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パレスチナの問題を政治的ではなく、
家族の物語として映し出したドキュメンタリー
『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』
イマード・ブルナート監督&ガイ・ダビディ監督インタビュー

 

 パレスチナのビリン村で暮らすイマード・ブルナート監督が、四男の成長を記録すると共に、村の様子を撮り続けた貴重なドキュメンタリー『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』が、1月11日(金)まで第七藝術劇場にて上映中、その後1月12日(土)より25日(金)まで元町映画館にて公開される。5つもカメラを壊されても、彼がカメラで撮り続けたのは、愛する息子の成長と、いつしか分離壁が作られ、略奪がおこり、非暴力のデモが起こる村の変化する姿だった。変わりゆくパレスチナの様子と人々の想いを生々しいタッチで切り取った作品だ。本作の公開にあたり、イマード・ブルナート監督とガイ・ダビディ監督に話を聞いた。

 

 イスラエル人であるガイ・ダビディ監督とパレスチナ人であるイマード・ブルナート監督。まずは、2人で共同監督をするに至った経緯について聞いてみるとー

 

ガイ・ダビディ監督: 2005年にビリン村での非暴力の抵抗運動がイスラエルの活動家たちも交えて始まり、私もデモなどに参加しながら複数の短編ドキュメンタリーを撮っていました。私は3ヶ月ビリン村に滞在していましたが、何かが起こるたびに村のカメラマンとしてイマード監督が呼ばれていたんです。私たちイスラエルや海外のジャーナリストは束の間滞在して去っていくわけですが、彼は常にそこにいるので、何か事が起こるたびに撮影することができるんです。その後、2009年にイマード監督から映画を作りたいと相談を受けましたが、ビリン村についてのドキュメンタリーは既に何本か製作されていたので、この映画がうまくいくかどうか自信はありませんでした。しかし彼の撮った映像を見せてもらうと、彼はカメラマンとして映像を撮りながら、息子として、兄として、父や兄弟が危険にさらされていれも、それに対して何もできず、ただ撮っているんです。そうして映像を見ていくと、彼の家族が映像から浮かび上がってきたので、イマードが主人公になって、父としての彼、カメラマンとしての彼、息子としての彼、友人としての彼というように彼自身と深く結びついた、彼にしか撮ることのできない映像を紡げば、すごく感動的なものができると思いました。

 

イマード・ブルナート監督:私は村の映像を撮ってはいましたが、映画を作るつもりはありませんでした。村に来たある映画製作者から、村の活動をテーマにした映画を作る話を聞いて、私が撮っていた映像を提供しました。その後助成金がおりることになったので、ガイ監督に連絡し、共同監督として映画を作ることになりました。私自身は、自分を中心に据えた映画を作るつもりは全くなく、村の友人たちや村の生活をテーマにした映画を作るつもりで連絡したんですが、彼から「私を中心にした映画にした方がいい」というアドバイスを受けて、このような映画になりました。この映画は、村やテルアビブ、そして最終的にはフランスで編集することによって、私とガイ監督、そして全くの部外者であるフランス人のエディター3人の視点が入ったことがとても重要だったと思います。

 

 イスラエル人とパレスチナ人が共同監督を務めると聞くと、考え方の対立などがあったのではないかと想像できるが、そのような製作過程での難しさはあったのだろうか。

 

ガイ・ダビディ監督:私たちは、いたって良い関係でした。この映画はイマード監督自身の声や存在によって成り立っているので、私は彼が力を発揮できるように、彼を励まし、支える役割でした。それに加え、パレスチナ人である彼の視点から映画を撮ることは、政治的な意味でも良い選択だったと思います。というのは、イスラエルとパレスチナの監督が共同監督を務めた作品はあるのですが、それはイスラエル側とパレスチナ側のバランスをとることを考えて作られていました。でも今回はそうしたバランスを無視して、私が裏方に徹するというチャレンジングな映画作りをしたことによって、注目を集める映画になったと思います。

 

