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「“単純にみんながいい人”
そういうドラマや映画によくある“嘘”が嫌いというのが共通点」
今泉力哉監督&今泉かおり監督インタビュー

 今泉力哉監督と今泉かおり監督。11月3日(土)より十三・第七藝術劇場にて公開となる話題作を手がけた、日本では珍しいともに現在31歳の夫婦そろっての映画監督だ。夫の今泉力哉監督の作品は、テレビ等でも活躍しているタレント、モト冬樹の生誕60周年記念作として制作された『こっぴどい猫』。小説家の男がワケあり美女に惹かれていく様とその周りの人々の恋愛模様を描いている。そして、妻である今泉かおり監督の作品は、第7回シネアスト・オーガニゼーション・大阪(CO2)の助成対象作品に選ばれ制作された『聴こえてる、ふりをしただけ』。母をなくし、途方にくれる少女が、母親の死を受け入れ、新たな生活を始めるまでを繊細なタッチで描く喪失と再生のドラマだ。そんなテイストのまったく違う2作の公開を前に、ご夫婦とふたりのお子様も一緒に来阪。家族4人そろってインタビューに答えてくれた。最初は、力哉さんが下の子にミルクをあげたり忙しそう(笑)なので、まずは、かおりさんへの質問から。

 
――『聴こえてる、ふりをしただけ』が生まれたきっかけと主人公のキャラクターについて教えていただけますか?
 
今泉かおり監督(以下、かおり監督):最初は“理科の授業で、脳の勉強をしたらオバケが怖くなくなった”という、わたしが小学5年生の時に経験したエピソードを元に短編を作り始めました。そしてふたりの子が登場して、ひとりはオバケは怖くなくなって、もうひとりは魂の存在を信じ続けたいタイプという設定で制作したんですが、うまく作ることが出来なくて。長編に編集しているうちに、自分の10歳の頃の姿が投影されてきてこの映画が出来上がりました。
 
――短編から長編にする過程の脚本執筆で苦労した点はどんなところですか?
 
かおり監督:最初に長編を書き上げた時は、主人公のさっちゃんが泣くシーンで終わるつもりでした。完成して、その後半年ぐらい脚本を触らなかった時期があったんですが、CO2に企画が通って改稿し直した時に、CO2プロデューサーの富岡さんに「その終わり方ではあまりにも無責任だから、大人として責任感のあるストーリーにした方がいい」とアドバイスを受けて、そこで自分なりに考え直してラストを考えたんですが、すごく苦労しました。
 
――では、子供が主人公ということで子供を描くことで気をつけたことは?
 
かおり監督:11歳の女の子って、同時期の男の子よりも先に大人っぽくなっちゃう頃ですよね。友達に嫉妬したり、自分自身の醜いことを感じるようになっていったり。私自身もその頃、そうでした。そんな子供の頃のことを忘れて、ただ綺麗なところだけを描く映画を観ると嫌だなと私は思うので“汚い部分も持っているけど、根はまだ綺麗”なところを描くというのが正義なんじゃないかと思ったんです。
 
――主人公の少女から見た大人を描くところも秀逸ですね。
 
かおり監督:私自身が11歳の時に父が病気になったりして、それでなかなか気持ちを消化しきれないまま引きずって大人になったところがあるんです。幸せなファンタジックなものを否定することで逆に楽になったようなところがありました。でも、そういうことがなくまっすぐ大人になった人って、子供の時の感情やその頃どういう風に思っていたかなどを覚えてないような気がするんです。本作に出てくる親戚のおばさんや担任の先生もまっすぐに大人になった人で、慰め方には決して悪意があるわけではなく、それは正しい慰め方だと思うんです。子供の時の気持ちやさっちゃんの気持ちを100%分からないけど、大人としての正しい言葉を言っている感じですね。
 
――ご自身に子供が出来たからこそ、変化したという結末については?
 
