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「男たちがかっこいい映画なので、そこを楽しんでもらえたら嬉しいです」
熊切和嘉監督のもとに徳井義実、阿部サダヲら
日本映画界を代表するオールスターキャストが集結!
『莫逆家族 バクギャクファミーリア』熊切和嘉監督インタビュー

 徳井義実が、かつて伝説の暴走族のリーダーだった男を演じる『莫逆家族 バクギャクファミーリア』が梅田ブルク7にて現在公開中だ。監督は、前作『海炭市叙景』であまりの完成度の高さに日本中の映画関係者をうならせた熊切和嘉。人間の悲しみを淡々と描いた前作は真逆の、仲間を、家族を守るために荒々しい魂をむき出しにする男を描く本作にも監督の映画への思いがこもる。来阪した監督に話を訊いた。

 

――監督にこの作品のオファーがきたのは?

 

熊切和嘉監督(以下、熊切と表記)前作の『海炭市叙景』を撮る前でした。こういう原作があるんだけど、どうかなという感じで。

 

――原作を読んでみて、どう思われました?

 

熊切:『海炭市叙景』が落ち着いた映画になるってことはわかっていたので、そのすぐ後にアクション満載の不良ものというのは振れ幅が大きすぎないかという不安はあったのですが、原作を読んでみると現役ではなくかつての不良たちの物語で、そんな過去に捕われている男たちの姿には共感できるものがありましたから、これならやってみたいと思いました。

 

――その、過去に捕われている人間たちですが、大学の卒業制作で監督の名を一躍知らしめた『鬼畜大宴会』から前作の『海炭市叙景』まで、実は熊切作品にずっと通底している題材のように思うのですが?

 

熊切:そうですね。僕は広くないんです、やりたいことが。これどうって渡された原作に全然惹かれないこともあるし。結局、どこかに取り残された人々や、取り残された町の風景に魅力を感じる。そして、そういった人や物が過去から脱却を図ろうとする物語を肯定するというか、背中を押してやりたくなるんです。

 

――この原作に惹かれたのは、ここにはそれがあると感じられたからですね。

 

熊切:一番の理由はそうです。あとは、さきほどの『海炭市叙景』の後で不安に感じたという話と少し矛盾するかもしれませんが、不安に思った一方で、ついに東映の三角マークのもと、不良性感度満載の作品が撮れるのかと、ワクワクする思いが立ち上がってきたのも本当なんです。僕ら中島一派ですから(笑)。

 

――大阪芸大の学生時代、東映出身の中島貞夫監督に教わっていたんですよね。

 

熊切:そうです。三角マークというのは東映映画のオープニングに現れる社名マークのことですが、あのマークのついた映画で不良たちの大乱闘シーンが撮れる。これは学生時代から、いつかはやってみたいと思っていたことだったので「ついにキター!」って感じでしたね(笑)。

 

――ヤンキー映画と呼ばれるような、いわゆる不良少年たちを主人公にした暴力的なシーンのある作品は、以前から好きだったのですか?

 

熊切:暴力的な作品が、というよりも、男っぽい映画が好きでした。西部劇のような。

 

――ジョン・フォードやハワード・ホークスですか?

 

熊切:どちらかというとサム・ペキンパーやセルジオ・レオーネですね。

 

――やっぱりけっこうバイオレンス派ですね(笑)。主演がチュートリアルの徳井さんというのもちょっと意外だったのですが。このキャスティングは決まっていたのですか?

 

熊切:僕がオファーを受けたときにはまだ未決定でしたが、割りと早い段階で決まったと思います。

 

――徳井さんで決まったときにはどう思いました?

 

熊切:本人も言われていますが、これまで不良や、ヤンキーと呼ばれる人たちとは全く接点なしに生きてきた方なので、会うまでは大丈夫かなという不安もありました。でも、初めてお会いした時に、彼でいこうと思いました。

 

――それはどうしてですか?

 

熊切:初顔合わせのとき、僕も徳井さんも人見知りなのでふたりともあまりしゃべらなかったんです。でも、目が良かった。捨てられた子犬のような悲しそうな瞳で(笑)。居場所がないような感じ。その瞳が、物語の後半の大事な部分での主人公のイメージと僕の中で重なったんです。なんて言うのかな、徳井さんの存在のあり様に“せつなさ”があった。僕は、映画俳優に欠かせないのは“せつなさ”だと思っているので。そんな徳井さんの姿をみたとき、いけるなと思いました。

 

――体はずいぶんがっしりしていましたね。

 

熊切:ええ、かなり鍛えてもらいました。筋肉をつけてもらい、背中などはふたまわりぐらい大きくなった印象でした。徳井さんは本当に頑張ってくれました。アクションのトレーニングもしっかりやってもらって。

 

――撮影に入ってからはどうでした?