イマード・ブルナート監督:私は700時間もの映像を撮りためていましたし、村で編集作業をすることが重要だと思っていました。だから、ガイ監督に村に来てもらい、1ヶ月間議論をし、映像のプランを練っていきました。それが非常に重要だったと思います。彼のことは以前から知っていましたが、それはイスラエルの活動家としてであって、人間としてよく知っていたわけではなかったので、1ヶ月間の議論によって強い信頼関係が生まれたと思います。その村での議論がなければ、今のような作品にはなっていなかったと思います。ガイ監督がビリン村に来たのは、私たちの活動を支援するためで、そのことを私はよく承知していたから、私は彼に声をかけました。彼がどのような考えの持ち主であるのかを知らなければ、イスラエル人の映画製作者に私から声をかけることはありませんでした。だから私たちの関係はイスラエル人の監督、パレスチナ人の監督ではないんです。

 

 そのように対立は存在せずに、友好的に映画は作られていったようだ。そんな本作の中に登場する印象的なシーンのひとつがビリン村での映画の上映会のシーン。住民たちの食い入るようにスクリーンを見つめる目が印象に残っている。

 

イマード・ブルナート監督:映画の中では1度しか映っていませんが、実際には何回も上映会を行っています。それは、住民たちにとって次のデモへの励ましにもなっていますし、デモを続けていくモチベーションにもなっています。私は、上映会を行うことで、住民たちに力を与えたと思っています。また、活動家たちにも映像を見せることで、私たちの行動の背景にあるものを知ってもらうことができました。そのことが、ビリン村が何年にもわたって抵抗運動を続けていくことが可能になった理由のひとつだと思います。いわば上映会は、私にとっては抵抗運動の一環でした。

 

 そのように映像によって抵抗運動を続けるイマード監督は、危険な目に幾度となく遭遇し、5台もカメラを壊されてもなお、撮影を続けている。

 

イマード・ブルナート監督:撮影し続けることは、村に対して、家族に対して、政府に対しての私の責任です。まさに、撮り続けることによってこの映画は生まれたわけですし、この映画は私だから撮れたのだと思います。外から来た人が数週間滞在して、いくつかの場面を撮ってそれで映画を作っていますが、そういう作り方ではこの映画のような作品にはならないと思います。占領下で生きることの真実を伝える作品というのは、逮捕されたり、命を脅かされるようなリスクを負うものですが、外から来てリスクを負わずに遠巻きに映像を撮っている限り、現実を伝えることはできないんです。

 

 アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭での観客賞・審査員特別賞のダブル受賞を皮切りに、サンダンス映画祭ワールドシネマ監督賞など世界中の映画祭で喝采をあびている本作。最後に海外での評価についてふたりに聞いてみるとー

 

ガイ・ダビディ監督:今までパレスチナについての映画はたくさん作られてきました。しかしこの映画は、パレスチナ人であるイマード監督が私たちにチャンスを与えてくれたと思っています。それは、パレスチナとイスラエルの問題を、家族というとても親密な関係性の中で考える作品にしてくれたからです。イマード監督の息子が成長していく姿とビリン村での抵抗運動のような歴史的、政治的な出来事と絡めあわされたことが、この映画に劇的な効果をもたらしたと思います。だから、この種のような映画をたくさん観ている人でも、そういう部分に惹きつけられて感動するのだと思います。一方、政治的なことに関心のない人が観ても、彼の家族のパーソナルな部分に興味を持って観てくださっているのだと思います。

 

イマード・ブルナート監督:私もガイ監督が言うとおりだと思います。パレスチナについての映画はたくさん作られていますし、ニュースでも報道されていますが、人々は興味を失いつつあります。そんな中でこの映画は、政治的な問題としてではなく、家族の物語として描いたということで、たくさんの人に受け入れられたのではないでしょうか。

 

(取材・文:華崎陽子)




(2013年1月 7日更新)


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Movie Data

『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』

●1月11日(金)まで、
第七藝術劇場にて上映中
●1月12日(土)~25日(金)、
元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://urayasu-doc.com/5cameras/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/160333/