インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「どんな環境でも生きていく術を持っている。 彼らの生き方の素晴らしさが伝わればいいなと思っています。」 『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』 中村真夕監督インタビュー

「どんな環境でも生きていく術を持っている。
彼らの生き方の素晴らしさが伝わればいいなと思っています。」
『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』
中村真夕監督インタビュー

 

 出稼ぎの親とともに日本で暮らす日系ブラジル人の子供たち5人を、2年半に渡って追いかけたドキュメンタリー作品『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』が、11月17日(土)より大阪十三・第七藝術劇場、神戸・元町映画館にて公開される。日本で生まれ育つも、ブラジル国籍のために義務教育が保障されておらず、満足な教育が受けられないばかりか、就職にも困難が伴う知られざる実態。そして、2008年秋、突如訪れたリーマンショックにより仕事を失い、ブラジルに帰ることを余儀なくされる彼ら。本作は、そんな過酷な環境の中でも明るく、活き活きと暮らす若者たちの姿を捉えていく。浜松学院大学の津村教授に同行して本作の共同監督を務めた中村真夕監督が来阪し、インタビューに答えてくれた。

 

――まずは、この作品を撮り始めたきっかけを教えていただけますか?

 

「元々2008年は日本人がブラジルに渡って100周年だったんですが、その年のテレビの取材で浜松学院大学の津村教授と出会いました。教授は、以前から夜の浜松の街を回って日系ブラジル人の青年たちの生活実態について調査をされていたんです。それで、その調査に同行させてもらっている内に、すごく魅力的な子供たちと出会えたので「ドキュメンタリーを撮りたい!」と申し出たのがきっかけです」

 

――企画やテーマが先にあって撮り始めたわけではないんですね。

 

「彼らの前向きさや人間性に惹かれて撮り始めたという感じです。彼らのほとんどが、中卒か中学を中退して工場で働いているんですが、最初は義務教育って離脱できるものなのかと驚きました。外国籍の子供たちに対して、義務教育は薦められてはいるけど強制されてはいなくて、本人や親が「辞めます」と言えば辞められるらしいんです。デカセギの子供たちは、お金を儲けることが目的で日本に来ているので、親に言われなくても親に迷惑掛けないように自ら若くから働き始めています。どちらかと言うと、そういうことをテーマに撮り始めたんですが、撮影を開始してすぐにリーマンショックが起きて、意図せず離れ離れになる人の話が撮れてしまいました。その時期は、リーマンショック絡みのテレビ番組でブラジル人がバラバラになっていく姿はテレビで取り上げられていましたが、その後1ヶ月か2ヶ月経ったらその話をぱったり聞かなくなって。メディアの悪いところなのかもしれないですが、一過性の話題に飛びついてその後は引いていくのを感じました。でも、わたしは個人的に気になっていたこともあったので、追いかけて撮り続けました」

 

――テレビではなく映画で公開するというのは当初から考えていたんですか?

 

「ナレーションがついたテレビのドキュメンタリーにうんざりしていたんです。こういう風に観てくださいと押し付けるナレーションが嫌で、まずナレーションはつけないと決めていました。なるべく彼らの話すことをメインにしたかったので、必要最小限の情報だけテロップで入れようと考えていたので、まずテレビは無理だろうと。内容も、強制退去命令から逃げたりする子も撮っているのでたぶん無理ですよね(笑)」

 

――そうですね。この作品に出てくるユリという青年もギャングですし、テレビではなかなか観られない内容ですね。

 

「ユリは映画の後、ブラジルで彼女が出来て、子供が出来て結婚して、またふたり目の子供も出来て、今は日本に単身でデカセギに来ています。家族を後で呼び寄せるらしいです。みんな人生の展開が速いです(笑)」

 

――ユリも含めて今回追いかけた彼らの魅力とはどういったところですか?

 

「ちょっと強がりを言っているところもあるんですが、すごく前向きなところですね。彼らは、デカセギで苦労したことを自分たちの人生の加点だと言うんです。あと、デカセギ特有の渡り鳥みたいな生き方。タイトルのツバメというのも渡り鳥という意味でつけたんですが、日本とブラジルの間を行ったり来たりして、どこにでも行けるんだけど、どこにも属せない。どこでも適応出来るけど、どこも自分の家ではない。それでも“HOME”を求め続けている。そういう独特の生き方が魅力的というか不思議だなと思って。そのデカセギという運命を受け入れて、いつか別れが来ることを覚悟しているからこそ絆が強いんだと思うんです。別れを子供のうちから何度も経験しているので、慣れていると言えば慣れているんでしょうね。親だけがブラジルに帰ったり、家族の中での別れもあるんですが、“絆”意識は高い気がするんです」

