ホーム > インタビュー&レポート > 「この映画は、“希望”を持たざるを得なかった、 というところから出発した映画です」 園子温監督が“原発事故”を題材に描く社会派ドラマ 『希望の国』園子温監督インタビュー
『冷たい熱帯魚』や『ヒミズ』など、話題作を発表し続ける園子温監督が“原発事故”を題材にした社会派ドラマ『希望の国』が10月20日(土)よりなんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田ほかにて公開される。東日本大震災後の20XX年を舞台に、新たな大地震と大津波に襲われ、併発した原発事故に翻弄される人々の姿を映し出す。放射能という見えない恐怖によって分断され、変化していく人々の様子を園子温監督ならではの視点で鋭く描き出している。本作の公開にあたり、園子温監督が来阪した。
本作の軸となるのは、道を隔てた隣に住む、酪農を生業とする小野家と、農業を生業とする鈴木家。しかし、大地震が発生し、原発事故が発生、避難区域が設定され、両家の間にある小野家の庭が半径20㎞圏内と圏外を分ける境界となり、鈴木家は避難することに、一方の小野家はその地に留まることになる。前作『ヒミズ』では、ラストシーンで「頑張れ」という台詞を使い、“希望”を表現した園監督だが、本作はその延長線上で作られた作品なのだろうか。
園子温監督(以下、園):この映画は、“希望”を持たざるを得なかった、というところから出発した映画です。『ヒミズ』は原作があるので、青春映画の背景として3月11日以降を描いたんですが、それだけでは終われないと思ったんです。だから、次は3月11日をテーマにして作らなくちゃいけないと思ってこの映画を撮りました。それに加えて、アートや文学、音楽の分野からは様々なメッセージが発信されているにも関わらず、日本映画界が何も発信しない訳にはいかないと、僕が日本映画界から発信しようと思いました。もうひとつ言えば、原発問題が風化しかけているように感じたので、早く作って発信していきたいという思いが絡まって作った作品です。
そのようにして作られた本作だが、特にラストシーンは様々な物議を醸すのではないだろうか。
園:映画の中だけでハッピーエンドにしたところで、現実は何も変わらないので、今回は全編をとおして現実に嘘をつかずに作ろうと思っていました。下手に小細工をして、捻じ曲げてしまうのではなく。極論を言えば僕はこの映画のことは作品だとすら思ってないんです。2012年の増刊号のような映画だと思っているんです。だから、賛否両論が起きても構わないんです。自分が出来る範囲で行動しなきゃいけないと思って、この映画を撮ったので、じっくり腰を据えて作ったのではなく、なるべく急いで作って、急いで公開することを目的に作りました。
「急いで作った」と語る園監督だが、実際に昨年の夏から被災地に入り、約半年間をかけて積み重ねた取材で本作を作ったそうだ。映画の中で、20㎞圏内と圏外が道1本で分断されているのも、その被災地での体験が基となっている。
園:去年の8月頃に宮城~福島を訪れましたが、実際に、20km圏の境界線を目にした時は驚きましたし、不条理だと思いました。映画にも登場しているように、庭をぶった切って境界線が作られているんですよね。こっち側では綺麗に花が咲いているのに、境界線の向こう側には手をかけられないから花も枯れっぱなしです。そういうことを目にしたり、酪農家の方をはじめとした被災地の人たちとの出会いや動物たちとの出会いによってこの映画は作られていったと思います。
「被災地の人たちとの出会いや動物たちとの出会いによってこの映画は作られた」と監督が語るように、監督は実際に被災地で見て聞いたことを基に映画を作っていったそうだ。
園:東京で報道を見たり、本を読みながら脚本を書いていくのは誠実じゃないような気がして、取材をして自分の足で見つけたことしか書かないと決めたんです。なるべく想像力で書かないように、取材の中で知り得た事実を積み重ねてから書いていきました。実際に妊婦さんの話や出会った人から話を聞いていく中で、ふと浮かんだ想像を足すような感じでした。基本的に僕は、まず想像するのではなく事実を聞いて、こういう物語にしようと決めた後で、ある瞬間からフィクションの世界に入っていくんです。
そうして作られた本作に登場する人物は、今までの園監督の映画に登場してきた人物たちと違い、ある意味理想の家族であり、理想の恋人同士、あるいは理想の夫婦像のように思える。
園:今回は原発問題を描きたかったので、あえて理想のような家族像にしたんです。家族問題をこじらせているところに、原発問題まで加わると映画が滅茶苦茶になってしまうし、あえて今までの僕のタッチを消して、誰でも観られるような映画にしたつもりです。後は、こういう原発問題を扱った映画なので、恐怖を煽ったりするのではなく、むしろ冷静に観てほしかったので、今までとタッチを変えました。
確かに今までの園監督の作品とはテイストが違って見える本作だが、『希望の国』という本作のタイトルには、監督はどのような思いを込めたのだろうか。
園:去年の大晦日に福島に入り、今年の元旦は南相馬の海で初日の出を見たんです。その初日の出が、今まで生きてきてこんなに綺麗な初日の出は見たことがないというくらいすごく美しくかったんです。その時に、『希望の国』というタイトルでいいんだと直感的に感じました。それまでは、皮肉を込めて『希望の国』というタイトルにするつもりでしたが、一方で『希望の国』でいいのかという若干の疑問も感じていたんです。でも、その初日の出を見てからは皮肉ではなく素直に『希望の国』でいいのだと思えるようになりました。
前作の『ヒミズ』では、ラストシーンで“希望”を描き、本作ではタイトルに登場している“希望”というフレーズ。監督はやはりこの映画にも“希望”を込めたのだろうか。
園:僕は、映画は観客への質問状だと思っているんです。答えを出すのは観客ですから。この『希望の国』というタイトルが皮肉に思える人もいると思いますし、素直に“希望”を感じてもらえる人もいると思うんです。僕は、この映画に脱原発のメッセージを盛り込んだわけでもないですし、あまり偏らずに客観的な視点で作ったつもりなので、言葉や理屈ではなく、原発のすぐ傍で暮らしていた人たちに何が起こったのかを一緒に体験してもらって、感じてもらえればいいと思うんです。考えるのではなく、感じることで新しい引き出しが生まれることが重要で、それによって現地で何が起こっていたのか想像してもらえれば嬉しいです。
(取材・文:華崎陽子)
(2012年10月22日更新)
その・しおん●愛知県生まれ。1987年、『男の花道』でPFFグランプリを獲得。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』はベルリン国際映画祭正式招待をはじめ、30を超える映画祭で上映された。近年では、『愛のむきだし』(2009)でベルリン国際映画祭カリガリ賞、国際批評家連盟賞を受賞。『冷たい熱帯魚』(2011)も、各国の映画祭に正式出品され、『ヒミズ』(2012)では、主演のふたりに第68回ヴェネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞をもたらすなど、国内外から注目を集める日本を代表する映画監督。本作『希望の国』でトロント国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。近著に本作の原作小説「希望の国」や自身の半生を綴った「非道に生きる」がある。また初期作品を収録したDVD-BOXも発売予定。
●10月20日(土)より、
なんばパークスシネマ、
シネ・リーブル梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.kibounokuni.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158562/