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《フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ》
映画『ANNA』の「Ne dis rien」を歌うシーンが印象的!
監督が経験した自伝的ラブ・ストーリー
『ベルヴィル・トーキョー』エリーズ・ジラール監督インタビュー

 女優でありながら、アート系の劇場で働き映画作家の道を目指してきたエリーズ・ジラール監督のデビュー作で、自伝的なラブ・ストーリー『ベルヴィル・トーキョー』が、《フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ》の1作として、梅田ガーデンシネマにて上映中。ある日突然に夫から別れを告げられた、パリの名画座で働く女性を主人公に揺れ動く心模様を繊細に綴る。『わたしたちの宣戦布告』で監督兼主演を務め話題を集めた、ヴァレリー・ドンゼッリと実生活でもパートナーだったジェレミー・エルカイムが主人公のカップルを演じているのにも注目だ。そこで、来日したエリーズ・ジラール監督にインタビューを行った。

 

――プロフィールを拝見すると、大学の修士論文でアニエス・ヴァルダ監督を選んでいますね。監督業の前に女優もされていますが、もともとは監督志望だったのですか?
 
「はっきりと意識をしていたわけではありませんが、いつか自分も監督になりたいという思いはあったのかもしれません。女優になりたいと思って端役ですが女優業もやりましたが、その時は、これは私の仕事じゃないなと感じました。本当にいっぱい回り道をしてきました。」
 
――名画館で広報もされていたんですよね? 働かれていたシネマアクションという名画館はどういった場所でしたか?
 
「シネマアクションという名画館は、アメリカのアクション映画を初めてパリで上映した映画館なんです。そこで、広報担当になったことで映画界の方々と身近に会うようになりました。映画雑誌カイエ・ドゥ・シネマで紹介されていたヌーヴェルヴァーグの監督たちなど、映画界の錚々たる方々が集まってくるような場所だったんです。」
 
――すごいところなんですね。
 
「シネマアクションという名画館が当時の映画界でとても重要な役割を果たしていた。この記憶をここで働いていた記念にドキュメンタリーとして映像にしたいという思いが生まれました。しかし、その時、お腹の中に子供がいて。大きなお腹を抱えながら映画監督は出来ないので、子供が生まれたらすぐに映画作りに取り掛かれるように準備して、このドキュメンタリーに着手しました。子供がお腹にいることが何かをしようというエネルギーの元になったような気がしています。出産を待っている時には次々とアイデアややる気が出てきたんですよ。」
 
――まさにそれは男性には絶対分からない感覚ですね。今回、日本では《フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ》の1作として上映されていますが、フランスで女性監督のデビューが増えていることについて理由が分かれば教えていただけますか?
 
「フランスの女性監督と言えば、アニエス・ヴァルダ監督(84歳)を筆頭に他にもたくさんいますが、確かに私たちの世代の女性監督は増えているような気がします。その原因については様々あると思いますが、私の場合は、自分たちが感じていることや、今、女性が置かれている本当の状況について発信したいと思ったからです。68年に起きた学生革命の影響で「自由な女性」については様々な人が映画にしたり、語ったりしましたが、それが私たち女の状況をちゃんと反映してくれてるんだろうかという疑問があったんです。」
 
――この作品には監督自身の体験が多く入っていそうですね。
 
「はい。私もこの映画と同じような状況の中で同じような経験をしています。私には息子がいますが、息子の父親はいないのです。実はこの映画を作るにあたり、周りから「恥ずかしくないの?」とよく言われました。しかし、私は確かに悲しい思いをしましたが、それを恥ずかしいとは思っていません。妊娠している女性を捨てて男性が去っていくというのは、フランスの社会でもどこかタブー視されているような題材ですが、この映画はドラマチックで悲劇的な別れと子供が生まれる喜び、このふたつの思いが交錯している映画だと思っています。」
 
――映画化したことで周りに変化はありましたか?
 
「私が『ベルヴィル・トーキョー』を作った後、こういった経験を語る本が出版されたり、語られたり、ひとつの流れが生まれたように思います。」
 
――タイトルにベルヴィルとトーキョーという地名を選んだ理由は?
 
