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「杉井ギサブローの軌跡が日本アニメーションの歴史なんです」
日本が誇るアニメーション監督、杉井ギサブローの軌跡を追った
ドキュメンタリー『アニメ師 杉井ギサブロー』石岡正人監督インタビュー

 日本のアニメーションの黎明期から現在まで常に第一線で活躍し続けるアニメーション監督、杉井ギサブローの哲学に迫ったドキュメンタリー『アニメ師 杉井ギサブロー』が、7月28日(土)より京都みなみ会館にて、晩夏より第七藝術劇場と神戸アートビレッジセンター公開される。『鉄腕アトム』や『タッチ』『グスコーブドリの伝記』など数々の作品を世に送り出してきた杉井監督の創作に対する姿勢や想いを、監督を知る関係者の発言を交えて描き出す。本作の公開にあたり、『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』でAV界の偉大なるカリスマ・代々木忠の内面に迫った石岡正人監督が来阪した。

 

 『ルパン三世』のテレビアニメを企画し、『どろろ』をはじめ手塚治虫のアニメを手がける虫プロダクションの作品を数多く手がけ、あだち充原作のテレビアニメ『タッチ』の総監督を務め、最近では映画『あらしのよるに』や映画『豆富小僧』の監督を務めるなど、杉井ギサブロー自身の人生がまさにアニメーションの歴史であると言っても過言ではない。本作は、そんな彼の生き様をたどるとともに、彼が手がけた作品の魅力にも迫っていく。まずは杉井との出会いについて石岡監督に聞いてみるとー

 

石岡正人監督(以下、石岡):ふたりとも映画監督協会に所属していて、その会で知り合ったのが7、8年前です。僕はリアルタイムで劇場で観て泣いていたぐらい『銀河鉄道の夜』(1985)が大好きだったので、ものすごい人とご一緒できることに興奮していました。それから杉井さんとお話していくうちに、『鉄腕アトム』や『どろろ』の話をお聞きして、杉井さんが手掛けていた作品が、僕が好きなアニメばかりだったので、びっくりしましたし、改めてすごい方だと思いました。

 

 では、そのように「改めてすごい方だと思った」と語る杉井の生き様を追ったドキュメンタリー映画を撮ろうと思ったきっかけは何だったのだろうか。

 

石岡:杉井さんと話をしていると、妙に話が合ったんです。僕は「実写が漫画を真似ている」と感じていたんですが、杉井さんも同じ考え方で、その頃がちょうど京都精華大学のアニメーション学科が立ち上がる時だったんですが、なぜか実写の映画監督である僕が講師として呼ばれたんです。杉井さんは、実写や色んな分野の考え方をアニメーションに取り入れなければいけないという信念を持っている方なので、ちょうどうまが合ったんです(笑)。その後、大学に通うようになってから、日本のアニメーション界の中枢だった虫プロについて知っていく一方で、虫プロを追った映画やドキュメンタリーがなかったので、一般の方にちゃんと伝えるためにも虫プロのことや杉井さん自身を追わないといけないと思ったんです。

 

 そうして始まった撮影だが、72歳という年齢の被写体を追ったドキュメンタリーだとは思えないほど、映像の中の杉井は、終始歩いている。そこには監督のどのような意図があったのだろうか。

 

石岡:杉井さんは座って話していると、アニメーションのことを授業のように語ってしまうし、カメラが回ってないところでは、色々面白いことを話してくれるんですが、カメラを回すと全然話してくれないんです。だから、最初から歩かせるつもりでした(笑)。最後の方になってくると杉井さんは「もういいじゃない、座ろうよ」って言っていましたが、歩かせ続けました(笑)。歩いて、出来るだけ頭を使わせないようにしながら撮影を続けていきました。

 

 歩きながらの撮影というだけでも、屋内と違い様々な音が入ってくるものだが、本作では雨が降る中で撮影されており、所々声が聞こえない部分もある。そこにも監督の意図があったようだ。

 

石岡:雨が降っていたのはたまたまなんですが、僕は杉井さんの声が聞こえなくてもいいと思ったんです。僕は、特に歩いている時の表情はいつもと違うと思ったので、話している内容よりも、むしろ杉井さんの表情と雰囲気を見てほしいと思ったんです。あの時は原宿から周ってきたので、杉井さんが生まれた原宿近辺から旅をしてきているような感覚だったんじゃないかと思うんですが、杉井さんの心情がシンクロしていてたんですよね。それに加えて、『銀河鉄道の夜』のことを聞いたりしたので、余計に杉井さんの心情とマッチしていったんじゃないかと思います。あれは、明治神宮という場所だから聞けた話だし、普段は話さないことを話してくれていました。

