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ホーム > インタビュー&レポート > 「今回のメンバーが、2011年の時点で 高校生に見える俳優たちの中での日本代表だと思っています」 朝井リョウのデビュー作である同名小説を重層的に映像化した 『桐島、部活やめるってよ』吉田大八監督インタビュー

「今回のメンバーが、2011年の時点で
高校生に見える俳優たちの中での日本代表だと思っています」
朝井リョウのデビュー作である同名小説を重層的に映像化した
『桐島、部活やめるってよ』吉田大八監督インタビュー

 第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー作である同名小説を、『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』の吉田大八が監督・脚本を手がけて映画化した『桐島、部活やめるってよ』が、梅田ブルク7ほかにて公開中だ。学校のスターでバレー部のキャプテン・桐島の退部のニュースに振り回される、神木隆之介演じる映画部員の前田や、橋本愛扮するバドミントン部のかすみたち同級生たちの日常の変化が描かれる。本作の公開にあたり、吉田大八監督が来阪した。

 

 本作は、桐島の不在を発端に振り回され、変化していく高校生たちの日常を、女子グループやバレー部、帰宅部、吹奏楽部、映画部それぞれの視点から、校内ヒエラルキーとともにリアルに描いた学園ドラマの傑作だ。原作の瑞々しさはそのままに、学生たちの心情を重層的に描いた本作だが、監督に原作を読んだ時の印象を聞いてみるとー

 

吉田大八監督(以下、吉田):本屋さんに単行本が並んでいるのを見て、すごく目立つ装丁だったし、タイトルも変わっているし、自分の子どもが読みそうな本だと思って、正直、全く自分と接点を感じるところはなかったんです。それがいきなり、監督の話をいただいて目の前に出てきたので、街で見かけた可愛い女の子が自分の子どもだったと言われるぐらいのギャップと驚きがありましたし、正直、どう断ればいいのかと思ったぐらいでした(笑)。でも、宏樹と前田が出会う場面を読んで、すごくいいシーンだと思ったし、自分もゴールはそこだと思ったんです。ここで終わる映画だったら自分にもできると思ったし、やってみたいと思いました。ただ、小説は細かく気持ちを綴って描かれているので、小説と同じルートを辿らずに、自分でルートを作っていって、ゴールは同じというように作っていけばいいんだと気付いてからは、積極的に考えるようになりました。

 

桐島_photo.jpg

 監督は当初、戸惑いも感じていたようだが、原作の小説から映画へはどのようにアプローチしたのだろうか。

 

吉田:映画では小説で出てくる心情描写がない分、出来事の積み重ねの中で色んな表情を見せていくことでしか同じゴールにはたどり着けないと思ったんです。朝井さんは若いですが、相当な言葉の使い手ですし、そこに引っ張られそうになるんですが、そこに色気を出したら絶対に映画は変なところにはまり込むと思ったので、むしろゴールは一緒だと割り切れたことで、吹っ切れました。いつもそうあろうとしてるんですが、僕は小説を読んだら、自分の中にある読後感だけに忠実にシナリオを書くようにしているんです。だから、僕の中では映画のようになればいいと思っていたんだと思います(笑)。読者は絶対に都合のいいように読んでいると思いますし、作者の意図どおりに読むことはないので、ある意味、積極的に読み違えるというか。小説のままに映画化しても、だったら小説の方が良かったと言われるのだけは嫌なので、読み違えの芸を見てもらう感覚ですね。どうしたってオリジナルは小説で、僕はそれを預かる立場なので、原作者を怒らせない程度に誤解しました(笑)。僕は、原作にどれぐらい忠実であるかということよりも、映画そのものとして価値を持つかどうかの方が、結局は小説にとって意味があるんじゃないかと思っています。

 

 そのように映画化へとアプローチし、脚本を完成させた後、今回監督が一番大変だったと語るのがキャスティングだ。特に、高校生役を演じてもらう若手俳優たちと準備に時間をかけたことが、この映画にとってとても意味のあることだったと監督は語る。

 

吉田:キャスティングをする前に、こういう人がいいという話はするんですが、結局会ってみないとわからないんですよね。特に、こういう若い世代は、彼らの仕事をそこまで目にしてないので、会ったら印象も違いますし、今回はたくさん会わせてもらいました。僕も、若い俳優たちとこれだけ一緒に仕事をするのが初めてだったので、撮影に入る前にワークショップをしたり、色々やってもらいました。それによって、撮影前に若い俳優たちとの距離のとり方がわかってきたので、その面ではすごく助かりました。キャストの組み合わせを選ぶのにも時間をかけたので、そういう意味では、今回のメンバーが2011年の時点で高校生に見える俳優たちの中での日本代表だと思っています。これでワールドカップに出るんだ、ぐらいの意気込みで時間をかけて選びましたから(笑)。ここまで時間をかけたことは、僕も初めてでしたし、その時間がすごく大切でした。そこで勝負が決まると思っていましたから。