かおり監督:富岡さんにも「責任感」というアドバイスをいただきましたが、母親としての責任感がうまれたのかな。さっちゃんが泣くシーンで終わっていた時は、大人から見れば泣けて良かったねと思えるかもしれないですが、自分が5年生でその立場だったらと思うと、それが幸せではないと思うんです。さっちゃんの状況は変わらなくても、さっちゃん自身が強くなるという風にしようと思いました。それでこそ、お母さんにも残せるものがあるように思いました。
 
――では、だんな様の今泉力哉監督から観た、かおり監督の作品は?
 
今泉力哉監督(以下、力哉監督):撮影の初日には「今日3シーン撮りこぼした」、翌日も「2シーン撮りこぼした」、3日目も「1シーン撮りこぼした」って言って帰ってきたんで「終わらないよ」と言いました。スタッフの方は経験がある男性が多かったので、細かい描写などについては「これでもいいんじゃないですか」と提案されたこともあったようです。でも、完成した作品を観ると、自分の中に明確に撮りたいことがあったからこそ、散々こだわったんだと感じる作品になっていました。この2作品は共通のスタッフも多くて、中には友人もいたんですが、撮影後は「いろいろ大変でしたよ」と言っていました。でも、完成した作品をCO2で観た時には「今泉(力哉)さんもちゃんと気合入れてやりましょうよ」と言われました(笑)。嫁は、監督とは言っても普段は看護師をしていて、この作品もちょうど育児休暇とCO2が重なったから撮れたんです。次いつ撮れるか分からない覚悟が作品から観えたし、演出もしっかりしていてすごいと思いましたね。後は、“単純にみんながいい人”そういうドラマや映画によくある嘘が嫌いという点が共通しているなと観ていて思いました。
 
――ではでは、そろそろ今泉力哉監督の『こっぴどい猫』について。モト冬樹生誕60周年記念作品というのは?
 
力哉監督:お話をいただいた時はもちろん光栄なお話だと思いましたが、プレッシャーはかなりありました。普段から脚本を書くのは遅い方なんですが、今回もスムーズに書けなくて。本当は、去年の4月末くらいまでに脚本を書き上げる予定だったんですが、ほぼ何も書いてない状況で5月末が過ぎ去り…。それで「1回モトさんと呑みに行かせてください」とお願いして、そういう場を作ってもらいました。その時に、モトさんは僕の過去の作品を「ドキュメンタリーみたい」と言って、面白がってくださっていて。脚本が遅れていることについても「もし今回失敗してもまたもう1回やればいい」と言ってくださって。ものすごく有り難いことだと思いました。そこで、新しいことや特殊なことを目指すのではなく今まで僕が撮ってきた駄目な若者の恋愛映画みたいなものにモトさんを入れるイメージで進めました。
 
――今泉力哉監督と言えば、仕事もプライベートも充実していて他のインディーズ監督らからは羨ましがられる存在。そんな監督が駄目な恋愛モノを撮り続ける理由は何ですか?
 
力哉監督:今は結婚していますが、元々は全然モテなかったですし、世の中のカップルや夫婦に対する嫉妬もありました。付き合っていてもお互いが均等に好きなことはないと思いますし、どちらかがすごく好きでどちらかが思われている関係の方が多いと思うんです。それが状況によって変化することもあると思いますが。そのふたりの差を描くにあたって、ふたりの役者だけで描くことに憧れはあっても、まだ自分の力量では出来ないと思い、分かりやすく浮気相手や第3者を置くことでその差を表したのが始まりです。一般的な恋愛映画というのは、男女が出会って、「ロミオとジュリエット」のような身分の差や障害を乗り越えて、結ばれるか結ばれないかというもの。でも、結婚したり付き合っていたりという状況で起こる問題を、乗り越えたり乗り越えられないというよりは、最終目標が現状維持のような、もっと現実に近いものを撮りたいという思いはあります。
 
――今泉さんのそのダメ恋愛モノにモト冬樹さんが見事にはまっていますが、現場ではどんな方でしたか?
 
