第8回大阪アジアン映画祭開幕!
オープニングセレモニーと『毒戦』上映のために来日した
ジョニー・トー監督インタビュー&舞台挨拶レポート
現在開催中の《大阪アジアン映画祭》のオープニング作品として上映された香港の巨匠ジョニー・トー監督の最新作『毒戦』。監督の本拠地である香港を離れ、中国本土を舞台に薬物取引と警察の捜査を描いた本格クライム・サスペンスだ。そして、この映画祭のオープニングセレモニーのためだけに緊急来日したジョニー・トー監督に話を訊いた。
――2010年『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』、2011年『単身男女』、2012年『高海抜の恋』、そして今年の『毒戦』と4年連続大阪アジアン映画祭で上映されていますね。
「会社として年に少なくとも1本は撮るというポリシーがあって、今のところ1.5本くらいのペースで撮っています。ワイ・カーファイという脚本を書いてくれるパートナーがいるので彼が脚本を書き、その間に僕が撮るという形が取れるので、このペースで撮ることが出来ています。」

――トー監督から見た世界の映画祭とは?
「大きな映画祭というのはどれも歴史があります。例えばベネチアやカンヌ、ベルリン、ロカルノは60年以上の歴史があり、それぞれに特色を持っていますね。どの映画祭も芸術性と市場の両方を持っていて、ヨーロッパはそういった映画祭があるからこそ映画を盛り上げるひとつの推進力になっているんだと思います。作品に関する理解の深さで考えると、ヨーロッパの中ではフランスが1番いろんなものを取り込むのにアグレッシブであると思います。いろんな文化をどんどん取り込んでいくがゆえにカンヌはあんなに世界から注目される大きな映画祭になったんでしょう。」
――トー監督から見た大阪アジアン映画祭は?
「アジアだけにフォーカスしていたところから、規模も視野も広げていくのは観客の力に掛かっていると思います。アジアの様々な映画がこの映画祭で上映され、その市場や上映の機会が広がっていけば、それが大阪アジアン映画祭の特色になっていけると思いますし、いろんな文化に対してオープンになっていくことで大阪アジアン映画祭の地位がもっと上がっていくのではないかなと思います。そうなった場合にひとつの大阪の映画祭ではなく、アジアの映画を楽しむ中心になっていってくれればいいなと思います。今回が8回目ということで、まだ若い映画祭ですが、中で働いている方々はどうやって映画祭を大きくしていくか考えられてると思います。その方向性が決まり、みんなで一緒に押していけるような形が出来ればもっと大きくなっていくと思います。」
――舞台挨拶で言われていた大陸のチェックとはどんなもの?
「公安に関する物語を作りたければ、検閲だけでなくふたつ審査を通らなければなりません。公安のOKが出た後に映画の検閲に掛かり、それを通らなければならないのです。公安は、不正確なことを言っていないか、イメージを壊していないかというチェックをします。そういう事情があるので、大陸では今まで公安を描いた警察モノがほとんどなかったのです。10年くらい前に黒澤明の自伝映画があって観たんですが、それもかなり大陸の検閲と喧嘩をして作ったらしいと聞きました。一昨年、撮影許可がおりたのですが、公安が自分たちのことをテーマにした映画をそろそろ作らなければいけないなというような雰囲気を出していました。他にも何本か許可が下りていたので、ここが大陸映画のターニングポイントの始まりかなという感じですね。」