「ベルヴィルは現実世界、トーキョーは実際には存在していない夢のような世界を現しています。このふたつの世界をうまく繋ぎ合わせることによってふたりの置かれてる状況がすごくよく分かってくるはずです。実はこのふたりは現実をあまり直視していなく、特にジュリアンは浮き足立ったような生活をしている人間。そこに子供が出来たことで、具体的な厳しい現実に向き合わなくてはいけないことになる。そこで、ジュリアンは受け入れることが出来ず、そこから逃げようとする。ジュリアンはトーキョーへは行かず、実際はベルヴィルにいる。そういった意味を込めてこのタイトルをつけました。」
 
――主人公のジュリアンとマリーは、映画『わたしたちの宣戦布告』でも話題を呼んだ実際のカップルですね。
 
「ヴァレリー・ドンゼッリとジェレミー・エルカイム、このふたりと出会った時、彼らはまだ無名でした。ヴァレリーは本作に出演後、長編を2作撮り『わたしたちの宣戦布告』で成功を収め、とても有名になりました。ジェレミーは本作をとても気に入り、ふたりとも情熱を100%注いでくれました。この映画にとって、とても効果的なカップルの起用だったと思っています。」
 
――カップルの会話には結構きつい台詞もありますね。
 
「あれは、私自身が言われた言葉をそのまま使っているわけではないんですよ。あのカップルがそのまま一緒に暮らしていたら、ふたりはどんな風に罵りあっただろうと想像して書きました。私は、(脚本執筆のために)様々なカップルの会話をよく聞いたりしましたが、愛し合ってるカップルは、信じられないくらい恐ろしい言葉を意外と相手にぶつけたりしています。映画の中でジュリアンはマリーに対して「死んでほしい」というようなひどいことを言いますが、現実にもそういったことを言うカップルはいると思います。」
 
――ふたりが映画『ANNA』の「Ne dis rien」を歌うシーンが印象的でした。あのシーンを入れたねらいは?
 
「この映画の中でどこか1場面を見せるとしたら、必ず選びたいくらい私自身もお気に入りのシーンです。カップルのふたりはお互い愛し合ってるのに噛み合わなくなり、うまくいかなくなって別れていく。あのシーンでふたりが歌いあう歌の歌詞は「何も言わないで」「果てまでついてきて」というような内容です。別れたいが、なかなか別れられないカップルのジレンマを歌詞がよく表しています。台詞で言うよりもふたりがあの歌を歌うことが何よりも如実にふたりの心情を物語っているんです。」



★参考に★

NE DIS RIEN   LYRICS:SERGE GAINSBOURG

Ne dis rien, surtout pas, ne dis rien suis moi,
(何も言わないで とにかく何も 何も言わないで わたしに従って)
Ne dis rien, n'aie pas peur, ne crains rien de moi,
(何も言わないで 怖がらないで 私を恐れないで)
Suis-moi jusqu'au bout de la nuit
(夜の果てまでついてきて)
Jusqu'au bout de ma folie,
(狂気の果てまで)
Laisse le temps, oublie demain,
(時の流れるままに 明日のことは忘れて)
Oublie tout ne pense plus à rien,
(すべてを忘れて もう、何も考えずに)

(2013年4月22日更新)


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エリーズ・ジラール監督

Profile

エリーズ・ジラール●1974年フランス生まれ。アニエス・ヴァルダ監督の『5時から7時までのクレオ』を修士論文のテーマにソルボンヌ大学を卒業。『哀しみのスパイ』(94年/エリック・ロシャン監督)、『ヴァン・ゴッホ』(91年/モーリス・ピアラ監督)等に端役で出演。1997年にシネマ・アクション系列の映画館で広報を担当。その後、中編ドキュメンタリー2本を監督。本作『ベルヴィル・トーキョー』は初の長編作品。

Movie Data

『ベルヴィル・トーキョー 』

●4月20日(土)~5月3日(金)、
梅田ガーデンシネマにて公開
●5月18日(土)より、京都みなみ会館、
神戸アートビレッジセンターにて公開

【フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ】
http://mermaidfilms.co.jp/ffnw/

【ぴあ映画生活】
http://cinema.pia.co.jp/title/157593/

【STORY】妊娠中のマリーは突然、映画評論家で夫のジュリアンから浮気の事実を告白される。しかし、動揺する彼女を残してジュリアンは出張先へ旅立ってしまう。マリーはパリの名画座で働いていたが妊娠も相まって参ってしまった。そんな中、出張先からジュリアンが帰宅し……。