ホーム > インタビュー&レポート > 「僕はこの映画で、言葉にできないものを表現するために 映画が存在していることを再確認しました」 チバユウスケの楽曲にインスパイアされた青春映画 『赤い季節』村上淳&能野哲彦監督インタビュー
The Birthdayのボーカル、チバユウスケによるソロプロジェクト、SNAKE ON THE BEACHの楽曲にインスパイアされて生まれた青春映画『赤い季節』が、テアトル梅田、T・ジョイ京都にて上映中、その後11月17日(土)よりシネ・リーブル神戸にて公開される。殺し屋をやめた男が、過去の闇に引きずられながらも、平穏を手に入れようともがく姿を描き出す。新井浩文が主演を務めるほか、村上淳、新居延遼明、田口トモロヲなど豪華キャストに注目してほしい作品だ。本作の公開にあたり、新井浩文扮する健の殺し屋時代の兄貴分アキラを演じた村上淳と、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」の元マネージャーで、本作が初監督作となる能野哲彦監督が来阪した。
元々、10数年来の交流があった村上と能野監督。まずは、監督から初監督作への出演オファーを受けた時の思いを村上に聞いてみるとー
村上淳(以下、村上):僕は、スターの横には必ずスーパーマネージャーがいると思っているんですが、能野監督こと“のうやん”は、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」を時には熱く時には冷静に、ずっと支えてきた人なんです。だから、僕は“のうやん”が映画を撮ると聞いた時も、チバユウスケをずっと支え続けてきた“のうやん”が本気で映画を撮るというなら、僕は即答しました。僕に声をかけてくれたのはすごく光栄ですし、完成した映画を観た時も、この役を他の俳優が演じていたら悔しかっただろうな、と思いました。チバくんの音楽がここまで使われている、最高の映画の中に自分がいる幸せを感じましたし、だからこそ、これからも自分の中で人に認めてもらえるような何かを保ち続けなければ、次のチャンスも来ないことを痛感しました。
と、監督の人柄を絶賛。そんな“のうやん”こと能野監督が初めて手掛けた映画に出演したことで村上は、新たに感じたことはあったのだろうか。
村上:49歳の新人映画監督ですよ、夢があると思いません? “のうやん”の肩書は、世間から見れば無名の映画監督だと思いますし、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」の元マネージャーですが、彼が本気で映画を作ると言ったことによってここまでの人間が賛同したわけですよ、なんと風吹ジュンさんまで(笑)。キャストやスタッフも敢えて身内で済まそうとしない彼の心意気が、僕は好きなんです。“のうやん”と同じように、僕が49歳になった時に新しいフィールドに飛び込めるかどうかは全く自信はないですが、頑張らないといけないと感じましたね。そういう、仕事という枠を超えた心意気がこの映画には映っているんです。僕はこの映画を観て、言葉にできないものを表現するために映画が存在していることを再確認しました。僕は、ひとりの人間として“のうやん”とずっと付き合ってきましたが、彼の純度の高さにはかなわないんですよね。だからこそ信用できるんです。気が早いかもしれませんし、いつになるかわかりませんが次の監督作が観たいです(笑)。
村上に早くも「次の監督作が観たい」と言われた能野監督。たしかに、初監督作で主演の新井を含め、村上や風吹ジュン、田口トモロヲ、永瀬正敏と錚々たる役者の名前が揃うことは極めてまれ。そんな新井や村上らキャストの魅力について聞いてみるとー
能野哲彦監督(以下、能野):キャスティングは色々考えましたが、新井くんと“ムラジュン”だと思いついた時に、映画のイメージが全部見えたんです。“ムラジュン”が出演してくれたことで周りの俳優の光り方も変化したと思いますし、それによって強面の新井くんがチャーミングに見えてくる瞬間もあると思います。
一方、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』などで新井との共演が続く村上は、新井についてどのように感じているのだろうか。
村上:ここ最近、僕が一番共演している役者が新井くんだと思うんです。それは、どの映画を観ても新井くんが出演しているからなんです。それは本当にすごいことで、監督が脚本を書いたり読んだりした時に、この役は新井くんだとイメージさせているってことなんですよね。そういう役者ってすごく稀なのに、映画を観るとその役は確かに新井くんじゃなきゃできない役なんですよ。それは、仕草が映画になる稀な俳優だからじゃないかと思います。
そのように、新井や能野監督の魅力を惜しみなく語ってくれた村上だが、ここ最近は特に、9月に公開された熊切監督作『莫逆家族 バクギャクファミーリア』や、10月公開の園子温監督作『希望の国』と、出演作が相次いでいる。それについてはー
村上:僕の基本的な仕事の姿勢は、“来た順にやる”なんです。オファーをいただいた順に、仕事が重ならなければ引き受けています。それは、物理的に撮影日数がどうというよりも、その役に挑む準備も含めて、です。僕は、“のうやん”と15年来ぐらいの付き合いになるんですが、その間の僕に何かを感じて、信じてくれたから“のうやん”も僕にオファーをくれたんだと思うんです。それは、他の監督にも言えることで、そこにはきっとシンプルな映画への愛があると思うし、何かを信じている人のことは信じられるから僕もオファーを受けて、出演させてもらっています。
最後に、この映画を作るきっかけとなったチバユウスケの音楽について、能野監督に語ってもらった。
能野:チバが映画に音楽をつけたというよりは、音楽の方が先にあったんです。あいつが作った音楽を煮るなり、焼くなり好きにしていいという感じだったので、そういう意味で一般的な映画音楽とは順番が違っていました。チバの音楽を聴いていた時は、どんなビジュアルかまでは思い浮かんでいませんでしたが、オープンニングとエンディングは最初から固まっていました。そこから、殺し屋だったり、たき火やピストルなど、自分の好きな映画に出てきた要素を入れながらイメージを繋げていきました。僕の好きな映画には、常にかっこいい音楽が流れていましたし、この映画でざわっとするものを観客の方に感じてもらえたら嬉しいです。今は、携帯で音楽を聴いたりしますが、僕は映画館で流れるぐらいの音量で音楽を聴いてもらいたいんです。そうじゃないと伝わるものも伝わらないと思います。
(取材・文:華崎陽子)
(2012年10月25日更新)
●テアトル梅田、T・ジョイ京都にて上映中
●11月17日(土)より、
シネ・リーブル神戸にて公開
【公式サイト】
http://sotb-project.com/akaikisetsu.php
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159663/