 

熊切:徳井さんは、映画の現場にそれほど慣れていない分、フラットに構えてくださっていて、「ちょっとこうやってみましょうか」というこちらの指示に「なんとなくわかります。やってみます」という感じで対応してくださいました。彼は、すごく真面目なので、すごくやりやすかったです。むこうが信頼してくれているのが解るので、そうなるとこっちもどんどん良く撮らなきゃと思いますし。ただ、最後の決闘シーンは無理させたなーと思いますが。

 

――村上淳さんとの決闘シーンですね。真冬に、建物の中だというのに水浸しになって殴り合うという…(笑)。

 

熊切:撮影の後、徳井さん「トラウマになった…」って言っていました(笑)。体力・気力ともに限界を超えている感じでしたから。でも、それが狙いでもあったんです。芝居を越えた本当の必死な顔が撮りたかったから。

 

――あのシーンだけでも見応え充分です。この映画には他にもいい俳優さんが大勢出演なさっているのですが、特に印象に残った人はいますか?

 

熊切:皆な個性的で素敵でしたから特にこの人がというのはないのですが、あえて言えば、阿部サダヲさんの身体能力の高さには驚きました。普段は物静かな人ですが、キレる芝居とかやってもらうと、ここまでできるんだってカメラ越しにびっくりしました。あと中村達也さんはやっぱりかっこよかった。

 

――映画の後半では、これまでにないような役を演じていますね。

 

熊切:ええ。今まではどの映画でもロックンローラーのイメージなんですね。だから、今回はなにか違う面を出したかった。僕も最初は達也さんのこと怖かったんですけど(笑)。思い切ってかっこ悪い役をやってもらったんです。でも、結局かっこよかったけど(笑)。ただ、本人はすごく喜んでくれて、うれしかったです。

 

――それにしても、本当に大勢のいい役者さんが出ていますよね。30代・40代のかっこいい男たちが結集した感じ。これは監督の希望だったんですか?

 

熊切:そうですね。実は前作の『海炭市叙景』は、『アンテナ』で主演してもらった加瀬亮くんとか、『青春金属バット』の竹原ピストルさんとか、以前にご一緒した人たちともう一度がっつり組んで撮りたいという気持ちがあって、それがうまくいった。それで今回は、『フリージア』に主演してくれた玉山鉄二くんや何度か一緒に仕事している村上淳さんに加えて、彼らと同じく自分と同世代の井浦新くんとか大森南朋さん、少し年下の新井浩文くん、さらに若い林遣都くんに石田法嗣くんといった、ずっと気になっていた人たちを一遍に集めて仕事したかったんです。

 

――実際に撮ってみてどうでした?

 

熊切:人数が多い分大変でしたけど、すごく楽しかったですね。皆さん俳優として一流で確かな手応えがありましたし。徳井さんや阿部さんたちが現役の暴走族だったころの集会シーンなどは、わざと年代とか曖昧にして、シーンそのものを少し現実離れした、いわばファンタジーのような、すでに失われてしまった少年たちの世界、といった感じで作ったんですが、面白かったです。こういうシーンを楽しんでしまう、自分自身の、映画への無邪気な愛情が出ちゃってます。

 

――出演者の人たちとはプライベートでも仲良くなったりしたんですか?

 

熊切:そうですね。飲み友達が一気に増えました(笑)。2、3日前も新井くんや達也さん、林くんらと朝まで飲んでいました。

 

――あれだけの人数の俳優さんが出ているのに、皆な映画のなかでキャラが立っている。監督と俳優の、仲がいいだけではない、思いがぶつかりあっている感じを受けました。

 

熊切:そうなっているとうれしいですね。乱闘シーンをほとんど雨の中にしたのも、背景から情感を高めていきたかったからなんです。ともかく男たちがかっこいい映画なので、そこを楽しんでもらえたら、と思います。

 

(取材・文:春岡勇二)




(2012年9月10日更新)


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熊切和嘉監督

Profile

くまきり・かずよし●1974年、北海道生まれ。大阪芸術大学の卒業制作『鬼畜大宴会』(1998)が、第20回ぴあフィルムフェスティバルにて準グランプリ、第28回イタリア・タオルミナ国際映画祭グランプリを受賞。また、第48回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式招待他、10カ国以上の国際映画祭に招待される。その後、『空の穴』(2001)、『アンテナ』(2003)、『青春☆金属バット』(2006)、『フリージア』(2007)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(2008)、『海炭市叙景』(2010)など、次々と話題作を発表。国内外から注目を集める若手映画監督。

Movie Data




(C)2012「莫逆家族」製作委員会

『莫逆家族 バクギャクファミーリア』

●梅田ブルク7ほかにて上映中

【公式サイト】
http://bakugyaku.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156083/