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ホーム > インタビュー&レポート > 「“誰しも脛に傷を抱えたまま生きていかなくてはいけない” という、原作のメッセージにとても共感を覚えました」 第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄の同名小説を映画化した 『ふがいない僕は空を見た』タナダユキ監督インタビュー

「“誰しも脛に傷を抱えたまま生きていかなくてはいけない”
という、原作のメッセージにとても共感を覚えました」
第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄の同名小説を映画化した
『ふがいない僕は空を見た』タナダユキ監督インタビュー

 

 第24回山本周五郎賞を受賞し、2011年本屋大賞第2位に選ばれた窪美澄の同名小説を、『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が、永山絢斗と田畑智子を主演に迎えて映画化した『ふがいない僕は空を見た』が、テアトル梅田、京都シネマにて上映中。不妊に悩む主婦と高校生の情事を主軸に、助産師の女性や生活苦にあえぐ若者ら様々な人物たちの苦悩と希望を巧みな構成で描き出すとともに、辛い現実の中で傷を抱えながらも生きていかなければならない登場人物たちの心情を、群像劇としてまとめあげた秀作だ。本作の公開にあたり、タナダユキ監督に話を聞いた。

 

 プロデューサーから本作の監督のオファーがあった時には既に原作を読んでいて映画化したいと思っていたというタナダ監督。原作を構築している様々な要素の中で、監督が最も惹かれたところとは?

 

タナダユキ監督(以下、タナダ監督):“誰しも脛に傷を抱えたまま生きていかなくてはいけない”という原作のメッセージにとても共感を覚えました。誰しもが決して自分の人生を投げ出すわけにはいかないし、人生の中で起こる全ての物事が、綺麗に解決することはないですよね。みんな痛みや傷を抱えたまま生きていくしかないんです。もうひとつは、登場人物はみんな矛盾した行動をとるんですが、人間の行動には説明がつかない部分がたくさんあるので、そういうところがすごく嘘のない物語だと感じて、映画化したいと思いました。

 

映画化するにあたって、オムニバス形式で綴られている原作を、群像劇としてまとめあげたのは、監督自身が考えていたことなのだろうか。

 

タナダ監督:元々、私の中で群像劇にしたいという希望があったので、それを具体的にどうするのかは(脚本家の)向井さんにお任せというか、丸投げしました(笑)。そうしたら、映画のようなかたちの脚本があがってきたので、これだったら原作をちゃんと生かしながら、ナレーションを使わずに登場人物の心情を表現するために、印象的なフレーズを最後に印象づけて、次の人の話に移っていくという、映画としての展開がすごくいいと思いました。でも、当初はもっとぐちゃぐちゃしていたので、観ている方が混乱しないように、映画の構成はすごく迷いました。

 

そのように、1本筋のとおった群像劇としてまとめられている本作だが、やはり本作の肝となっているのは切ない性描写をはじめ、リアルな現実を演じる主人公の卓巳と里美だ。主人公役を託した永山絢斗と田畑智子のキャスティングについて聞いてみるとー

 

タナダ監督:卓巳も里美も、生身の人間がこの役を演じることを考えると、すごく難しい役だとは思っていました。卓巳は、泣き叫んだりして感情を爆発させるような役でもなく、狭い範囲で葛藤している、物事を解決する術を持たない10代の高校生ですし、難しい役だとは思っていました。でも、私の勘のようなもので永山くんの佇まいから卓巳のような雰囲気を感じたので、大丈夫だと思いました。里美は、自分と一番年齢が近かったんですが、私自身も答えのよくわからない、明確ではないものを里美に託す部分もあったので、それを一緒に背負ってくれる人で、演技力の高い人ということで田畑さんにお願いしました。

 

里美のキャラクターについては自分と一番年齢が近いにも関わらず、わからないこともあったと語る監督だが、しかし本作は30代後半を迎えた今だからこそ撮ることができた作品ではないだろうか。

 

タナダ監督:それはありましたね。同年代だと子供がいる友人も多いんですが、働きながら子供を育てることが当たり前になっていたり、昔よりも女性に課されるものが大きくなっていると思うんです。私自身も答えは見つけられていませんが、今の年齢だからこそ登場人物の背景も想像できましたし、原作や脚本の字だけでは読み取れなかったものを、俳優さんひとりひとりが見せてくれた、身体を使った演技によって、改めて様々なことを私に気付かせてくれたんだと思います。

 

では、最後に4年ぶりの長編となる本作で改めて監督自身が感じられたことは何だったのだろうか。

 

タナダ監督:例えば、(主人公・里美の姑である)マチコさんがなぜあのように、不妊治療や体外受精を強要してまで孫にこだわるようになってしまったのかという過程は、自分の中で見えていなかったんです。でも、それを俳優さんが演じてくださることによって、この人には昔何かがあったんだろうな、とか、昔歯車が少しずれただけだったのが、今大きくずれてしまったんだろうなと感じさせてくれたりして、そういう考えさせられるような演技を見ているのは面白かったです。それぞれの俳優さんたちが脚本を読んで深めてきてくださったものを、一番間近で、誰よりも早く見られることをすごく贅沢な瞬間だと感じました。

 

(取材・文:華崎陽子)




(2012年11月26日更新)


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Movie Data


(C)2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会

『ふがいない僕は空を見た』

●テアトル梅田、京都シネマにて上映中
●1月19日(土)より、シネ・リーブル梅田にて公開

【公式サイト】
http://www.fugainaiboku.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159256/