ホーム > インタビュー&レポート > 大ヒット商品“食べるラー油”誕生の裏にあった 帰化申請にまつわる感動ドラマ 『ペンギン夫婦の作りかた』辺銀夫妻インタビュー
石垣島の食材を使い、全て手作りで作られた全く新しい“食べるラー油”。生産数が限られるため、手に入れるまで半年以上待たなければならない大ヒット商品の原点である、石垣島ラー油の誕生の裏側にあった夫婦の感動の物語を描くヒューマン・ドラマ『ペンギン夫婦の作りかた』が、テアトル梅田ほかにて上映中。ひと組の夫婦が、国際結婚して石垣島に移り住み、その豊かな自然を利用して新しいラー油を作り出そうと奮闘を続ける姿と帰化申請にまつわるドラマが描かれる。公開にあたり、小池栄子と台湾の人気スター、ワン・チュアンイーが演じたことでも話題となっている、本作のモデルとなった辺銀夫妻が来阪した。
映画の原案となった「ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし」が発売されたのは2008年のこと。そこから4年の月日を経て映画化されたのが本作だ。まずは、映画化されることになった経緯について聞いてみるとー
辺銀愛理さん(以下、愛理さん):本を出した2年後ぐらいに映画化の話をいただいたんですが、そこから2年半ぐらい間があったので、(映画になるのを)ずっと待っていた感じです(笑)。その間は、何も連絡がない期間もあったので、もうあの話はなくなったのかな? と思ったりしていました。
映画化の話がなくなったんじゃないかと不安になっていた時期もあったそうだが、実際に映画となった本作を観た時はどのように感じたのだろうか。
愛理さん:もし、自分の名前が映画に出たら~と想像していただければいいと思うんですが、さすがに心穏やかには観られませんでした。映画の中に登場するエピソードも、一部はそのまんまで、一部は映画なので少しオーバーになったりしていますが、彼の会社が倒産したと聞いて「ラッキー」と言ったのは本当の話です(笑)。
そうして旅行で訪れた石垣島に住むことになったふたりだが、そもそもの経緯はどのようなものだったのだろうか。
愛理さん:1月に彼の会社が倒産して、3月に初めて石垣島に行って、6月にはもう住んでいました(笑)。初めは、私が2週間、彼が1週間の滞在予定だったんですが、東京に戻る前に、とりあえず1年ぐらい住んでみようかという話にはなっていました。
辺銀暁峰さん(以下、暁峰さん):でも、そこで商売をしようとかそんなことは全く考えてなくて、バイトをすればなんとか生活していけるんじゃないかと思っていました。
愛理さん:私は、この映画にも出てきたお店で働こうと決めていたので、戻ってすぐに手紙を書きました。映画の中で小池さんが働いていた店で、実際に私は働いていたんです。映画のロケに使ってもらえて嬉しかったですね。
石垣島に住むことになった経緯はもちろん、劇中にも登場する「彼の会社が倒産したと聞いて「ラッキー」と言った」のも驚きのエピソードだが、本作に登場する帰化申請のための面接のシーンも、喧嘩あり、涙ありで驚きとそして笑いの連続のシーンとなっている。
愛理さん:面接の時の喧嘩のシーンも少しオーバーにはなっていますが、あんな感じのことはありました。でも、私たちはそうでもなかったですが、私たち以外の国際結婚をされた方の面接はあれ以上に厳しい質問をされることもあると聞いていたので、けっこうびびってました(笑)。
暁峰さん:私たちはけっこうスムーズにいった方だと思います。
愛理さん:というのも、東京だと何千件も帰化申請があるから、だいぶイライラされながら面接されるそうなんです。でも、私たちは東京で帰化申請をしてから石垣島に移住したので、島でたった1件の帰化申請だったこともあって、ゆっくり優しくやってもらえました。
インタビューの間もお互いの言葉をお互いがフォローするように話すふたり。小池栄子とワン・チュアンイーが演じた映画の中の夫婦については、どのように感じたのだろうか。
愛理さん:彼から見れば、ワンさんは子どもか弟みたいな感覚だったと思います。ワンさんは特に最初は、日本語が全くできなかったので、心配していました。最初の頃は、小池さんが台詞で言っていることもわかってなかったと思います。
暁峰さん:周りは朝から晩までずっと日本語ですから、僕とは中国語で話せていたので、彼はほっとしていたと思います。
愛理さん:誰に演じてもらえるのかは、ずっと気になっていたので、小池さんとワンさんに演じてもらえて光栄でしたし、嬉しかったです。
映画の中では、ラー油が順調に売れるようになるまでの過程が描かれているが、その後も13年間変わらぬ手作りにこだわった手法で“食べるラー油”は作られている。大手メーカーから、「作らせてほしい」という依頼もあったそうだが、やはり手作りでないと難しいそうだ。
愛理さん:色んな温度の油を抽出して、最後に合わせているんですが、そういうのが面倒なのと、気候の変化によって、1年中同じわけではないので難しいみたいですね。私が、料亭で働いていた時の先輩たちが工場長をしてくださっていて、ずっと同じ方たちと一緒に作っているので、遊びながら仕事をしているような感じなんです(笑)。
暁峰さん:島のことは彼女たちに教えてもらいましたし、彼女たちは島の先生でもあるんです。だから私たちには、おじい、おばあの友達がいっぱいいるんです(笑)。
そんなふたりを取り巻く石垣島の人たちの温かさも本作からは伝わってくる。そして、なんといっても夫婦の仲睦まじさがこの映画の最大の魅力。実際に、ふたりが感じている夫婦が“うまくいく秘訣”を聞いてみるとー
愛理さん:まず、無理はしないことはです。女だからとか男だからではなく、やれる方がやるというのがふたりのルールなので、夜ご飯も先に帰った方が作ることにしています。私の口癖なんですが、自分が幸せじゃないと誰も幸せにできないと思うんです。後は、結婚する時に、お互いに嫌いなことを100個出しました。好きなことって簡単に合わせられるじゃないですか。でも、嫌いなことって合わせるのが大変なんです。例えば、靴下とTシャツを一緒に洗うのが嫌、とか。そういう小さなことでも、どちらかがストレスになるならしない方がいいですよね。
結婚後20数年を経ても、変わらない仲の良いふたりの姿にこちらの心も温まるインタビューだった。そんなふたりの人柄を体現した、小池栄子とワン・チュアンイーが演じた劇中の夫婦の姿が胸に沁みる、感動の本作をぜひ劇場でご鑑賞ください!
(取材・文:華崎陽子)
(2012年10月26日更新)
●テアトル梅田ほかにて上映中
【公式サイト】
http://penguinfufu.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159467/