「男女逆転の面白さというのは、
日本の歴史を捉えなおす大きな合わせ鏡」(堺)
『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』会見レポート
よしながふみの人気コミックを映画化した『大奥』(2010年)の続編『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』が12月22日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開。本作では前作より過去にさかのぼり、五代将軍・綱吉の時代が舞台となる。江戸時代、元禄の世。才能と美貌をそなえた五代将軍・綱吉(菅野美穂)は、幕府を栄えさせていたが、ひとり娘の松姫を亡くしてからというもの、世継ぎをつくることに専念させられていた。そんな中、権力と富を手に入れる野望を持った右衛門佐(堺雅人)が京より大奥へと入ってくる。どのようにして女将軍や、女人禁制の大奥が誕生したのかを描く本作で、主人公・右衛門佐を演じた堺雅人と綱吉を演じた菅野美穂が来阪、会見を行った。
まずは、現在のお気持ちから――
堺雅人(以下、堺):映画は五代将軍・綱吉の時代を描いた作品で、テレビドラマで放送していた三代将軍・家光の時代の続編に当たります。もちろん映画単体で観ても非常に面白い作品ではあるのですが、『大奥~永遠~…』に向かって、ようやくこの日が来たかと気持ちが盛り上がってきております。
菅野美穂(以下、菅野):撮影時は(公開が)ずいぶん先だなぁと、この映画がどういう風に完成していくのか楽しみにしていました。ドラマは撮影しながら放送しますけど、映画は撮影が終わって、公開を迎えるまでに時間が空き、映画独特の楽しみを今、噛みしめています。
と、おふたりとも公開を間近に控えワクワクしている様子で答えた。次に、この映画の1番の特徴である男女逆転の魅力はどういうところにあるか聞かれると――
堺:“男女逆転”という、ついてる嘘はひとつだけなのに江戸時代の戦国の世から平和の世に移り変わる歴史や、肉食系の女子と草食系の男子と言われるような女子が元気のいい現代が映っている。男女逆転の面白さというのは、日本の歴史を捉えなおす大きな合わせ鏡になっていると思います。
菅野:男女逆転にしても物語の中で最後に残るメッセージは愛だったり純粋さだったり、変わらないものは変わらないんですよね。夏にブータンに行ったんですが、ブータンは女性が家督を継いでお仕事も女性がなさるそうなんです。現代の男女逆転と言えると思いますが、国民の皆さんはとても幸せそうなので興味深いなと思いました。
時代劇においては思い切った設定だが、本作にまったく違和感を感じないのは現在に置き換えればありえる話だからなのだろう。そして、原作コミックから映画化、テレビドラマ化と一大プロジェクトに乗り「大作」を実感した瞬間はあったかという質問に――
堺:ここで僕がいただいたギャラの話をするわけにはいきませんしね(笑)。
菅野:言っちゃえ! 言っちゃえ!
堺:言っちゃいませんよ(笑)!
おふたりのやりとりに場内、爆笑。一気に会場が和む――
堺:原作が“大奥サーガ”と呼んでもいいくらい今も続いている壮大な物語ですので、原作を読んだ時にあまりのスケールの大きさに身震いしました。初めて読んだ時はまさか自分が俳優として参加するとは思っていませんでしたが、その原作のスケールの大きさが一番印象に残っています。
菅野:西田敏行さんと堺正章さんが光明寺で撮影されたシーンの写真を見せていただいた時に飾りの豪華さを見て「こりゃ大作だ!」と気づきました(笑)。久しぶりの京都の撮影所での撮影で必死だったので、自分の撮影では、御鈴廊下も今までで一番長かったらしいんですがそれに気づきませんでした(笑)。
堺:元禄ですから打掛もとても豪華で御鈴廊下も豪華絢爛で本当によく似合ってらっしゃってたのに、お芝居に必死で覚えてらっしゃらないようですが、下に控えてる人間からすると本当に素敵な上様でしたのでちょっと付け加えさせてください(笑)。
と、天真爛漫な上様(菅野)を役さながらにフォローする堺。次に、それぞれ男らしさ女らしさを意識して演じたかという話に――
