ホーム > インタビュー&レポート > 笑いとほんの少しのラブストーリーを織り交ぜた、 予測不可能な展開が待つ内田けんじ監督最新作『鍵泥棒のメソッド』 内田けんじ監督、堺雅人、広末涼子来場会見レポート
『アフタースクール』の内田けんじ監督が、堺雅人を主演に迎えた3年ぶりの新作『鍵泥棒のメソッド』が9月15日(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。自殺を決意した35歳の貧乏役者の男が、ひょんなことから銭湯でやけに羽振りのいい男の荷物を盗み出してしまったことを機に、ヤクザ絡みのトラブルに巻き込まれていく様子がコミカルに描かれる。香川照之、広末涼子が共演し、記憶喪失の殺し屋と婚活中の女性編集者という、個性豊かな人物に扮している。本作の公開に先立ち、貧乏役者の桜井に扮した堺雅人と、婚活中の女性編集者・香苗を演じた広末涼子、そして内田けんじ監督が来阪し、会見を行った。
本作は、人生が入れ替わってしまった性格も風貌も正反対のふたりの男と、生真面目な婚活中の女性編集者が巻き起こす騒動をコミカルに、そしてハラハラドキドキと、ほんの少しのラブストーリーも織り交ぜて描いた内田けんじ監督の最新作。3人が登場し、堺は「非常に素敵なラブストーリーが出来上がりました」、広末は「素晴らしい役者さんとしっかり組ませていただいて、完璧な監督とご一緒できてすごくいい経験ができました」と笑顔で挨拶し、会見は始まった。
堺は、『アフタースクール』に続いて2作目、広末は初めてとなる内田監督作だが、監督の脚本の面白さについて語られることは多いが、監督の演出について語られることは少ない。ふたりに、監督の演出について聞いてみるとー
堺雅人(以下、堺):監督の演出がスマートすぎて我々の記憶に残っていないから、監督の演出について語られていることはあまりないと思うんですが、演出は本当に的確で、正解が常に監督の頭の中にあるので、監督に言われたとおりに僕は動いていました。だから、記憶に残るような不愉快なこともなかったし、物議を醸すようなトラブルもなく、つつがなく撮影は進みました。でも、監督がいつも楽しそうにしてらっしゃったのは印象に残っています。
広末涼子(以下、広末):内田監督は迷いがない方なので、監督の頭の中にあるイメージにどれぐらい近づけられるかという作業でした。監督が演出の時におっしゃる言葉も比喩が多かったので、「脚本を書かれる方ならではの発想だな~」と思ったことと、撮影初日に監督がすごく嬉しそうな顔で「僕の書いた台詞をしゃべってくれている」とおっしゃっていて、すごく作品を愛してらっしゃる監督という印象が残っています。その時に、監督が何年もかけて練りに練った言葉を役者が話していることに対しての監督の充実感が伝わってきて、すごく責任ある役をいただいたんだと思いました。
堺:僕は、比喩なんて言われたことないですよ(笑)。
内田けんじ監督(以下、内田):そうですね。若干広末さんのことは贔屓していました(笑)。
では、デビュー作である『運命じゃない人』以降、内田監督といえばというぐらい定評のある脚本については、ふたりはどのような印象を持ったのだろうか。
堺:僕は、『アフタースクール』の脚本を初めて読んだ時は、話が込み入りすぎて、正直訳がわからなかったんです。でも、今回は1回で意味がわかったことに安心しましたし、技巧を凝らしたミステリーの部分を残しつつも、そこに1本筋の通ったラブストーリーという柱がある、内田監督が3年の月日をかけた結晶なんだと思いました。
広末:私も、楽しく、あっという間に脚本を読み終えてしまったので、ワクワクしながら現場に入りました。でも、初めて香川さんと堺さんと3人で取材を受けた時に、私が「大人のシュールな笑いもありながら、内田監督ならではのどんでん返しの予感も秘めている、ピュアなラブストーリーだと思います」と言ったら、おふたりが「えっ!?ラブストーリー??」ときょとんとされていたんです。おふたりはきっと性格が入れ替わることに比重を置いてらっしゃったからだと思うんですが、念のため監督に確認したら「ラブストーリーです」とおっしゃってくださって、ほっとしました。出演者でもそれぐらい受け止め方が違うので、どの視点で観るのかで見方が変わる映画なんだと思いました。
堺:僕、今日の最初の挨拶で「素敵なラブストーリーが出来上がりました」って自信たっぷりに言いましたよ(笑)。広末さんに教えてもらったのに、最初からわかっていました、みたいなフリして(笑)。
内田:どんどんボロが出てきますね(笑)。
監督に「どんどんボロが出てきた」と言われながらも、笑顔を絶やさない堺。そんな堺演じる桜井は、現在無職状態の売れない役者で、演技論の分厚い本を買っても最初の何ページかしか読まない適当な男。そんな堺扮する桜井が、ラストシーン近くで見せる下手な役者が一生懸命演じている様には、思わず笑みがこぼれるはずだ。そのシーンについて堺に聞いてみるとー
堺:あれは、本気です。下手に演じようなんて1mmも思っていませんでした。本気でやったのに、結果下手に見えてしまったんです。
広末:あの演技は「どうやったらこんな芝居が出てくるんだろう」って、香川さんも驚かれていましたよ。
堺:本気なんです(笑)。
内田:下手というか、浅はかなんですよ(笑)。
広末:見ていて恥ずかしくなるんです。それを迷いなくされた堺さんがすごいと思います。
堺:「見ていて恥ずかしくなる」と言われたのはショックだな…(笑)。
3人の掛け合いからも、撮影現場の雰囲気の良さが伝わってくるが、最後に会見には不在だった香川照之の印象をふたりに聞いてみるとー
広末:ワンテイクでOKになることはほとんどなかったので、テイクを重ねることが多かったんですが、香川さんはテイクを重ねても「もう1回できるんだ、嬉しい」とおっしゃっていて、それがすごく印象的でした。もう1回撮影することに対するプレッシャーを全く感じずに、みんなで作っていくワンシーンワンシーンの充実感を楽しんでらっしゃったのが印象に残っています。
堺:僕は、相手役が香川さんだったので、演技合戦になると非常に不利だと思って、なるべく肩の力を抜いて、香川さんと張り合うつもりがないことをアピールしていました(笑)。それと、「役者が現場でできることって実はそんなにないんだよね」と香川さんがおっしゃっていたのが印象的でした。現場以外で準備してきたことや生き様、人柄みたいなものが出る、という話だったと思うんですが、その時に、常に全力で現場に挑む香川さんの人柄を感じたことを思い出して、先ほどの広末さんの話と繋がる部分があると思いました。後、印象に残っているのは衣装ですね。香川さんに絶対似合わない衣装を監督と一緒に選んだのに、どんどん着こなしていかれて、がっかりしました(笑)。
内田:あの衣装合わせは楽しかったですね(笑)。
お互いをリスペクトしている様子が伝わってくる、最後まで笑いの絶えない会見だった。内田監督と堺が選んだ微妙にダサいファッションをまとった香川照之や、迫真の演技のはずなのにちょっと嘘っぽい演技を披露する、売れない役者に扮した堺雅人、真面目に努力すれば結婚できると信じている、無表情な女性編集者を演じた広末涼子のコメディエンヌっぷりなど、見どころ満載のエンタテインメントムービーの登場だ。
(2012年9月13日更新)
●9月15日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開
【公式サイト】
http://kagidoro.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157854/