ホーム > インタビュー&レポート > “みんなが疑心暗鬼になっていく複雑なストーリー”に仕上がった 前作を上回る究極のバイオレンスが繰り広げられる 『アウトレイジ ビヨンド』北野武監督インタビュー
北野武監督が、ヤクザ社会の壮絶なる下克上劇を描き、興行収入7億5千万円の大ヒットを記録した2010年公開の『アウトレイジ』の続編『アウトレイジ ビヨンド』が10月6日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開される。前作で死んだと思われていた“大友”の帰還と共に繰り広げられる、関東VS関西の巨大なヤクザ同士の抗争が描かれる。前作で生き残った三浦友和や加瀬亮らに加え、西田敏行や高橋克典、桐谷健太や新井浩文など新キャストが参加。前作をビヨンド(超える)する究極のバイオレンスが繰り広げられる。本作の公開にあたり、北野武監督が来阪した。
前作で、ヤクザの世界で生きる男たちが生き残るために、裏切りや駆け引き、騙しあいを繰り返し、激しい権力闘争を繰り広げる様を暴力描写たっぷりに描き、三浦友和や加瀬亮らに、今までの柔らかいイメージをぶっ飛ばすような、ヤクザぶりを披露させた北野監督。その意外さと、徹底的なバイオレンス描写が話題を呼び、大ヒットを記録した前作を、遥かに上回る“アウトレイジ=極悪非道”な描写たっぷりに仕上がったのが本作『アウトレイジ ビヨンド』だ。監督初の続編となることに加え、西田敏行、高橋克典、桐谷健太、新井浩文ら北野組初参加のキャストも多数加わり、さらなるパワーアップを果たしたうえでの完結編となる本作。監督は、続編の構想はいつから持っていたのだろうか。
北野武監督(以下、北野):これまでの作品は、続編を撮ろうかって話になるほどヒットしてないんだけど(笑)、前作を作っている時に、続編があったらどうなるんだろうってスタッフと盛り上がってね。もしかしたら前作を撮りながら続編の話も意識してたかもしんないね。今作のストーリーは大友が生きていたという単なる復讐劇じゃしょうがないんで、関東のヤクザだけじゃなくて関西勢も入ってきて、裏切りを絡めて話を大きくしていったんだよね。『アウトレイジ』でカンヌ国際映画祭に行った時に、賛否両論もあったんだけど、暴力描写のことばかりが話題になって、ストーリーのことにあんまり触れてもらえなかったの。クランクインが1年延びちゃったんだけど、今回は物語自体を観てもらえるように、サスペンスの要素も入れて、みんなが疑心暗鬼になってねじれていくような複雑なストーリーにしたんだ。
“疑心暗鬼になってねじれていくようなストーリー”と監督が語ってくれたように、本作は騙しあいや裏切りが続々と出てくるので、誰が誰を信じていいのかわからなくなるほど、ストーリーに釘付けになってしまう。本作は、東日本大震災の影響で1年クランクインが延びたそうだが、監督はどのように脚本を書いていったのだろうか。
北野:だいたいのあらすじを書いてから、嬉しいことに「出てもいいよ」とか「出たい」と言ってくれる役者さんがたくさんいたので、相関図にみんなの写真を並べて、ゲームのように役とストーリーを決めていったのね。イメージ通りになったんじゃないかな。意外だったのは、塩見(三省)さんで、今まで悪い役をあまりやったことがなかったみたいで(笑)。俺の中では、悪い役のイメージだったんだけど、拳銃の使い方とか戸惑ってて。でも、やっぱり上手いよね。今回は「馬鹿やろう、このやろう」って怒鳴る台詞で発散できて気持ちよかったんじゃないかな。西田さんなんか、毎日「気持ちいい」って言ってたよ(笑)。 (高橋)克典くんは、実はキャスティングも全部終わった後に「出してほしい」って言ってきたんだけど、「もう台詞のない役しかないよ」って言ったんだ。それでも「いいです」って言うから、ほんとに台詞はないけど殺し屋の役で出てもらったよ。見せ場は作れたと思うけどね。
では、一方でクランクインが1年伸びたことによって何か変化はあったのだろうか。
北野:大まかには変わってないんだけど、けっこう細かく修正はしていったかな。小日向さんに演じてもらったマル暴とか警察組織側のストーリーも、当初より綿密になったしね。警察もある意味会社組織みたいなものだし、組織の中で色んなことをして上がっていこうとする奴ってどこにでもいるじゃない。今回は、ヤクザの抗争の物語だけど、会社組織に置き換えても観られるんじゃないかな。若手なのになんでこいつが俺より早く出世するんだとか、自分の評価はなんで低いんだとか、あるよね。サラリーマンだったら、この映画のキャラクターが会社のアイツ、とか当てはめられるかもよ。そういうことを細かく練っていけたのは良かったかな。
最初に北野監督が語ってくれたように、続編となる本作は、前作のような残忍な殺し方や暴力描写の応酬ではなく、「馬鹿やろう」「このやろう」というような怒鳴り合いや罵りあいという、言葉での暴力描写が多く見られる。それが監督の狙いだったのだろうか。
北野:今回も、拳銃やナイフは出てくるんだけど、言葉で殴り合うような怒鳴り合いの口喧嘩をしているのね。撮ってみたら、殴ったりはしてなくても意外と暴力シーンみたいになった。ただ、役者さんってみんな自分の間というのを持っているから、こっちがイメージしたようにすっとは突っ込まないのね。だから、編集で間を詰める作業を結構やったね。大変だったけど、楽しかったな。
確かに、前作よりも暴力描写は少なくなっているものの、その分激しい台詞の応酬や怒鳴り合いのシーンは増え、監督が語ってくれたように言葉での暴力シーンは多数存在している。また、ヤクザ組織の抗争を描きながらも、いち企業に置き換えて、自分自身を誰かに重ねて楽しむこともできるエンタテインメントとしても素晴らしいものに仕上がっている。まずは、劇場で『アウトレイジ』ワールドをその目で確かめてほしい。
(取材・文:華崎陽子)
(2012年10月 9日更新)
●10月6日(土)より、梅田ブルクほかにて公開
【公式サイト】
www.outrage-movie.jp
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158465/