力哉監督:他のキャストはほぼ無名な人も多かったので不安だったとは思います。でも、モトさんだけ個室を用意したり特別な扱いは出来なかったので仲良くさせてもらいました。モトさんが自主映画の規模感をご存じない方だったので「インディーズの映画ってこんな感じなんだな」って(笑)。こういうものだと思ったかもしれないですね(笑)。現場で台詞を変えたりすることも「そっちのほうがいいよね」と言ってくれたので良かったです。ハゲネタはモトさんのアドリブなんですよ。最終稿には書いてなかったんですけどね(笑)。
 
――多くの人がモト冬樹と言えばテレビで受ける印象を強く持っているとい思いますが、本作では、ほぼ全編で渋い色気を醸し出すいい男。でも、還暦を迎えるパーティでいきなり子供のようになりますね。
 
力哉監督:すごくお世話になってる『わたしたちの夏』の監督で詩人の福間健二さんの言葉で、「20歳は大人から子供に戻る1度目の区切り、だとしたら還暦は3度目の子供返り」というのを読んだことがあるんですが、そういう意味でも60歳というのは区切りで、赤いちゃんちゃんこというのも“赤ちゃん”や“子供返り”という意味があるらしいんです。だから、映画の中のモトさんも赤いちゃんちゃんこを着た瞬間に子供に戻ってるという(笑)。深読みしてそこまで評価してくれた人もいますが、実はそういうことは全く知らなかったんです(笑)。
 
――赤いちゃんちゃんこの話が出たからというわけではないですが、今泉力哉監督のトレードマークとなっている赤いカーディガンには何か願掛けのような意味があるんですか?
 
力哉監督:何着も持っているんじゃないかと言われてますが、これ1着しか持ってないんです。元々、初めて映画を仕事にするきっかけになった水戸短編映像祭でグランプリをもらった時に偶然着ていて、その後に違う映画祭でもなんとなく着て行ってグランプリをもらったりして。それで“赤いカーディガンを着ている”というイメージがついてしまったんです。監督が、別にそういうことをする必要性はないんですが、自主映画から出てきて“知ってもらってなんぼ”なところがあるので意識的に着ていくこともあって。ただ今年くらいからあまり着ていなかったんですが、冬場に着る服が意外とないことに気づいて、結局また着てるんです。取材がある時に「じゃ持って行こうかな」と。意識的にやめようと思ったりもしたんですが、結果的にまた着ています(笑)。
 
――そうなんですか。長年気になっていたので聞けて良かったです。“知ってもらってなんぼ”という点では、今泉力哉監督は病人役で出演もしていますね。
 
力哉監督:周りから「自分でやったら」という声もありましたし、あのシーンは、この映画の中でメインの話とサブ的な話があって、そのさらに外の話という大外の部分ですよね。例えば『ホームアローン』でもメインの話ではなく、人殺しと思われているおじいさんの話や、周りにいる鳩おばさんのところに泣いてしまったりして、そういうサブエピソードを好きだったりするんです。それと、群像劇も好きですし。さらに、最近の映画界は難病モノの感動作が多いですよね。そういうテーマの映画で面白い作品もモチロンありますが、自分はあまり好きではなくて、わざとネタとして使いたいという思いもありました。もうひとつは、スキンヘッドに出来るのも面白いし、誰が一番病人に見えるかと考えたら、自分だったんです(笑)。
 