 

 さらに石岡監督は、歩いている映像の中に、敢えて自らの姿を登場させている。

 

石岡:杉井さんは、インタビューで自分のことについて語り始めると授業みたいになるんですが、誰かと対話すると本音がでてくる方なんです。だから、僕と杉井監督の関係性を提示することで杉井監督を理解してほしいと思ったんです。僕が、杉井監督の内側にぐいぐい入り込んでいないのは、そうさせない雰囲気を持っている人だと理解してほしいんです。はぐらかされていたり、「カットしてください」と言われているのなんか、まさにそういうことですよね。僕はそれを暴きたいのではなくて、杉井さんにそういう面があると思ってくださればいいんです。僕は、それがドキュメンタリーだと思っているし、観ている方に「何があったんだろう」と想像してもらいたいんです。その前に出てきた『銀河鉄道の夜』の放浪のエピソードで杉井さんがどんな人物なのか、観客の方もわかってくださったと思うので、全て説明する必要はないと思ったんです。

 

 では、監督の思う杉井ギサブローという人物はどのような人物なのだろうか。

 

石岡:杉井さんは、アニメーション監督でもあるんですが、僕の感覚では映画監督なんです。杉井さんは、アニメーションの美術にすごく気を使う方で、美術が全体の雰囲気の6割を決めるとおっしゃるんです。要するに、アニメーションで表すことが難しいとされている空気感や情感をどうやって表そうかということを常に考えてらっしゃる方なんです。その考え方は映画の考え方にすごく近いんですよね。特に今全盛期を迎えているコンピュータグラフィックスだけを使っているアニメーションだと、どうしても技術的な限界があって、空気感を表現することは難しいんです。日本が手描きアニメーションにこだわるのは、ハリウッドなどでは出せない質感が表現できるからなんです。『グスコーブドリの伝記』でも、手描きを主軸にしながらコンピュータグラフィックスをうまく融合させて、質感を表現してるんです。

 

 たしかに、先日公開された『グスコーブドリの伝記』の背景には圧倒されるものがあった。本作からは、そのような杉井の偉大さを体感すると同時に、石岡監督の杉井に対する尊敬の思いが伝わってくる。

 

石岡:僕は、被写体をリスペクトできなければ、撮ってはいけないと思っているんです。(前作で撮った)代々木監督もそうなんですが、僕はかっこいい人が好きなんです。ふたりとも、ずっと物の本質を追い求めている人だし、杉井さんと代々木監督のずっと何かを追い求める、探求者の姿勢がすごく素敵だと思うんです。それに、ふたりともすごくお茶目だし、女性にもてるんです。たまに、ぽろっと可愛いことをおっしゃったりするところが、杉井さんと代々木監督の魅力ですよね(笑)。

 

 さらには、本作に登場している、杉井についての話を語る虫プロ出身者の方々も皆、大変だったことでも楽しそうに話す姿が印象的だった。

 

石岡:それは、虫プロの流れがそうさせているんだと思います。皆さんとても苦労されている方ですし、オリジナルのアニメーションをどうやって使っていくかということをとことん考えてきた方たちですし、皆さん手塚治虫のスピリッツを持ってらっしゃるんですよね。杉井さんの周りの方を取材することで何が見えるかというと、結局は手塚治虫さんの偉大さだと思うんです。実は、この映画は杉井さんのドキュメンタリーなんですが、それと同時に手塚治虫のドキュメンタリーでもあるんです。でもそれは、編集している最中にやっと気付いたんですが(笑)。それに、杉井さんが作ってこられた作品が物語っていますよね。杉井さんの軌跡が日本アニメーションの歴史なんです。




(2012年8月 2日更新)


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石岡正人監督

Movie Data


(C)2012「アニメ師・杉井ギサブロー」製作委員会

『アニメ師 杉井ギサブロー』

●7月28日(土)より、京都みなみ会館にて公開
●晩夏より、第七藝術劇場、
神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://www.animeshi-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/159955/


Movie Data

(C)2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会/ますむら・ひろし

『グスコーブドリの伝記』

●大阪ステーションシティシネマほかにて上映中

【公式サイト】
http://www.budori-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158316/