 

――彼らが「日本を恨んでいない」というのが印象的でした。

 

「そうですよね。彼らは、自分たちは外国人の中でも恵まれているほうだと話していました。日系人ということで、日本に滞在するのも容易だし、中国やインドネシアの人に比べたら仕事も大変なことをやらされない、自分たちは恵まれているんだと。もちろん差別されたり、見た目だけで理由もなく警察に職質されたりなど、差別的扱いを受けたとはよく言っていましたが、与えられた環境でベストを尽くそうという彼らの気持ちは感じました」

 

――ブラジルに帰国した彼らから変化を感じましたか?

 

「日本生まれで日本育ちの彼らがブラジルに戻ると、やっぱり「町が危険だ」と言っていました。日本は安全ですから。南米は、経済格差がすごくあって物価が高い割には賃金が安いんです。日本の工場で働くよりもなかなかお金が稼げなくて、自分の好きな物も買えないと苦しんでいました。日本では勉強してもどうせ工場労働者になるんだからと高校に行かなかった子達が、ブラジルではちょっとした清掃の仕事をするにもそれなりの学歴がないと出来なくて、夜間学校に通ったりしています。戦後の日本に近い雰囲気でしょうか。働きながら勉強している人たちが多くて、ブラジルに帰ったユリ以外の子たちは夜間学校に通っています。映画の中でダンスチームを組んでいるコカという青年は今、大学で哲学を学んでいます。哲学者とダンサーを目指しているらしいです(笑)。ブラジルに帰ることで選択肢が増えたんでしょうね」

 

――ヒップホップダンスは彼らにとってどういうものなんでしょうか。

 

「『SR サイタマノラッパー』シリーズの入江悠監督と先日話したんですけど、ブレイクダンスやヒップホップダンスというのは万国共通で、自分たちがコミュニティーの中でアウトサイダーやマイノリティーだと思っている人たちの共通言語みたいになっている。元々、黒人のマイノリティー文化ですし。日系ブラジル人の彼らもそういうところに共感して、ダンスを生きがいにしていく。日系ブラジル人にとって大変な状況で生きる希望をみつけるツールになっているんです。ブラジルのファベーラという場所は治安が本当に悪く“犯罪者になるか殺されるかヒップホップをやるか”その3択しかないと言っていました(笑)」

 

――作品を観た当事者たちからの反響はどんな感じでしたか?

 

「日本にいる日系ブラジル人のコミュニティーの中でも、比較的エリートな人たちは「なんでこんな成功者じゃない子達をわざわざ取り上げるんだ」という方もおられました。こういう環境でもがんばって大学まで行った子達だっているはずだと。私たちは、彼らを意図的に選んで撮ったわけではなく偶然出会っただけで、こういう子たちがほとんどだったんです。日系ブラジル人の平均的な環境の子達が、どうやって与えられた環境の中、もがきながら生きているのかを撮りました。成功者というのは日本の社会に適応して認められた子達のことですが、わたしは悪い道に行ってしまった子たちのことを不良だとは思っていません。間違いを犯しながらも大人になっていく姿を描いたつもりです」

 

――本作を撮影してみて感じられたことは?

 

「彼らのたくましさです。前向きさとたくましい生き方。わたしの中には、日本の同世代の若者に是非観て欲しいという気持ちがあったので、社会状況を訴えるというよりも青春群像劇として描きました。恋や将来のことで悩んだり、若者特有の悩みを持つ彼らに密着し、そこから垣間見える社会背景、社会問題を少し意識してもらえればいいなと思います。日系ブラジル人の彼らは、幼い頃から早く大人になることを強いられているので、どんな環境でも生きていく術を持っている。学歴はなくても処世術、生きる知恵を持っているんです。学校で習うことが全てではない。こういう彼らの生き方の素晴らしさが観客に伝わればいいなと思っています。




(2012年11月15日更新)


Check
中村真夕監督

Movie Data

『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』

●11月17日(土)~23日(金)
神戸・元町映画館にて公開
●11月17日(土)~29日(木)
十三・第七藝術劇場にて公開

【公式サイト】
http://lonelyswallows.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159261/

Event Data

監督の舞台挨拶情報!

11/17(土)
神戸・元町映画館 11:30の回、上映後
十三・第七藝術劇場 15:30の回、上映後

※詳細は各劇場へお問合せください。