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「この映画は、“死”を振り切る決意表明のような映画なんです」
『青い春』の豊田利晃監督が、藤原竜也×松田龍平競演で描く
死生観とは? 『I'M FLASH!』豊田利晃監督インタビュー

 『青い春』(2001)や『ナイン・ソウルズ』(2003)などの作品で絶大な支持を得ている豊田利晃監督が描く人間ドラマ『I'M FLASH!』が9月1日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかにて公開される。新興宗教団体の若き教祖が、ある交通事故をきっかけに辿る過酷な運命が描かれる。主演は『カイジ』シリーズなどで確かな演技力をみせる藤原竜也。彼が愛する女性を昨今活躍がめざましい水原希子が、彼を狙う殺し屋を松田龍平が好演するなど、若手個性派キャストが名を連ねている。本作の公開に先立ち、豊田利晃監督が来阪した。

 

 本作は、藤原竜也演じる新興宗教団体“ライフイズビューティフル”の教祖・吉野ルイと、水原希子扮するルイが出会った謎の美女・流美が、ドライブ中に交通事故に遭い、流美が植物状態になってしまったことから起こるドラマが描かれている。舞台は、藤原扮するルイが避難した南の孤島で、そこに教団から送り込まれた松田龍平演じる3人のボディガードとルイの関係が変化していく様が映し出されている。まずは、映画のイメージはどこから生まれたのだろうか。

 

豊田利晃監督(以下、豊田):元々、宗教家とボディガードの映画をやりたかったんです。それと、クリシュナムルティという、20代で3000人以上も信者がいた教団を解散させた宗教家がいるんですが、彼が本当に美少年で、竜也に似てるんです。インド人ですが(笑)。そういう色んなことが自分の中で結びついたんです。もうひとつは、映画のタイトルにもなっている「I'M FLASH!」という鮎川誠さんの曲をずっと使いたかったので、教祖とボディガードと「I'M FLASH!」で映画を作れるとひらめいたんです。

 

 その宗教家に似ているという主演の藤原竜也だが、藤原自身から「豊田監督と仕事がしたい」と逆オファーをもらうくらい藤原は監督の作品への出演を熱望していたそうだ。藤原と監督との出会いはいつ頃、どのようなものだったのだろうか。

 

豊田:6年ぐらい前に僕が監督で、藤原竜也主演のけっこう大きな映画が動いてたんです。衣装合わせもしていたのに、クランクイン1ヶ月前に流れたことがお互いショックで、その頃から「何かやろう」とふたりで言ってたんですが、中々決まらなかったんです。その後、去年の3月に竜也に会った時に、低予算でいいから年内に1本撮ろうと言って、6月にこの映画を作ることが決まって、9月にクランクインしたんです。でも、去年の7月頃は色んなところに迷惑をかけそうな気もしたし、このまま進んでいいのか迷ったりもしていたんです。そんな時に(原田)芳雄さんが亡くなったんです。ここ5年ぐらいは毎年、2月に和歌山県の新宮で行われている「お燈まつり」で芳雄さんと会っていたんですが、去年の2月に「芳雄さん、次は俺と1本やりましょうよ」って言ったら、「豊田、早くしないと俺死んじゃうぞ」と言われて、「またまた」と言っていたら、本当に亡くなってしまって。そこからは、迷わなかったですね。

 

 本作には間違いなく“生と死”が根底にあるが、監督がこの映画で描きたかったのは生きることへの希望や生きる先にある“光”のようなものだったのではないだろうか。

 

豊田:脚本を考えている段階だった7月に自分の周りで、芳雄さんをはじめ色んな人が亡くなったんです。それが、僕の中ではすごく重かったので、振り切りたいと思ったんです。時代的にも、昨年は東日本大震災があって多くの人が亡くなって、その“死”を振り切りたいと思っている人はたくさんいるんじゃないかと。2011年に映画を撮るということは、東日本大震災の影響からは逃れられないと思ったし、“死”を振り切る決意表明のような映画を撮ることは意味があるんじゃないかと思って、『I'M FLASH!』というタイトルで映画を作ったんです。

 

 また、この映画に出てくる登場人物の言葉の中には、「人生を変えるきっかけなんていっぱいある」「人生は短い。気が付けば取り返しのつかないことだらけなんだ」など、たくさんの印象的な台詞が登場するが、その全てに監督の思いが反映されているように感じられる。

 

豊田:オリジナル脚本って、やっぱり自分から離れることはできないんですよね。映画自体はフィクションでも、そこに描き出されている感情は、ノンフィクションというか、結局、自分が味わってない感情は描けないですし。だから、知り合いにはよく「また自分の映画作っちゃって(笑)」って茶化されます。僕は、基本的には前向きな人間なんですが、なかなか人生は厳しいし、法律も厳しいですよね(笑)。それでも、映画を撮っている時点で前向きですよ。こんな大変な作業、普通だったらやりたくない。『蘇りの血』を撮ったのも、竜也との映画が流れて、蘇ってやると思って撮りましたから(笑)。でも、事件云々からの蘇りだと思われてしまって、誰も気付いてくれなかったんですけどね(笑)。事件の後も、この後どうやって世の中に出ていってやろうかって考えていたぐらい、僕は前向きな人間なんです。

 

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 やはり、本作には監督と藤原竜也の関係性が切り離せないものとなっているようだ。しかし、当の本人である藤原は「監督には憎悪と尊敬の念しかありません」と完成披露試写会で語るなど、監督の演出には色々と物申したいことがあるよう。しかし、本作の藤原はいい意味で映画の中に違和感なく馴染んでおり、今まで彼が出演してきた映画で見せてきた演技とは別人のような演技を披露している。