――具体的にはどこを変えたんですか?
「今までの警察モノと何が違うかというと、公安が「撮ってほしい」と言っていることを利用して、どうすればうまくチェックを通るか。自分たちの希望する脚本もありますが、先に公安が見てどう思うかを考えつつ脚本を書いていく。脚本の設計をそういう風に変えました。公安としては自分たちの仕事が危険だと思ってほしくないので物語上「あんまりたくさんの人が死んではいけない」、銃撃戦に関しても「ババババッとあまり撃ちまくるな」と言われたので減らしたんですよ。」
――ははは(笑)! 十分な数死んでたような気がしますが、あれで減らしたんですか! では、常連キャストについてお伺い出来ますか?
「主演のルイス・クーは中国国内でとても人気があるというのもありますが、その他の常連俳優たちも含めて、別にチームを組んでるわけではありませんがずっと一緒にやってきたことでお互いに信頼出来ています。それに彼らが人間としていい人で撮りやすいんです。僕の撮り方を分かってくれてるので細かいことを言わなくていい。僕は僕が言うとおりに動いてくれる俳優が撮りやすいから同じ俳優ばかりを使っています(笑)。黒澤明監督の映画も同じ俳優を何度も使っていますし、たぶん同じような考え方だったんじゃないかな。」
――中国での撮影を終えたところで次回作は『エレクション3』?
「次回作は『エレクション3』ではなくて『単身男女2』です。その次は歌の入ってるものを撮ろうと思っています。『エレクション3』については、今回の経験の影響は多かれ少なかれあると思います。今考えている『エレクション3』の内容は、非常にデリケートな内容なので、簡単に撮れるものではなく『エレクション2』の時に「次は10年後」と言ってましたが、たぶんもう少し遅くなるんじゃないかな。自分が撮りたいと思うものを撮れなかったら意味がないので、中国大陸の言論の自由がもっと広がった時に撮りたいなと思っています。いつ出来るかは分からないけど撮りたいとは思っていますよ。」
第8回大阪アジアン映画祭開幕
ジョニー・トー監督、オープニング上映『毒戦』で緊急来日!
3年ぶりとなる舞台挨拶に場内喝采!

3月8日(金)梅田ブルク7にて、大阪アジアン映画祭オープニングセレモニーおよびオープニング作品『毒戦』の日本初上映が行われた。最初に大阪映像文化振興事業実行委員会委員長、上倉庸敬(写真:左からふたり目)の挨拶の後、マレーシア=台湾合作映画『カラ・キング』のNamewee監督(写真:右からふたり目)と俳優のクリストファー・ダウンズ(写真:左端)、『戦争と一人の女』の井上淳一監督(写真:右端)が登壇。昨年、初監督作『ナシレマ2.0』でOAFF2012「来るべき才能賞」を受賞したNamewee監督は、「『カラ・キング』は世界プレミア、ここで初めて見ていただきます。私も初めて見ます」と笑いを誘った。続いて『カラ・キング』に出演のクリストファー・ダウンズ氏が「みなさん、こんばんは!」と見事な日本語を披露。初めての大阪アジアン映画祭参加への喜びを語った。故・若松孝二監督に師事し、今回が初監督作品となる井上淳一監督は「この映画がアジアで本当に通じるかどうか、例えばジョニー・トー監督の映画を我々が楽しむように、アジアの人たちが本当に心を許して楽しんでくれるだろうかという思いで作りました」と大観衆を前に感無量の面持ちでオープニングセレモニーのスピーチを締めくくった。
そして、3年ぶりの来日を果たしたジョニー・トー監督(写真:中央)が、『毒戦』日本初公開の舞台挨拶のため緊急来日。毎年最新作を大阪アジアン映画祭に送り込んでいる巨匠の登場に、「ジョニー!」という観客の声が飛び交い、場内の熱気は最高潮に。「今回、大阪に帰ってくることができたことがうれしい」とジョニー・トー監督。本格的な中国進出作となった『毒戦』については、「『単身男女』『高海抜の恋』の2本を撮りながら中国大陸の公安に関する警察ものの脚本をじっくりと書いていたが、さまざまな制限があり今日ご覧いただくものは、当初書こうとしていたものとは異なるけれど日本のお客様にどう見ていただくか楽しみ」と大陸での映画作りについて語られ、「今回作品が完成して映画祭で上映できることは、大陸側の制限が少し緩んできた証拠。他の監督たちが中国大陸で公安や警察に関する映画を作っていけるひとつのきっかけになれば」と次世代の監督たちにエールを贈ることも忘れなかった。「今までのジョニー・トー作品とは違う大陸で撮ったアクションムービー。次に僕が大阪に来たとき映画の感想を聞かせてほしい」と次の出品&来日を約束することばが飛び出し、場内は感動しきり。最後にオープニング上映『毒戦』舞台挨拶のためだけに、香港から駆けつけたジョニー・トー監督に観客から惜しみない拍手と歓声が送られ、本国香港よりも早い『毒戦』日本初上映へと続いた。
(2013年3月11日更新)
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