 

 そうして練りに練ったキャスティングで実現された本作でポイントとなるのは、高校生独特のヒエラルキー。それを、大人が観ても学園ドラマにありがちな仲間はずれ感を感じることなく楽しめるものにするには、色々と試行錯誤があったのだろうか。

 

吉田:そこはあまり考えませんでした。みんな、高校生だったわけですからね。高校時代を通過してきた人に、「こうだったよね」と言う方がたぶん楽で、逆に今の高校生に共感してもらう方が難しいんじゃないかと思うんです。でも高校生に限らず集団であれば、この映画と同じようなことはあると思うんです。会社でも幼稚園でも、ママ友のグループであっても、日本人の集団ってそんなに変わらないですよね。原作者と全く違う僕が原作を読んで琴線にふれるものがあったわけだから、そこはあまり考えなかったです。僕より上の世代のことはわからないですが、僕と彼の間の世代は心配しなくていいと思えば、気が楽じゃないですか(笑)。

 

 また、本作は女子グループやバレー部、帰宅部、吹奏楽部、映画部それぞれの視点から描くことで、誰が主役かわからない面白さも秘めている。それによって、観る者によって主役が変わってみえる面白さもあるとともに、登場人物それぞれの悩みを盗み見ているような感覚に陥り、不思議な観賞体験となる人も多いはずだ。

 

吉田:誰かの視点に偏らないことが、この物語の一番いいところだと思うんです。大人になると、あの頃良かったよねって言う人も多いけど、高校時代って、地獄だった人もいるだろうし、複雑だし、色んな意味でしんどいだろうし、そのしんどさをシンプルに描くのは嘘になってしまうと思ったんです。それぞれの人間の問題は5日間で解決はしないし、何も変わらないけど、大きな出来事が起こって同じ日常が続いていても、その出来事の前と後では決定的に何かが違うんだという決着がつかない中でも、それぞれが感じたことには等しく価値があることがすごく大事なんだと思います。うまく言えないですが、僕は、誰にでも埋めがたい悩みがあるということが、この映画で一番大事なことだと思ったんです。学校の中の関係が永遠に続くわけではないに、学校の中にいると気付かないんですよね。誰かの視点に立ってしまうと、何かが変わったり、気持ちに決着がつくように描いてしまうので、それはあまりにも都合がよすぎるし、少なくともこの物語には合ってないと思ったんです。この映画に関していえば、できるだけ可能性を感じさせる整理されていない状態のままで、観ている人に余韻を持ち帰ってもらうのが一番いいと信じて作りました。それが感動なのか何なのかは、観ている人に委ねますが、そこは時間をかけて反芻してもらいたいですね。

 

 本作にはたくさんの魅力があるのだが、映画好きの方にぜひ注目してもらいたいのが、神木隆之介演じる映画部員の前田と、前野朋哉扮する同じ映画部員の武文の会話だ。特に、武文が発する台詞には映画好きならクスっと笑ってしまうものが多く、キャラクターも生き生きと描かれている。吉田監督に、それについて聞いてみると、「台詞の面白いところに関しては、脚本家の喜安さんが舞台の人なので、笑いをとるテクニックがうまいんです。キャラクターが生き生きしているのは、やっぱり喜安さんが書かれた台詞に生命力があるからだと思います」とのこと。ぜひ、そこにも注目して、桐島に振り回されながら映画を楽しんでください!




(2012年8月23日更新)


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吉田大八監督

Profile

よしだ・だいはち●1963年、鹿児島県生まれ。1987年にCM制作会社のティー・ワイ・オーに入社。以降、CMディレクターとして数々のCMを手掛ける一方、ミュージックビデオやTVドラマなども演出。2007年に初めての長編劇場映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を監督。数々の映画祭で作品賞や監督賞を受賞し、話題を呼ぶ。その後も、『クヒオ大佐』(2009)、『パーマネント野ばら』(2010)と監督作を発表し、本作が4本目の監督作品となる。

Movie Data


(C)2012「桐島」映画部 (C)朝井リョウ/集英社

『桐島、部活やめるってよ』

●梅田ブルク7ほかにて上映中

【公式サイト】
kirishima-movie.com

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158438/