堺:右衛門佐は、権力志向、上昇志向がある。たまたま入った先が男女逆転した世界ということだったんですけど男らしい男ですよね。テレビドラマ版で演じた有功は、すべての矛盾を含めて飲み込んで噛み砕くというある意味女性的な人物でした。自分としては男性的な右衛門佐、女性的な有功というイメージで演じました。
菅野:表で仕事をする時は男性的、目の前にときめく人がいる時は女性的。ひとつのキャラクターで相反する要素をどうやって演じればまとまりあるキャラクターになるか考えました。そして、天真爛漫で支離滅裂、危うい女性的な中にも相反する部分があったり、いつも反対側の要素をなんとなく意識の中に残して演じるようにしていました。
ストイックに追求して役作りをすることで知られる堺だが、役作りの為に特別なことをしたかという質問に――
堺:右衛門佐という人物は今でも続く水無瀬というお公家さんの家の生まれなんです。それで水無瀬神宮という、ある意味ゆかりの場所へ撮影中に何度か行きました。それで、実際のお公家さんであり宮司さんの方とお話することが出来て、水無瀬と言う家の持っている歴史の話をさせていただいて少し役のイメージが固まり、有意義な時間を過ごせました。
菅野:女性で将軍の役を演じられるなんて、一生に一度の機会だなと光栄に思いました。ただ将軍家に生まれたということを想像しようとしても到底無理で、理解しようとする役作りではなく自分とは別だと思うことが大事でした。でも同姓としては、子を失った悲しみやそれによって自分の人生が崩れていくというところは理解しやすかったですね。
今回が初共演となるおふたり。共演する前に持っていた印象と共演した後のお互いの印象を聞かれると――
堺:菅野さんは、作品によって全然顔が違いますし、それぞれの役が素じゃないかと思うくらいで、何を考えているか分からない、ちょっと怖い女優さんのイメージでした。あまり近づかないほうがいいのかなと思うような(笑)。実際にご一緒させていただくと、また違う意味で捉えどころが無いと言うか、劇構造としては右衛門佐が綱吉に爪あとを残そうとするお芝居の連続なんですけども、深い淵に小石を投げ込んだように動かないような感じで。ラストシーンが割と最期のほうで撮影したんですが、その時に全部届いてたことが分かった。抽象的な言い方なんですが、役ごと飲み込まれてしまった印象を持っていて、改めて本当によく分からない人だなと思いました(笑)。
菅野:堺さんは、どの役を演じておられても役作りへの意識の高さがにじみ出ているなと思っていました。あとは草食系のイメージだったんですけど、実際は草食系というよりは植物のような人でした(笑)。研究熱心なところはわたしが思っていた以上で、今回の撮影期間中は研究が進みすぎて江戸時代のお話なのに、鎌倉時代の本を読んでらっしゃいました。ルーツなども役に持ってくるようなところがあって、そのことを監督に質問しても監督は分からなくて困ってらっしゃいました(笑)。あと、穏やかだけどキビキビしていて時代劇だと着物での所作で心情を演じることを枷(かせ)に感じるところもあるんですが、そういうこともノルマではなく能動的にやっておられる気がして素晴らしいと思いました。
では、最期にこの作品を観られる方にこの作品からどんなメッセージを感じてほしいかという質問に――
堺:男女逆転と言う特殊な状況を描いた作品ではあるんですが、出来上がった作品を観てみるとすごく本格的な時代劇になっていると思います。京都の伝統あるスタッフの方々が丹精込めて作った作品で、東京ではなく京都で作った意味がたくさん詰まっている作品でもあります。テレビシリーズをご覧になってない方も原作をお読みになってない方も男女逆転ということだけ頭に入れていただければ十分楽しめます。どこに出しても恥ずかしくない恋愛映画が出来たと思っています。
菅野:それぞれのキャラクターの着物が美しくて、特に男性の着物に色があるというのは男女逆転ならではの良さだと思います。世界遺産や有名な名所をお借りしての撮影も多かったので色々な意味で見ごたえがあると思います。原作の素晴らしさはもちろんですけど、出演なさってるみなさんの演技が素晴らしいです。でも逆に気軽に映画館にお運びいただければなと思っています。
(2012年12月17日更新)
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