竹内結子演じる警部補・姫川玲子の活躍を描いた
誉田哲也氏のベストセラー小説を映画化した
『ストロベリーナイト』佐藤祐市監督インタビュー
ミステリーファンから評価の高い誉田哲也氏による人気警察小説『ストロベリーナイト』を含む姫川玲子シリーズが、2010年、スペシャルドラマとして放送され、昨年、連続ドラマとしてスタート。その豪華キャストによる演技バトルと、重厚な世界感、ストーリーの奥深さを兼ね備えた内容で注目された本シリーズが、ついに映画化。1月26日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。
姫川シリーズでも最高傑作と呼ばれる『インビジブル・レイン』を原作にした本作。姫川班の管轄で次々と発生した連続殺人事件。やがて姫川のもとに「半人は柳井健斗」というタレコミ情報が入るものの、上層部からは、「柳井健斗には触れるな」という理不尽な指示が下る。納得のできない姫川は、たったひとりで捜査を進めていくと、牧田という男と出会う。その男は姫川にとって、過去の“ある出来事”にも影響する出会いだった・・・。全編を通して降り注ぐ雨のなか、複雑にからみ合う連続殺人事件と、男女関係がピンと張りつめた緊張感とともに描かれる。今回は来阪した佐藤祐市監督に話をお聞きしました。
――2010年のスペシャルドラマ、そして昨年の連続ドラマを経て、ついに映画化ですが、最初から映画にしようというのは、意識されてました?
「いえ全然なかったですね。まずスペシャルがオンエアされ、嬉しいことに好評を得まして、でも少し間があいて、去年連ドラとして復活して、この時からですかね、少し意識したのは。でも映画にするぞ! という感じではなく、映画化できたらいいなぁという感じの目標でした」
――今回の原作は姫川玲子シリーズの『インビジブル・レイン』ですが、本を読んでいかがでした?
「小説を読んで、最初は映画化するの、かなり難しいなぁって思いましたね。取り扱っている事件もさることながら、特に姫川玲子の心の闇の部分、決して恋に落ちてはいけない相手への思いをどう映像で表現できるのか? そして彼女が過去に受けた傷にどうやって折り合いをつけて、これからを生きていくのか? そこがキモでしたから、ひと筋縄でいかないなぁと。なにせ姫川玲子はこれまで以上に複雑なキャラクターになりますからね。演じてくださった竹内(結子)さんも、そういったことをしっかり受け止めて、本当にがんばってくださったと思います」
――姫川玲子を支える捜査一課の姫川班の面々もパワーアップしてましたね。
「スペシャル、連ドラと徐々にやってきて、それぞれのキャラクターが固まってきていましたから、今回映画化するにあたって、さらにどういう風に膨らませていくか考えていった部分はありますね。小山(惠介)さん演じる羽山は、テレビの時は、最初は班に馴染んでない、ちょっと距離を置く、警察の社会の中で、しっかり出世したいキャラだったし、丸山(康平)さん演じる、湯田はまっすぐ一生懸命がんばる、正義感溢れる若者だし、宇梶(剛士)さん演じる石倉は、お父さんみたいな存在。姫川の上司である渡辺いっけいさんや、武田鉄矢さん、高嶋政宏さん、津川雅彦さん、生瀬勝久さん、遠藤憲一さんと言ったさまざまなキャラクターも、映画ではキャラが熟成してたなと思いました。あと、映画で初登場する、捜査一課の叩き上げの長である警視正・和田に扮する三浦友和さんも、衣装合わせの時から役をきっちり理解してくださってて、素晴らしい存在感を出して、さらにキュッと作品をしめていただいたと思います」
――そしてドラマから注目されていた西島秀俊さん演じる菊田ですね。刑事ドラマでは珍しく、女性ファンが本シリーズは多いですが、上司である姫川と部下の菊田との仕事での関係と、それ以上な部分が気になると言うファンが多く、映画でもそこが注目されています。
「実は、姫川と菊田の関係は、小説だと恋愛感情がもう少し色濃く描かれてたんですよね。でもそこをベタベタに描いちゃうと、ちょっとトゥマッチ過ぎて本来描きたいこととブレちゃうなということで、ドラマの頃からそういう関係を匂わせる部分はあんまりやってなかったんです。そこの行間の部分をファンの方はあれこれ汲み取って楽しんで戴いてるみたいですけど…。今回は、大沢(たかお)さん演じる牧田という人物が絡んできます。姫川にとっては重要な男性になってます。そんな彼と姫川、そして菊田のトライアングルな人物関係は、チェックしていただきたいですね。そう言えば、竹内さんのお友だちが、姫川が「菊田!」と呼べば「はい!」って菊田が答え、彼女が望んでいることを即座に理解して動いてくれるんで、“一家に一台”ならぬ、“一家に一人”欲しいっておっしゃってたそうで、そういう部分を感じさせるのも、女性から支持していただいてるひとつかも知れないですね」
――先ほど、姫川にとって、重要な男性となるとおっしゃってた牧田役の大沢たかおさんはいかがでしたか?
