ホーム > インタビュー&レポート > 大ヒット上映中! 海上に墜落したジャンボジェット機の 救難に挑む仙崎ら“海猿”たちの姿を描く 『BRAVE HEARTS 海猿』羽住英一郎監督インタビュー
佐藤秀峰による人気漫画を基に、海上保安官たちが直面する海難事故の現場をダイナミックに描いた『海猿〈ウミザル〉』(2004)、『LIMIT OF LOVE 海猿』(2005)、『THE LAST MESSAGE 海猿』(2010)に続く、シリーズ第4弾『BRAVE HEARTS 海猿』が、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開されている。伊藤英明演じる主人公・仙崎大輔はついに特殊救難隊に配属され、海上でのジャンボジェット墜落事故の救難にあたることに。過酷な現場で常に前を見据え“プロフェッショナルとは何か”を模索し活躍する“海猿”たちの姿は、本作でも観る者の胸を熱くするはずだ。本作の公開にあたり、羽住英一郎監督が来阪した。
足掛け8年で、映画4作と連続ドラマも軒並み大ヒットを記録している海猿シリーズ。羽住監督は、正直、ここまでのシリーズになると予想していたのだろうか。
羽住英一郎監督(以下、羽住): 1作目は訓練と潜水士になるまでを描いて、海難を描いていなかったので、続編を作って大輔が実際に海難現場で活躍する姿を描きたいという思いはありました。そして、続編である『LIMIT OF LOVE 海猿』で終わるつもりだったんですが、続編を観たいというファンの方の声をたくさんいただいて、4年も空いてしまったんですが『THE LAST MESSAGE 海猿』を作ったんです。でも、『THE LAST MESSAGE 海猿』を作る時は、『LIMIT OF LOVE 海猿』が大ヒットを記録していたので、お客さんが観たい続編からかけ離れていてはいけないし、こんな続編観たくなかったと思われたくはなかったので、すごくプレッシャーがありました。
そんなプレッシャーを感じながら前作を作り、それも2010年度の邦画作品No.1の大ヒットを記録。しかも、前作は完結編と銘打っていたのにも関わらず、本作は作られた。監督が、本作でどうしても描きたかったこととは何だったのだろうか。
羽住:前作は完結編と銘打って、さらに『THE LAST MESSAGE~』というタイトルまでついていたのに、ありがたいことにまだ続編を観たいという声を観客の方からいただいて、本作を作ることになりました。海猿シリーズにはたくさんのファンの方がいらっしゃるんですが、8年も続けていると、どうしても「そんなのあり得ない」という部分も出てくるんですよね(笑)。今回は、そういう部分に真正面から向き合いたいと思って、仙崎大輔を否定する嶋というキャラクターを登場させたんです。仙崎を否定しているということは、海猿を否定しているということで、海猿って、毎回すごいことが起こるけれども、全員助かるじゃないですか。映画だから全員助かっていいと思うんですが、リアリティから言うと「そんなのあり得ない」と言われてしまいがちなところなので、「全員助けたい」と言う仙崎がいて、それを否定する嶋がいる状況で物語を描きたかったんです。
監督が「たくさんのファンの方がいらっしゃる」と語るように、海猿シリーズは、ファンの方が成長を見守ってきた日本では珍しいシリーズだ。
羽住:今回は各キャラクターもそれぞれに成長しているんですが、大輔は色んな海難も経験してきたので、はっきり言って成長の伸びしろがないぐらいなんです。じゃあ、今回は大輔をとおして何を描こうかと考えた時に、我々が今まで作ってきた絶対に諦めない仙崎大輔の人物像が、大勢の人の心の中にあるんじゃないかと思ったんです。それで、ひとりひとりの心の中に大輔がいるということを描きたかったので、複数形の『BRAVE HEARTS 海猿』というタイトルにしました。
それは、やはり“今”という時代性がそうさせたのだろうか。
羽住:そうですね。ひとりひとりがそういう気持ちを持っていれば、どんな困難も乗り越えられるんじゃないかという希望を作品に込めました。劇中ふたり目の子どもを妊娠している環菜が、「子どもを産むのが不安になってきた」というシーンがあるように、今って将来に漠然と不安があると思うんです。それに対してこの映画の中では、未来はそんなに悪いものではないということを描きたかったですし、そういう希望を持たせるものにしたかったんです。
そんな希望を感じさせるラストシーンはもちろんだが、本作にも前作までのシーンのオマージュのようなシーンが多数存在しているのも、ファンにとっては嬉しいところだろう。