――『TUESDAY GIRL』にもホームレス役で出演していましたし、ご自身の作品によく出演されてますね。
 
力哉監督:あれは台詞がないし、フラッと出てくるだけでしたけど。自分の映画だと後で編集して切ってもいいですしね、もちろん出たがりというのもあります(笑)。
 
――出たがりだったんですね! 『こっぴどい猫』の中で今泉(力哉)さんが観客に向かっていきなり話しかけてくるシーンがありますね。
 
力哉監督:次のシーンとの繋がりを考え直して、文字テロップを入れたりすることも出来たんですが、僕自身がウディ・アレン監督が好きなので、登場人物が画面を通して語りかけるということに興味があったので入れてみました。そこに関しては賛否どちらの意見もありますが…。違うヴァージョンでも撮っていたんですが、繋がりを見てこの方がいいなと思って使いました。
 
――やはり、ウディ・アレン監督のことは好きなんだろうなと思いました! では、夫婦で映画監督であることのいいところは?
 
力哉監督:いいところは、脚本について相談出来る相手だというところですかね。自分の家で撮影したり、自分の過去をさらけ出したり、嫁の言葉を使うことへの理解があったり。それは監督だからということではなく、嫁の性格だと思うんですが。そういう理解には助かってると思いますね。
 
――映画の中に実生活が反映されてるんですね。
 
力哉監督:自分が三角関係になった経験はないですが、片思いをしていたことはありますし、夫婦のことで言うと、過去のことが後からバレることのほうが嫌だから、自分の女性遍歴は嫁に全員知ってもらっています。
 
かおり監督:別に聞いてないんですけどね(笑)。
 
力哉監督:自分が告白して振られた人も知られていて。思いっきり自分を投影して映画を撮っているので、これはあの人の話だとか、これは私の台詞だとかバレていると思います。
 
かおり監督:私の言葉も結構使われてるんですよ。3枚目の女みたいな役の台詞で使われて、なんじゃこりゃ? と思ったり(笑)。
 
力哉監督:本命の人じゃなく、浮気相手の台詞として使ったこともあります。
 
――小さなお子さんがふたりもいて、家で脚本を書いたりするのは大変じゃないですか?
 
力哉監督:家で脚本を書けない時は嫁に八つ当たりしてます(笑)。嫁が気をきかせて、子供を連れて外に出てくれたりするんですが、それでも脚本が全然進まなくて、帰ってきた嫁が子供の楽しかった話をすると、何を楽しんでるんだって(笑)。
 
かおり監督:子供がこういうことを言って可愛かったよという話をしたら癒されると思うじゃないですか! でも、なんでそんな楽しい時間過ごしてんのっていう感じで(笑)。
 
力哉監督:なんか大変なことなかったの? とか。「ずっと泣いててきつかったよ」と言ってくれたら、ほうほう、こっちもきつかったって(笑)。冷静に聞くとただの八つ当たりですよね。でもま、本当に喧嘩は多いですよ。作ってる期間は相当イライラしてるから。
 
 喧嘩が多いと話すふたりだが、「お互いの作品を面白がって観れるというのは良かった」と笑顔で語る姿を見ていると、お互いを尊敬しあい、助け合う素敵な夫婦だということが伝わってきた。子供の目線を見事に映した、かおり監督は「育児休暇が終われば看護師に戻ります」とキッパリ宣言。次回作はタイミング次第らしい。そして力哉監督は「自主映画も増えていますし、誰でも映画を作ることができる世の中だと言われていますが、自分らしさが見える映画を撮っていけたらいいなと思っています」とこれからについても意欲を見せた。この今泉力哉監督の『こっぴどい猫』も、今泉かおり監督の『聴こえてる、ふりをしただけ』も他の監督では撮れなかったであろう個性を持っている。この夫婦の2作を是非劇場で見比べてほしい。



(2012年11月 3日更新)


Check

Movie Data

『聴こえてる、ふりをしただけ』

●11月3日(土)より、
第七藝術劇場、京都みなみ会館、
12月1日(土)より、元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://www.uplink.co.jp/kikoeteru/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157166/


(C)2012 DUDES

『こっぴどい猫』

●11月3日(土)より、
第七藝術劇場、京都みなみ会館、
12月15日(土)より、元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://koppidoi-neko.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159872/