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『スイートリトルライズ』の矢崎仁司監督による
“登場人物全員が主人公”の群像劇
『1+1=11』矢崎仁司監督インタビュー

 

 次世代の映画人を育成するワークショップ“映画24区”から生まれた映画『1+1=11』が、11月3日(土)~23日(金)までシネ・ヌーヴォにて、その後12月1日(土)~14日(金)まで京都シネマにて、12月8日(土)~14日(金)まで元町映画館にて公開される。『ストロベリーショートケイクス』や『スイートリトルライズ』の矢崎仁司監督が、山中貞雄監督の名作『人情紙風船』にヒントを得て“登場人物全員が主人公”の群像劇を描き出す。ワークショップで学んだ若き俳優たちに加え、田口トモロヲが出演しているのも話題となっている。本作の公開にあたり、矢崎仁司監督が来阪した。

 

 様々な人々が暮らす街で、総勢24人の登場人物たちが近づいたり離れたりを繰り返す姿を淡々と映し出す本作。、俳優やシナリオライターの育成などをワークショップを通じて手掛ける“映画24区”から生まれた映画だが、まずは矢崎監督に、どのような映画にしようと思ったのか聞いてみるとー

 

矢崎仁司監督(以下、矢崎):元々、登場人物を24人出すということだったので、誰かが主人公で誰かが通行人Aになる映画にはしたくなくて、24人全員が主役の映画にしたいと思っていました。シナリオも一般公募で募集したんですが、登場人物が多いこととこじんまりした話にしたいという思いがあったからか、どうしてもピンとくるシナリオがなかったので、結局“映画24区”のシナリオライター育成コースの生徒たちの中から選んだ方とゼロから一緒に脚本を書いていきました。

 

 24人全員が主役の映画と聞くと、難しそうなイメージがあるが、そうすることで、今までの矢崎監督の現場とは違った雰囲気になったのではないだろうか。

 

矢崎:今回は“みんなで1本の映画を作る”ようにしたかったので、誰かが何かに困っていたら全員がその困っていることについて知っているような現場にしたいと思っていました。例えば、誰かがヘルメットがなくて困っていたら24個集まるような現場であってほしいと思っていました。衣装もみんなが持ち寄っていたり、自分で買ってきたりしていましたし、そこから役作りに入っていった部分もあったと思います。そういう意味では、本当に手作りのような感じの現場でしたね。

 

 たしかに、話を聞いていると手作り感あふれる現場だったようだ。では、その現場からどういう映画を作りだそうと監督は考えていたのだろうか。

 

矢崎:僕は、もっと色んな映画があっていいと思っているんです。本当は、こういうストーリーだからと説明できる涙よりも、自分で説明できない涙を流させる映画がもっとあればいいと思うんです。僕は、映画で何か明確なテーマを訴えようと思っているわけではなくて、僕の映画でできることは、忘れていたことを思い出させるぐらいなんです。かつて、あんなにも人を愛したことがあった、とか、私って死ぬんだよね、とか日常生活で忘れていることに触れるような映画を作りたいと、自主制作で映画を作っていた時から思っています。

 

 「日常生活で忘れていることに触れるような映画を作りたい」と語る矢崎監督。本作には、明確な描写はないものの、3.11を思い起こさせるような、ブルーシートの海で泳ぐ若者の姿が登場する。映画のタイトルにも“11”が入っているが、3.11については、意識していたのだろうか。

 

矢崎:映画の中に空を撮り続ける女の子が出てくるんですが、あの子の写真は実際に僕が9.11の日に撮った写真なんです。今でも覚えているんですが、空がすごく赤かったんですよね。その後、3.11が起こったわけですが、この映画のタイトルの“11”を3.11と結び付けようと思ったわけではないんです。むしろこれは、1人と1人を足しても絶対に2人にならなくて、ずっとひとりなんだという意味の“11”なんです。3.11後にACのコマーシャルがずっと流れていたように、自主規制というか、言ってはいけない言葉があるという空気感や、いいことも悪いこともみんなが同じ方向を向いてしまうような、1+1が2になってしまう空気感は怖いと思ったんです。

 

 監督の映画には、どこか分かり合えない男女関係とともに、透明感のある佇まいを持った俳優たちがたくさん登場する。それは、この映画のタイトルに込められた「人間はずっとひとりなんだ」ということを感じながら演じているからなのだろうか。

 

矢崎:僕が、俳優たちに何か言うことはほとんどないんです。ただ、僕が求めている空気感が生まれるのは待ちますね。俳優たちがしっかり自分の“性”を生きていれば、僕はそれを写し取るだけなんです。人間的におかしいと思うことは指摘しますが、特別に僕が何かを言うことはないです。

 

 最後に、今までの監督の映画作りとは全く違っていたことが予想される、“映画24区”での映画作りについて聞いてみるとー

 

矢崎:予算は厳しかったんですが、本当に全て野放しで、やりたいようにやらせてもらいました。最近はずっと原作ものが続いていたので、久しぶりに好き勝手にやらせていただいて申し訳ないという思いでした。脚本ができあがった時点でも、どんな映画になるのかわからなかったですし、編集が終わった段階でも僕からすると、「こんなのできましたけど、大丈夫ですか??」という感じでした(笑)。今でも、知り合いがこの映画を観てくれると、「大丈夫だった?」って聞いちゃうんですよ。この映画は繰り返して観ることができるし、僕にしては珍しくラストシーンで目がうるうるしたりするんですが、人には「大丈夫だった?」と聞かざるを得ないんです。今までだと、吹っ切ってこれで大丈夫だと思えていましたし、何か言われてもそれは自分の責任で、褒められたらカメラや出演者など、他の人たちが褒められていて、駄目な時に出てくるのが監督だと思っているんです。でも、今回はまだ腹がくくるところまでいっていないんです(笑)。

 

(取材・文:華崎陽子)




(2012年11月 2日更新)


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矢崎仁司監督

Movie Data




(C) 2012 映画24区 All Rights Reserved.

『1+1=11』

●11月23日(金)まで、
シネ・ヌーヴォにて上映中
●12月1日(土)~14日(金)、
京都シネマにて公開
●12月8日(土)~14日(金)、
元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://eiga24ku.jp/projects/product.html#oneplusone

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158555/