羽住:やっぱり、観客の方は“海猿的なもの”を観たいから続編が観たいとおっしゃっていると思うので、そこを大きく外してしまうと海猿ではないですし、そこは、水戸黄門が印籠を出すように、定番的なもの入れていかなきゃいけないと思っています。それでも少しずつ変わっていかないといけないし、その辺りのさじ加減は難しいですね。海猿って、海難はすごく派手なんですが、すぐに5人とか4人とか少ない人数のシーンになってしまうんですよね。その方がドラマは濃く描けるので、どうしてもそうなってしまいがちなんです。でも、今回は飛行機事故は1日の話ですが、その前に日常のシーンを入れたことで、色んなことを抱えながらクライマックスに持っていくことができたし、前作までと違って日常を多く描くことで、いいバランスがとれたと思っています。
確かに、本作では大輔と吉岡、大輔と環菜が一緒にいるシーンが特に多かったように感じた。
羽住:前作の時は、映画が始まってすぐに海難が起こって、ずっとハラハラするシーンばっかりだったので、やっぱり日常の大輔と吉岡のバカなやり取りが見たいという声や、女性の方からは特に大輔と環菜が一緒にいるシーンが見たいという声をたくさんいただいたんです。というのも、前作はラストシーンしかふたりは一緒にいなかったんですよね(笑)。そのファンの声に応えたいと思って、今回は大輔と吉岡のシーンや大輔と環菜のシーンを増やしています。
また、本作には佐藤隆太演じる吉岡の彼女・美香役の仲里依紗や、大輔が所属する特殊救難隊の副隊長・嶋に扮した伊原剛志ら新キャストも登場しているが、海猿ファミリーにはすんなり入ることができたのだろうか。
羽住:海猿は長いシリーズなので、キャストはみんなファミリーみたいになってしまってるんですが、ふたりともすぐに溶け込んでいました(笑)。実は、伊原さんと撮影に入る2ヵ月前ぐらいにお会いした時に、「英明は相当身体を鍛えてくるので、伊原さんはそれ以上に鍛えてください。撮影もすごく大変なので諦めてください」ってすごく脅したんです(笑)。そうしたら、「俺、もうすぐ50なんだよ」と言いながらも、もちろんちゃんと身体を作ってきてくれましたし、文字通り身体をはって嶋という役を作りあげてくれました。僕は、1作目の時の三島(海東健)や、ドラマの時の池澤さん(仲村トオル)みたいに、一見ヒールだけど、正論を言う嶋のようなキャラクターが大好きなんです。
海猿シリーズと言えば、過酷な撮影で知られているが、実はスタントを一切使っておらず、全て役者自身が潜水もアクションもこなしている珍しい作品でもある。
羽住:確かに、斜めになっているセットはどこかにしがみついてないと立っていられないぐらい、本当に危険だし過酷な現場だと思います。でも、それは怪我をしない身体を作ってきてくれているキャストとスタッフの信頼関係の上に成り立っていますし、海猿はスタントを使わずに全シーン本人にやってもらうので、訓練とより一層の信頼関係が必要になってくるんです。やっぱり、本当に役者たちがやっていることって、スクリーンから感じられると思うんです。苦しそうに演じてもらうんじゃなくて、本当に苦しい状況で演じてもらうことが海猿シリーズならではの臨場感だし、醍醐味だと思っています。
海猿シリーズのアクションシーンやスペクタクルが、日本映画には珍しい大掛かりなものだからこそ、ここまでファンから愛されるシリーズとなっているのだろう。監督自身は、ここまで観客の方に受け入れられる作品の監督として、海猿シリーズについてどのように感じているのだろうか。
羽住:海猿を1作目からここまで連れてきてくださったのは観客の方々ですし、観客の方との絆や信頼関係をこんなに感じられる作品は他にはないですね。もちろん、続編はスケールアップしていかなきゃいけないんですが、それに加えて、海猿ってすごく大勢の方が関わって作ってきた作品なんです。1作目の時のキャストやスタッフには、今回参加していない人もいますし、海上保安庁の方の協力もありますし、一番は観てくださった観客の方たちですよね。今回の映画に関わった人たちだけじゃなくて、過去のシリーズ全部に関わってくださった人たち、観てくださった観客の方々全員をがっかりさせてはいけないと思って作っています。そうすると、すごく大きな力に支えられているし、背中を押されている感覚なんです。そういうことを目指して作っているから、それが観客の方にも届いているんじゃないかと思います。
(2012年7月24日更新)
●7月13日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.umizaru.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157579/