 

豊田:今回竜也が演じた役は追い込まれる役なので、スタッフ全員の力で竜也を無視したり、色んな手を使って追い込みました(笑)。今まで彼が出てきた映画を観ると、舞台の芝居の延長でやっているような気がして、すごく鼻につくように感じていたんです。それを抜く作業を今回はけっこうやったんですが、意外と彼の中に舞台の芝居が染み付いていたので、そこに彼は苦労したんだと思います。僕は、親切丁寧に「違うよ」「そうじゃないよ」って言っていただけなんですけどね(笑)。藤原竜也は、経験が豊富だから引き出しも多いので、繰り返すたびに色んなことが見えてくるタイプの俳優なんです。

 

 一方、本作が初共演となる藤原竜也と松田龍平の競演にも胸が踊る映画ファンも多いはずだが、藤原は「龍平はぼそっとしゃべっただけでOKなのに、俺は何回も何回もやらされて…」と恨み節。監督は、松田にはどのように演出していたのだろうか。

 

豊田:龍平には、リハーサルで色々言っていましたから。龍平は、本番1回目が一番いい芝居をするんです。それは、経験でわかっていましたから。彼は、2回目、3回目をやってもそんなに芝居が変わらないのに、新鮮味だけ失われていくんです(笑)。結局、演出って人によってアプローチも変わるんですよね。

 

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 そんな藤原竜也×松田龍平の競演に加えて、さらに、本作を映画らしく彩っているのが、『ノルウェイの森』や『ヘルタースケルター』で観客の目を惹きつけた水原希子と藤原竜也のコラボレーションだ。

 

豊田:異質なものどおしが、ひとつの画面に収まるのが映画の面白さですよね。僕は、いつも映画を作る時に、主役を決めたら同じタイプを選ぶんじゃなくて、組み合わせを考えて選ぶんです。全く芝居のタイプが真逆だったり、有り得ないようなコラボレーションが見たいんですよね。それが映画的に見えるんだと思います。希子ちゃんは、『ノルウェイの森』を観て可愛いとは思っていたんですが、テレビで話している姿を見た時に、この子映画と全然違うな、と思ったんです。すごくキュートだし、表情はくるくる変わるし、勘もよさそうだし、動物的な面白さがあって魅力的だと感じて、一緒に仕事をしてみたいと思ったんです。

 

 本作は、藤原、松田、水原ら若手個性派キャストと、大楠道代や仲野茂らベテラン勢、そして映画音楽にもドラムとして参加している中村達也らミュージシャンとの融合も見どころのひとつ。そして、本作だけのために結成された「I'M FLASH! BAND」として、ボーカルのチバユウスケ、ギターのヤマジカズヒデ、ベースのKenKen、ドラムの中村達也が映画音楽を手掛けていることも話題になっている。

 

豊田:そういう組み合わせが映画だと思うし、オーケストラみたいで面白いんですよね。ミュージシャンの方って、みんな自分の中にリズムを持っていて、芝居のリズムの取り方も、普通の役者さんとは全然違いますし、普段からステージに立っているので、度胸はあるんですよね。映画音楽は、まず中村達也をメインに考えて、中村達也のドラムが最初から最後まで鳴り響く映画にしようと思ったんです。そこにギターを入れるなら、僕の映画で音楽をやってくれていたヤマジカズヒデにやってほしいと思って、じゃあベースはKenKenがいいと思って、その面子で主題歌のボーカルを誰にするかと考えたら、チバくんしかいないと思って聞いてみたらやってくれることになったんです。後で考えたら、この4人は全員僕の映画に関わってくれていたんですが、ひとつの作品で合わさったことがなかったんです。それって『I'M FLASH!』だな、と(笑)。

 

 豊田監督が、「“死”を振り切る決意表明のような映画」と語ってくれたとおり、本作には様々な“死”の描写はあるものの、それを振り切って生きる周りの人たちが描かれることで、“死”から解き放たれる映画となっている。劇中に登場する、藤原竜也演じる教祖・ルイが素もぐりでもぐった海の中から見える光は、まさに監督自身が感じた“生きるための希望の光”だったのではないだろうか。




(2012年8月30日更新)


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豊田利晃監督

Profile

とよだ・としあき●1969年、大阪府生まれ。1991年に、阪本順治監督作『王手』の脚本家として映画界デビュー。その後、千原浩史主演の『ポルノスター』(1998)で鮮烈な監督デビューを果たし、日本映画監督協会新人賞を獲得。2001年には、3人の格闘家たちを追った長篇ドキュメンタリー『アンチェイン』も世界各国の映画祭に呼ばれ、評価を得た。そして松本大洋の人気コミックを映画化した『青い春』(2001)を発表。松田龍平、新井浩文を主演に迎え、若い世代から絶大な支持を獲得。続いて、松田龍平主演で9人の脱獄囚たちを描いた『ナイン・ソウルズ』(2003)、角田光代原作、小泉今日子主演の『空中庭園』(2005)などで高評価を獲得。その後も『蘇りの血』(2009)、『モンスターズクラブ』(2011)など作品を次々に発表するなど、若手俳優からの逆オファーが絶えない、常に次回作が待たれる映画監督のひとり。

Movie Data



(C)2012「I'M FLASH!」製作委員会

『I'M FLASH!』

●9月1日(土)より、シネ・リーブル梅田ほかにて公開

【公式サイト】
http://www.imflash-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158576/