「『セデック・バレ』は長い計画期間を経て、脚本を書いて、その後撮影に入るんですが、同時に資金集めをしていて、そのために5分間のデモフィルムを撮ったんですが、4,5年かかって1銭たりとも集めれなかったんです。その時に浮かんだのが、お金が儲かる可能性がある映画をもう1本作ろうという考えでした。コストが低い映画を製作して「私は実力があるんだ!」ということを示したかった。そうでもしないと『セデック・バレ』を作れなかったんです。これはもう賭けのようなもので、2,3回の賭けが必要だと思ってましたが、1回で当たりました(笑)。なので『海角7号』のヒットから自然な流れで『セデック・バレ』の撮影に入ることが出来ました」
 
――共通して虹が出てきておりますが、脚本を作成していく上で影響はありましたか?
 
「『海角7号』に出てくる虹は『セデック・バレ』に出てくる虹を引用したのです(笑)。虹というのはとても台湾的なものです。台湾は多くの民族が一緒に暮らしている島で、それぞれが民族融合を唱えてます。最終的には「融合!融合!」と言って、それぞれの民族の色(特徴)が見えなくなっていましたけど。それぞれの色(個性)を際立たせてはじめてお互い仲良くできるのではないか。いろいろな民族のそれぞれの色を際立たせてはじめて尊重しあえます。それが虹に繋がるわけです。いろんな色がごちゃごちゃ混ざってはいけない。『セデック・バレ』を撮る前に、それぞれの民族がそれぞれの衣装を着て並んで道を歩いたらおかしな状況になるだろうけど、美しいシーンになるかもしれない。どんなに美しいんだろうと思いました」
 
――昨年のアジアン映画祭で上映され、さらに本作は観客賞を受賞しましたが、この状況をどう思われていますか?
 
「大変嬉しく思っています。日本の観客がこの映画をどのように観てくださるか分かりませんでしたから、実はちょっと怖くて緊張しました(笑)。去年のアジアン映画祭で大阪に来る前にハワイ、アメリカに行き、現地の多くの日本人の観客の皆様が本作を観た後、とても良く言ってくださいました。それで、どういったところを気に入ってくださったのか聞くと「日本人であれば観るべきだと思う」や「この映画は私たちが考えたこともないテーマを考えさせてくれる」と言ってくれました」
 
――そういった反応は日本人特有ではないですよね?
 
「そういった気持ちは台湾の人も日本の人も同じだと思います。台湾でも「いろんなことを長く考えさせられるような作品だ」という反応をよく耳にしました。この民族はかつてこのようなことをした。そしたら私の歴史はどうなるのか。私の前の世代はどんなだったのか。とにかくこの映画を観た後は“自分”を考えてしまいます。自分の歴史を振り返ってみることになります。この映画が大陸で上映されたときも同じような反応でした。自分の根っこを探す。この映画は霧社事件を描いてるんですが、人々に考えるべきものを多く与えます。自分の歴史だったり、歴史的な角度から自分を振り返ったり。これは面白い試みだと思います。異なる種族ごとに異なる見方がありますから」
 
――この映画のアクション描写はキレが良いですね。どこか他のアクション映画とは違う気がしました。
 
「韓国のアクション監督を招いて指導を受けましたが、最初は妨げもありました。というのも私はアクション映画を撮ったこともないですし、相手はアクション映画ばかりを撮ってきたわけですから、彼らは彼らのやり方を『セデック・バレ』にも用いようとしたんです」
 
