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ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で
史上初の四冠を獲得した青春映画の快作
『くそガキの告白』鈴木太一監督インタビュー

 自分の夢や希望が叶わず、押し寄せる現実の世界でもがく男女のリアルな姿を描いた『くそガキの告白』が、10月19日(金)まで第七藝術劇場、京都みなみ会館、神戸アートビレッジセンターにて公開されている。何事もうまく行かず、その苛立ちを周囲に当たり散らすという、まさに“くそガキ“を演じたのは、お笑い芸人・キングオブコメディの今野浩喜。映画初主演にも関わらずブサイク・童貞・性悪の主人公を体現している。2012年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で4冠を受賞した作品だ。本作の公開にあたり、鈴木太一監督が来阪した。

 

 本作は、32歳で金なし、彼女なし、実家暮らし、性悪で、今まで1本も映画を撮ったことがないにも関わらず映画監督になる夢を捨てきれない大輔が、周りや母親に罵られる毎日の中である日、撮影現場で25歳の売れない女優・桃子と出会ったことで変わっていく姿が描かれる。鈴木監督の半自伝的な映画と言われているが、まずは映画の着想のきっかけについて聞いてみるとー

 

鈴木太一監督(以下、鈴木):僕はホラービデオの演出を何本かしていたんですが、ホラーで人を怖がらせるのが得意じゃなくて、どうしても笑わせる方向にいってしまって…。そうしていると、だんだん仕事が来なくなってきたので半ばやけくそで、この映画に近いようなレポーターとディレクターが恋に落ちるというホラービデオを作ったんです。それから、自分で映画を作ろうと思って色々やってみたんですが、なかなかうまくいかなくて、本当に自分がやりたいことは何なんだろうと考えて、前に作っていたその作品を元にして、初めてちゃんとシナリオを書いてみたんです。そうしたら自分に近いものになっていきました。

 

 主人公の大輔のキャラクターが「自分に近い」と語る監督だが、自分に近しい大輔のキャラクターはどのように作っていったのだろうか。また、自分に近いキャラクターを観客に受け入れてもらえる自信はあったのだろうか。

 

鈴木:僕としては、観客の方に受け入れてもらえるのかどうか怖い部分もありました。境遇も自分に近いですし、だいたい映画監督が主人公の話なんて気持ち悪いと自分では思っていましたし。(大輔を演じてくださった)今野さんも、芝居をやっていくうちにどんどん凶暴になっていって、口調も強めになっていって、現場ではそれでいいと思ったんですが、編集している時に、大丈夫かな? とは思っていました。でも、“くそガキ”というキーワードが出てきた時に、それを面白おかしく表現できればいいと思って、できるだけリアリティから外れることのないように作っていきました。

 

 では、そんな監督が自分に似た境遇のキャラクターをとおして、この映画に託した思いとは?

 

鈴木:自分の思いを吐き出すことをしないまま内にこもってしまっていた過去の自分への思いは強いです。言いたいことを言うことに加えて、人と交流しないことには何も生まれないですし。それは映画作りはもちろんですが、この映画の主人公である大輔も桃子という女の子と出会ったことで、何かが生まれたわけですよね。大輔はどうしようもない奴ですが、彼は彼なりに何かに踏み出して、何かを残したんだと思うんです。僕は、彼ほど内にこもってはなかったですが、同期の奴の中には長編を作って映画監督デビューしている奴もいるのに、傍から見れば僕はホラービデオを作っているだけで、何もやってないようにも見えたと思います。大輔も桃子も、世の中に証を残したいという思いは強かったと思いますし、僕自身もそういう思いはありました。

 

 一方で、そんな監督の思いを託した本作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で、審査員特別賞などを含む史上初の四冠を受賞した。そのゆうばりでの上映が監督の意識を変えたようだ。

 

鈴木:関係者試写の評判も良かったですし、映画祭に行く前は正直、グランプリしか考えていませんでした。映画祭で3回上映してもらったんですが、初めて一般のお客さんに観てもらえて、反応も良かったですし、その感動は忘れられないですね。初めて作った長編が映画館で上映されて、知らない人たちが観てくれているという喜びが溢れてきましたし、このために映画を作ったんだと初めて思ったんです。その感動が強かったので、結果的に賞はどうでもよくなっていましたね。

 

 そんなゆうばりでの体験を経てからは、自身の身体の前後を映画のポスターで挟む、俗に言うサンドイッチマンとなって、上映劇場の近くでちらしを配る宣伝活動を積極的に行っている監督。現在上映中の第七藝術劇場の近くでも、そんな監督の姿が見かけられる。

 

鈴木:ゆうばりの映画祭でお客さんと話をして、それがこんなにも楽しいものだったのかと実感しましたし、ひとりでも多くのお客さんに観てほしいという思いが強くなりました。普通は、それで終わるのかもしれませんが、この2、3年僕が映画を撮れなかった間に、同期や後輩たちが自主映画で長編を作って、注目を集めていたり、自分の映画の宣伝をしている姿を見て羨ましいと思っていたんです。自分の作品を宣伝できることが羨ましくて仕方なくて、その一方で自分には何もないという鬱屈した思いがあったので、いざ自分が映画を作ったら、宣伝したくてしょうがなかったんです。ちらしをもらったからって全員が来てくれるわけではないですが、それでひとりでも多くの人が来てくれるんだったら、やりたいと思ってしまうんです。

 

(取材・文:華崎陽子)




(2012年10月15日更新)


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鈴木太一監督

Movie Data



(c)SUMIWOOD FILMS & Taichi Suzuki

『くそガキの告白』

●10月19日(金)まで、
第七藝術劇場、京都みなみ会館、
神戸アートビレッジセンターにて上映中

【公式サイト】
http://www.kuso-gaki.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159253/