ホーム > インタビュー&レポート > 「“諦めなければ絶対にできる”と言い聞かせて、 なんとか映画を完成させました」年齢も職種もバラバラな男女が アメリカ大陸を4200キロにわたって駆け抜ける姿を映す ドキュメント『DON'T STOP!』小橋賢児監督インタビュー
現在俳優業を休業中の小橋賢児初監督作品となるドキュメンタリー『DON'T STOP!』が、9月15日(土)よりテアトル梅田にて公開される。交通事故により下半身と左腕の自由を失った“CAP”と様々な分野で活動する高橋歩が、“CAP”の家族や仲間たちと共に、アメリカ大陸を4200キロにわたって駆け抜ける姿を描く。“CAP”と高橋、そして年齢も職種もバラバラな男女が時にはぶつかり、励まし合いながら旅を続けていく姿に心動かされる作品だ。本作の公開にあたり、小橋賢児監督が来阪した。
2007年に俳優活動を突如休止し、アメリカに留学していた小橋。俳優としてTVや映画などで活躍していた彼が、何故ドキュメンタリー映画を撮ったのか。まずは、映画を撮ることになった経緯について聞いてみるとー。
小橋賢児監督(以下、小橋):僕は、8歳からずっと芸能界にいたんですが、他にやりたいと思ったことがあっても、日々の忙しさや環境を言い訳にして、自分自身が閉じているように感じたんです。さらに、それだと苦しいから感覚を麻痺させて、言わば不感症のようになっていたと思います。でも、20代も半ばになって、自分の30代を想像した時に、それなりの生活やポジションがあったとしても、それは本当の幸せじゃないんじゃないかと感じて怖くなったんです。それで26歳の時に想像もつかないようなところに行きたいと思ってネパールに行ったんです。そうしたら、偶然同じ歳の男の子と出会って、僕が夕陽を見るのが好きなことを知って、丘の上にバイクで連れていってくれたんです。そうしたら、その子の背中がとても大きく見えて、なんだか感動して号泣してしまったんです。それで、日本に帰ってきたら価値観が変わってしまって、もっと自分の人間力を高めたいし、自分の可能性を探りたいと思って俳優を休業したんです。それからアメリカに行って英語を勉強したり、旅をしている内に、自分の感じた感動を人に伝えたいと思って旅の映像を編集して人に見せるようになったんです。それから、2年前に高橋歩さんの友人のユウイチさんに出会って、歩さんのトークライブで歩さんを紹介してもらった時に、歩さんが「今度車椅子の不良オヤジと旅をするんだよね」って言った言葉にワクワクしてしまって、僕の口から出たのが「映画を撮らせてください」って言葉だったんです。
思わず「映画を撮らせてください」と言っていた小橋だが、実際に旅行を撮影するにあたっては、“CAP”の許可も必要だったため、すぐに“CAP”に会いに行き、その後1ヶ月程“CAP”の実家で暮らしたそうだ。その理由とは?
小橋:映画を撮らせてもらうのは、あっさりOKしてもらえたんですが、CAPさんはすごく照れ屋で、中々本音を言わないんですよね。そんな状況で10日間の旅に僕が同行してもいいものは撮れないと思って、CAPさんとの見えない距離を縮めるために、旅行前にCAPさんの実家で1ヶ月ぐらい一緒に生活させてもらいました。その中で、CAPさんは車椅子が物理的な障害にはなっているけど、一番の問題は車椅子が言い訳の理由になっていることだと思ったんです。CAPさんが「車椅子だから夢はかなわない」って言っている姿が、若かった頃のできない言い訳ばかりしていた自分の姿と重なって見えました。
そんなきっかけで10日間の旅を撮影し、映画にすることを決めた小橋。本作は、アメリカの雄大な自然や“CAP”と高橋の交流、年齢も職種もバラバラな男女による行き当たりばったりの旅など、見どころはたくさんあるが、ナレーションは一切入っていない。ナレーションを入れなかった理由とは?
小橋:ナレーションも編集の段階でつけてみたりもしたんですが、ナレーションを入れると観てくださる方に答えを押し付けてしまうと思ったんです。僕は、この映画は何かに気付くきっかけだけでいいと思ったんです。答えは、観ていただいた方それぞれの人生の中で出してもらえばいいし、もっと説明すればわかりやすくなったとは思うんですが、それだと受身になってしまうし、観てくださる方が旅の参加者のひとりになってほしいし、この映画の中で冒険してほしいと思ったので、ナレーションは付けないことにしました。
さらに、本作には年齢や職種もバラバラな男女による旅だけに、いくつか生々しい本音をぶつけ合うシーンが登場する。その中には、目をそむけたくなるようなシーンもあるのだが、そこは小橋がこだわったところのようだ。
小橋:観てくださる方それぞれの境遇によって、感情移入する人物が違うと思うんです。それは、お母さんだったり娘さんだったり、歩さんだったりすると思うんですが、僕はそこに色んな自分がいるような気がしましたし、色んな自分を模索しているような感覚で編集しました。人間って感情的になった瞬間は恥ずかしくても、後になってみればそれが成長の過程だったりすると思うんです。そこを包み隠さず映すことで、もしかしたら誰かを助けることもあるかもしれないですよね。それに、日本人のいいところでもあり、悪いところでもあると思うんですが、本音を押し隠してなんとなく収めようとするんじゃなくて、言いたいことを包み隠さず言うことで、世界が広がることってあるんだと思いましたし、それは僕にとっても勉強になりました。
映像を編集した経験はあっても、映画を作ったこともなかった小橋が、この旅を映画にでしようと思ったのはなぜだったのだろうか。そこには、この映画のタイトルに込めた小橋の思いがあった。
小橋:それは、最初の直感ですね。もちろん映画作り自体が、映画を作ったこともない僕にとっては旅だと思っていたので、旅の始まりとゴールはわかっていたんですが、その旅自体がどうなるのかは全くわからないから、不安になった時は「諦めなければ絶対にできるんだ」と言い聞かせて、なんとか映画を完成させました。
(2012年9月13日更新)
●9月15日(土)より、テアトル梅田にて公開
【公式サイト】
http://dontstop.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157947/
【テアトル梅田公式サイト】
http://www.ttcg.jp/theatre_umeda/
【日時】9月15日(土) 12:30の回上映後
【劇場】テアトル梅田
【登壇者】小橋賢児監督(予定)
※チケットの詳細は劇場HPまで。