ホーム > インタビュー&レポート > 過酷なロケで生まれた“厳しさの中の美しさ” 北海道を舞台に描くヒューマン・ミステリー『北のカナリアたち』 吉永小百合、森山未來、小笠原弘晃、阪本順治監督来場会見レポート
『大鹿村騒動記』の阪本順治監督が、日本映画界を代表する女優・吉永小百合を主演に、森山未來、満島ひかり、宮崎あおい、松田龍平、小池栄子、勝地涼、柴田恭兵、仲村トオル、里見浩太朗などなど錚々たる豪華キャストを迎え、東映創立60周年記念作品として製作された新作『北のカナリアたち』が11月3日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。原案は『告白』の湊かなえによる『往復書簡』に収められた「二十年後の宿題」。20年前にひとりの教師・はる(吉永小百合)と生徒6人の間に起こったある事故を軸に、それぞれの思いが複雑に絡み合いながら、当時明かされることのなかった謎と真実が、ひとつの衝撃的な結末を導き出すというヒューマン・ミステリーだ。そんな本作で主人公・はるを演じた吉永小百合、物語の鍵となる生徒・信人役を演じた森山未來、20年前の信人役を演じた小笠原弘晃、そして監督の阪本順治が来阪し、会見を行った。
まずはそれぞれの挨拶から始まり、吉永小百合(以下、吉永)は「私にとって大好きな映画になりました」、森山未來(以下、森山)は「高いレベルの映画になったと思います」と本作への自信を語り、今回が映画初出演となる子役の小笠原弘晃(以下、小笠原)は「こういう会見というものが初めて」と緊張した様子をみせた。その次の阪本順治監督(以下、阪本)は「僕もこういう会見というものが初めてなので…」とおどけて小笠原の真似をし、横に座っていた吉永から肩をバシッと叩かれるという、まるで漫才のようなボケとツッコミを見せ、場の空気を和ませた後に「吉永さんはこのようにおだやかな中に激しいところもありまして、そんな勇ましさに毎日感動しながら撮影をすすめました」と語り、にこやかに会見は始まった。
湊かなえの「往復書簡」が原案となった経緯について――
吉永:脚本家の那須真知子さんが、『北の零年』に次いで北海道を舞台に、教師の定年後をテーマにした『北のカナリアたち』を書いてらっしゃったんです。その頃、たまたま私が新聞広告で知った湊かなえさんの「往復書簡」という作品を読んでみると、とてもテーマに似ている部分があって、『北のカナリアたち』にこれを取り入れられないかしら? というご相談をしまして、湊さんにもOKをいただいて那須さんが本作を書きあげたんです。
元々、舞台は北海道と最初から決まっていたと言うことだが、昨年の11月から今年の7月の末まで撮影したという本作。真冬の北海道での撮影はかなり厳しかったようで――
吉永:須古頓(すことん)岬という礼文島の北の端でロケをした時に、撮影不可能になるほどのひどい吹雪が来て、車に戻ることも出来ず、30分くらい現場で待たなくてはいけないことがありました。その時は、雪風を避ける為に背の大きなスタッフが私の周りに立ってくださったんですが、その間に睫毛も眉毛も凍ってしまい……。30分後に「再開します」と言われた時に、集中力を取り戻すことがなかなか出来なくて、あぁ私もダメになったもんだとその時、感じてしまいました(笑)。
森山:学校の校庭のど真ん中で手袋をせずに芝居をする2、3分のシーンがありまして、芝居をしている最中は分からないんですが、カットが掛かってから動かしていなかった手を動かそうとしたら激痛が走ったことがありました。すぐに気づいた吉永さんが手をさすってくださったり、キャメラマンの木村大作さんも、自分の手袋をはずしてハーと息をかけて手をさすってくださったことを覚えています。
阪本:あるスタッフが誤ってアルミで出来た機材に頬をつけてしまい、ドライアイスにくっつけたような状態で離れなくなって、それでむりやり顔をガッと離したら皮膚が1枚ベロッとめくれてしまったことがありました。
聞いただけで鳥肌がたつような過酷なロケでのエピソード。しかし、スタッフもキャストも、名キャメラマン木村大作が持つ「厳しさの中にこそ美しさがある」という信条を一心に、これを乗り切ればすごいものが撮れる、あきらめないという意思で撮影に挑んだという。完成した本作の映像力は底知れぬ力強さがあり、北海道の持つ大自然の偉大さに圧倒されるはずだ。しかし、そんな寒さに大変な思いをしたのは大人だけのようで――
小笠原:寒かったんですが、僕たちははしゃぎすぎていたので寒さを感じなかったです。
そんな元気いっぱいの子役たちは、歌を通して教師・はると心を通わせていくという難しい役どころ。歌声のみのオーディションでまったく演技経験のない子たちを選んだというが――
吉永:技術ではなく心から歌うことが楽しくて歌っているというのが伝わってきて、私自身も心が温かくなりました。そして、教える役の私もしっかりしなければという思いから、夏の撮影までにボイストレーニングに励みました。
阪本:今までたくさんの子役たちと仕事をしてきましたが、今回は離島に住む子どもたちの素朴さを求めていたので、演技未経験ということが映画にとても良い方向に働きました。まっさらで小細工をしない、無防備な感じが良かったです。その代わり、撮影の準備中に学校のようなものを開いて、この台詞はどんな気持ちで言っているんだろうかとみんなで考えたり、「自分の台詞が終わったら終わりじゃないんだよ。人が言ったら聞くだけではなくその気持ちを表現しなきゃいけないんだよ」と教えました。仕事として接したくなかったので子供たちには、「呼ばなかったら首にする!」とまで言っておっちゃんと呼ばせていました。ただ、劇団にいた子役たちだと待ち時間もじっとしているんですが、この子達はうるさくてしょうがなかった。僕も木村さんも「うるさい!」と叫んでいました(笑)。でも、彼らが歌うと大作さんも“鬼の目にも~”じゃないですが、涙を流してらっしゃって、本当に寒い中での撮影だったので、心が癒されて温かい気持ちになりました。
阪本順治監督とキャメラマンの木村大作は「絶対、うまくいくわけがない」と当初、噂されていたそうだが――
阪本:大作さんには、本当に気を使っていただいて、すごくうまくいきました。初日だけですよ、僕より先に「OK!」と言ったのは(笑)。その噂は全部うそだと言って回るつもりです。
とニコニコと語り、今では“木村大作さんの風評被害をはずす会”の会長に任命されたそうだ(笑)。そのように、お互いを尊敬し合い撮影された本作は、まさに木村大作の語る“厳しさの中の美しさ”が収められている。ミステリータッチで描かれる物語の奥深さや、子どもたちや豪華キャストの演技はもちろん、スタッフ、キャストの熱い思い、そして雄大な北海道の大自然など、見どころ満載の本作を体感する為にも是非劇場に足を運んでいただきたい作品だ。
(2012年10月26日更新)
●11/3(土・祝)より梅田ブルク7、
大阪ステーションシティシネマ、
なんばパークスシネマ ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.kitanocanaria.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157627/
【日時】11月4日(日) 14:00の回上映後
【劇場】梅田ブルク7
【登壇者】吉永小百合/仲村トオル/阪本順治監督/木村大作キャメラマン(予定)
【料金】全席指定-2000円
【Pコード】550-452