「今回初めてお仕事をさせていただいたんですけど、すごく真面目な方でしたね。牧田という役をもの凄く楽しんで演じてくれてたと感じてます。そう言えば今回、全編、雨がずーっと降ってるんで、逆に天気が良くなっちゃうと、雲が出てくるか、どんよりと曇りになるまで待たなきゃいけない。撮影時期は、天気が良過ぎてそれ待ちが多かったんです。しかもただ雨を降らせばいいってことではなく、カットごとに雨を降らせる位置や量も変えなくちゃいけない。そう言う時に「すいませんね、待ちが多くて」なんてちょろっとお話しさせていただいた時に、「雨の中で、リハーサルや、本番で雨がザーッと降ってると、雨音で雑音が遮断されるんで、かえって役に集中できるんでいいです」っておっしゃってて、雨の効果はそういうところにも出るんだって思いましたね。そして、ある場面で姫川に牧田の正体がわかるシーンがあるんですが、そこでは立ち回りをやってもらいますと最初からお願いしてたので、その撮影のシーンは僕自身ワクワクして臨みました。現場では大沢さんが役を十分に理解して、ある瞬間からブレーキの効かない狂気性をみごとに体現してくださって。その場面もぜひチェックしてほしいですね」
――映画の中の雨ですが、本当にいろんな雨の場面があって、ある種、主役でもありますね。
「まぁ原作が『インビジブル・レイン』ですから、雨は避けて通れないと最初から腹括ってまして、シーンの流れによって、雨の量や、降らせ方をどうするかの打ち合わせはしっかりしましたね。個人的には、埠頭の霧雨が好きです。姫川玲子に降り注ぐ、霧雨。この場面の絵は最初から頭の中にイメージしていて、ぜひ撮りたいなぁと思ってたので、その通りのものが撮れていたのが嬉しかった。今回、映画館でぜひ感じて欲しいなと思うのは、雨の音ですね。音響効果のスタッフががんばってくれて、シーンに最適な雨音を付けてくれてるんです。観てるとそんなに意識はしないですけど、本当に素晴らしいんです。それで嬉しかったのは、試写を観た知り合いが、映画終わってさぁ帰ろうと思った時に「あれ? 傘がない…あぁそうか今日は降ってないや」って思ったそうで、それぐらい雨の臨場感があったんだろうなぁと思います。音響効果の整った映画館で、その雨音、体感していただいて気持ちだけでも一緒に、雨に濡れていただきたいですね(笑)」
(取材・文:仲谷暢之)
(2013年1月25日更新)
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さとう・ゆういち●1962年・東京都生まれ。テレビドラマの演出家として『WATER BOYS』(フジテレビ)など数々のヒット作を生み出し、2005年に『絶対恐怖 Pray プレイ』で映画監督デビュー。三作目の『キサラギ』(07)でブルーリボン賞優秀作品賞、優秀監督賞をはじめ、さまざまな映画賞を受賞した。今、もっとも注目されている映画監督のひとり。
Movie Data
(C)2013 フジテレビジョン S・D・P 東宝 共同テレビジョン FNS27社 光文社
『ストロベリーナイト』
●1月26日(土)より、
TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.strawberrynight-movie.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159940/