――はい。
 
「特に森の中での戦闘シーンで、彼らは色々な戦闘方法を考えてきました。例えば穴を掘ってそこに人が落ちる。それで落ちた人を殺す、とか。しかし、人を殺すのに手の込んだ仕掛けはいらないと思うんです。銃一発で殺せますし、斬りつけることも出来ます。穴を掘る必要を感じなかった。ひとりの人を殺すのに大げさな仕掛けはいらない。あと、刀を投げて人を殺すようなシーンをたくさん撮ってきて、そういうシーンが好きだったようですが、唯一の武器を投げてどうするんだと。そんなことしてたら逆にやられてしまいます。なので、刀は絶対手放さずに投げ捨ててはいけない。こちらは狩人の考えに従っているんです。狩人が闘いに勝つためにはどうするのか考えたんです。華麗な動きでもなく、殺しあう場面を面白くするのが目的ではありません。ひとりの武士が何人も斬りつけて殺すというようなシーンもないです。ぶつかり合いながら話し合って出来たアクションです。兄弟の片方が死んで横に寄り添うなんてのは、ハリウッド映画の模写でしかないと思います」
 
――アクション以外にも素晴らしいところはたくさんありますが、特に美術も素晴らしかったです。種田陽平(プロダクションデザイン)さんとはどのように世界観を共有されたんですか?
 
「種田陽平先生とは、実際に霧社事件があった場所まで一緒に行きました。あちこち歩いて行って見て「ここは日本人が死んだ場所」や「ここでは何が起きて」と説明しながら色々な場所を周りました。とても気分が重くなったと思います。まず、私たちが今何をしようとしてるのかということを分かってもらう必要がありましたね」
 
――キャストの起用はどのように?
 
「まず、原住民は素人です。なので日本人もまったくの素人を使うというわけにはいかなかった。なので、この人物を演じるには誰がふさわしいのかということはとても細かく決めていきました。例えば安藤(政信)だと、彼が演じた小島というのは、いろんな立場と顔を持っている人物。小島というのは映画の中で真正面から見ると悪役です。はっきりと悪役であると分かるような立場なんですが、実際は悪い人ではない。とても複雑なんです。映画の中で、誰が悪人で誰が善人かというのは決めつけていません。日本でずっと悪役を演じてきた俳優さんであれば日本人がひと目で「この人悪い人だ!」と思ってしまうけど、安藤の場合はそうではない。だから日本人が見てもそういうイメージを抱かないですよね。小島を悪い人という一面だけで決め付けてはいけないんです。彼は映画の中でもがき気持ちが変わっていきます。観客に歴史の見方を変えさせる力のある俳優さんでないといけなかったんです。なので映画の中で悪人と善人を決めてないし、人間の本質、もがき苦しむ矛盾を描きたかった。安藤さんとは長い時間話し合いました」
 
――安藤さん演じる小島というキャラクターについて少し詳しく教えてください。
 
「小島は、原住民族の言葉も喋るし、文化も理解する。しかし、最後には殺し合いになるわけです。最初は原住民族に優しくしているのに、この人の転換点はどこにあるのか。それは先に原住民族が彼の妻と子供を殺したからで、ゆっくり変わるのではなく極端にしか変われなかったんですよね。これは専門的な俳優さんでないと演じられません。どんなにうまく演じたとしてもそれはひとつの表面でしかない。安藤はその両方を演じなくてはいけなかった。最初は拒否するかと思いましたが彼は受け入れてくださいました。自ら、日本にいる留学生で原住民族の言葉を喋れる台湾人のところに行って話をしたりしていました」
 
 
本作は、台湾映画史上最高額の製作費をかけて作られ、第1部143分、第2部131分で描かれる超大作。監督のどこか温和な雰囲気の風貌からは想像もつかない熱量と力強さを放つ必見作だ! 取材は短い限られた時間だったが、めいっぱい語ってくれたウェイ・ダーション監督の熱い思いを受け止めてほしい。



(2013年4月27日更新)


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ウェイ・ダーション 監督

Movie Data

(C)2011 Central Motion Picture Corporation & ARS Film Production ALL RIGHTS RESERVED

『セデック・バレ
第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』

●4月27日(土)より、シネ・ヌーヴォ
●5月11日(土)より、第七藝術劇場
●5月18日(土)より、元町映画館
●近日、京都シネマ
にて公開

【公式サイト】
http://www.u-picc.com/seediqbale/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/161195/

http://cinema.pia.co.jp/title/161718/