ホーム > インタビュー&レポート > 「映画を撮ると同時に、女優・高橋恵子がどのように 変化していくのかも撮られていたように思います」 『カミハテ商店』主演・高橋恵子、 山本起也監督、高橋伴明プロデューサーインタビュー
高橋恵子が23年ぶりに映画主演を務めたことでも話題の人間ドラマ『カミハテ商店』が、12月14日(金)まで京都シネマにて、12月8日(土)より28日(金)まで第七藝術劇場にて、その後12月15日(土)~1月4日(金)まで元町映画館にて公開される。自殺の名所となっている崖の近くに建つ小さな商店を営む初老の女性・千代と、そこを訪れる自殺志願者たちのドラマをじっくりと描き出していく。高橋のほか、寺島進やあがた森魚ら個性的なキャストが顔を揃え、本作がデビュー作となる山本起也が監督を務めている。本作の公開にあたり、主演の高橋恵子、山本起也監督、プロデューサーを務めた高橋伴明に話を聞いた。
まずは、初老の女性・千代役のオファーを受けた感想を高橋恵子に聞いてみるとー
高橋恵子:最初は、隣におります夫の高橋から、「造形大学で映画を撮るから、来年の2月のスケジュールをあけてもらえる?」と言われたんです。その時は役柄の話も何もなくて。今までも何度か夫が映画を撮る時に声をかけてもらっていたんですが、なかなかタイミングが合わなかったんです。今回は、内容はわからなかったんですが、学生の方たちと一緒に映画を撮ることにも興味がありましたし、山本監督ともご一緒したかったので、出演させてもらうことにしました。でも、こんなに長く撮影現場にいたこともなかったので、改めて映画が作られていく過程を見ることができて楽しかったです。
山本起也監督:僕が伴明さんに「恵子さん、(脚本について)なんておっしゃっていますか?」とお聞きしても、「まだ見せてない」とおっしゃっていて(笑)。たしか、随分ギリギリまで見せてなかったんですよね?
高橋恵子:私はてっきり、脚本ができてないんだと思っていたんです(笑)。今思えば、夫の策略だったんでしょうか(笑)。
山本起也監督:作品の概要というか、あらすじぐらいはお話されていたんですか?
高橋伴明プロデューサー:いや、それも話してないね(笑)。直前だったかな。
高橋恵子:撮影の直前でした(笑)。脚本を読ませていただいた時は、やはり千代はすごく難しい役だと思いました。ただ、脚本にはト書きも台詞も少なかったので、その分膨らませがいもあって、大変な分やりがいもあると感じました。それにまず、大手の映画会社では企画が通らないだろう、と(笑)。
高橋伴明プロデューサー:大手の映画会社がやらない企画をするのが北白川派ですから(笑)。僕が口を出したのは、企画段階と編集の時に少ししたぐらいで、どうせ監督が自分のやりたいようにやるんだと思っていましたから(笑)。
山本起也監督:伴明さんからは、みんなの心の中に“カミハテ商店”はあるんじゃないかということを言われていたので、あくまでも“カミハテ商店”という商店はファンタジーですが、映画の中のリアリティは大切にしました。そのうえで、観客の方に想像を膨らませながら観ていただきたかったので、できるだけ台詞や説明などはそぎ落としていきました。
では、逆に千代役を高橋恵子にオファーした理由について聞いてみるとー
山本起也監督:僕が脚本を読んだ段階では、千代さんは、達観したしわしわのおばあさんというイメージだったんです。だから、伴明さんが千代さん役を恵子さんにとおっしゃった時には、あんな綺麗な人に…と思ってびっくりしたんです。何か狙いがあったんですか?
高橋伴明プロデューサー:狙いというか、(千代役は)生身の部分が残ってないといけないと思ったんです。あんまり達観しすぎている人ではなく、まだどこかで揺らいでいる部分が残っている人であってほしくて、オファーしました。
山本起也監督:たしかに恵子さんに演じていただいたことで、死にたいのは私の方なのよ、という千代さんになりましたよね。重たい荷物を持ってくる自殺者たちに対して、そんな重たいもの預けないでよ、私の方が預かってほしいぐらいなのよ、という千代さんの感情は恵子さんが千代さんを演じてなかったら表現できてなかったと思います。
高橋恵子:今、思えば、(夫は)昔からおばあさんを演じさせたがっていましたね(笑)。
では、最後に「難しかった」と語る千代の役作りについてはー
高橋恵子:脚本を読んでからよりも、撮影に入ってからの方が悩みました。監督に言われたのが、「ゆっくり歩いてください」ということと、柔らかい表情にならないように、ということぐらいだったので、(千代さんというキャラクターを)どう作っていいのか戸惑って、撮影中には胃が痛くなりました。でも、美術の方たちが作ってくださったカミハテ商店の店の中に入ってみて、パンと牛乳が並んでいる様子やほこりのたまっている文房具、そして店からの風景や店にやってくる人たちとのやり取りに助けられて、(千代さんの)想像が膨らんでいきました。ラストシーンの千代さんの表情をどんな感情で表現すればいいのかを探し続ける旅だったように思います。でも、崖で叫ぶシーンを撮影してからは千代さんの感情にシンクロしていくことができました。監督は、ドキュメンタリーを長く撮ってらっしゃるので、映画を撮影しながら、女優・高橋恵子がどのように変化してくのかも撮ってくださっていたんだと思います。
山本起也監督:そんな、いいものじゃないですよ(笑)。
夫婦同席での取材ということもあり、終始笑いに包まれたインタビューだった。撮影中のエピソードを聞いてみると、撮影中に伴明プロデューサーが、主演女優であり、妻である高橋恵子のために、温かいお茶をポットに入れて渡していたことが明らかに。高橋恵子曰く、「きっともう一生ないと思います(笑)」とのこと。インタビューで監督が語っていたように、夫婦という立場で女優・高橋恵子を見続けてきた伴明プロデューサーだからこそ実現した、千代役のオファーがこの映画にとってなくてはならないものだったことを痛感する、女優・高橋恵子のための映画となっている。
(取材・文:華崎陽子)
(2012年12月13日更新)
●12月14日(金)まで、京都シネマにて上映中
●12月8日(土)より、第七藝術劇場にて公開
●12月15日(土)より元町映画館にて公開
【公式サイト】
http://www.kitashira.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158435/