ホーム > インタビュー&レポート > 福島第一原発から20km圏内で暮らしていた 南相馬の人々の想いと言葉を映し出したドキュメンタリー 『相馬看花-第一部 奪われた土地の記憶-』 松林要樹監督会見レポート
3.11後に発生した福島第一原発の事故により、放射能汚染にさらされ、様変わりしてしまった南相馬市原町区江井地区に、『花と兵隊』で注目を集めた松林要樹監督が赴き、そこに住む人々に密着したドキュメンタリー『相馬看花-第一部 奪われた土地の記憶-』が、8月10日(土)まで第七藝術劇場にて上映中、8月25日(土)より神戸アートビレッジセンター、その後、京都みなみ会館にて順次公開される。南相馬市市議会議員の田中京子氏をはじめ、避難所生活を送る一般の人々を映し出す。故郷を失った人々の言葉に胸が詰まる1作だ。本作の公開にあたり、松林要樹監督が来阪した。
2011年3月11日、東日本大震災発生後、事態の収束を待ち、4月3日に松林監督と友人は支援物資を運ぶため南相馬市に向かった。そこで偶然、市議会議員の田中京子氏と出会ったことで監督の南相馬市での取材生活が始まることになる。まずは、本作の主軸を担っている田中さんとの出会いについて聞いてみるとー
松林要樹監督(以下、松林):僕らが支援物資を持って行った時に、避難されている方が立会人として市議会議員の田中さんを呼んでらっしゃったんです。それもたまたまでしたし、最初は田中さんを主軸にすることなど何も考えずに、ただ色んな場所についていかせてもらっていただけでした。田中さんは、環境に熱い人だし、常に人のために何かをしている方なので、自分の地元でこういうことがあったことは相当ショックだったと思います。田中さんは、働いていた会社がバブルの影響で南相馬から移転してしまって、それから地産地消で何か物を作って年寄りが集まれる場所を作りたいという思いで「いととんぼ」という直売所を作ったんです。そういう運動の中から、周りに慕われて市議会議員になっていった方なんです。だから田中さんにはすごく助けていただきましたし、この映画は田中さんがいなかったら成立しなかったと思います。田中さんが夫婦喧嘩をしているシーンで、初めて感情を露にしている田中さんを見て、彼女を主軸にして映画をまとめられるんじゃないかと思ったんです。
そんな田中さんとの出会いを経て、松林監督は様々な人たちと出会っていく。その中には、身体の不自由な奥さんが避難所で生活できないため、避難勧告が出た後も原発から20km圏内の自宅に留まって生活を続けていた粂夫妻など、きつめの福島弁で思いを語る人も多い。しかし、監督はあえて字幕をつけることなく上映することを選んだ。
松林:今でもおっしゃっていることの半分ぐらいはわからないですし、もちろん最初は何をおっしゃっているのか全然わかりませんでした(笑)。それでも、あえて字幕は入れませんでした。それは、細かいディテールは問題ではなく、福島の方がおっしゃっているなんとなくのニュアンスや感覚が伝わればいいと思ったんです。実際に先日、メキシコ大使館の方が観てくださったんですが、日本語でしかも福島弁なんてわかるはずないのに、「面白かった」っておっしゃってくださったんです。何が面白かったのか聞いてみたんですが、福島の方たちがおっしゃっていたこともだいたい理解してくださっていたんです。だから、字幕がなくても想像や感覚で観て感じていただければいいと思っています。
田中さんの紹介で出会った粂夫妻や避難所で暮らす人々と共に生活していくうちに、それぞれの本音をカメラは拾っていく。そんな中でも、「撮るな」と言われたり、雨の中で涙を流しながらお墓に向かって手を合わせる姿など、カメラを回し続けることが難しい場面に直面することもある。それでも、監督はドキュメンタリー作家としてカメラを回し続けている。
松林:カメラを回さなきゃ映像が残らないので、撮り続けないと仕方ないんですよね。最近は「撮るな」と言われることも多くて、その中で撮り続けることはやるせないし辛いんですが、この映像が何ヶ月後か何年後かに意味を持つと思えば撮り続けています。それは、僕のドキュメンタリー作家としての欲の深さなのかもしれません。でもきっと、「撮るな」と言われたところの方が映像としては面白いんですよ。撮られている人が「撮るな」と言う時は、本音や隠したいことがあるということですから。この映画の中に登場するおばちゃんたちも、自分たちの置かれている状況はすごく深刻だし、涙を流すことも怒りを口にすることもあるけれど、それを笑いに転化することで、緊張感を少しでも和らげようとしていると思うんです。
そのように、監督自身が“住んでいた土地を奪われた人々”と実際に避難所でともに暮らし、人々の声を映し出した本作は、現在の無関心社会に対する警鐘でもあると松林監督は語る。
松林:映画を観た方には、人々の無関心がこういう原発の事故を引き起こしたんだと思ってもらいたいし、そういうことに無関心だった人でも、たまたまこの映画を観て、そういう風に思うきっかけになってくれればいいと思います。そうなると作った甲斐がありますよね。先日決まった福井県の大飯原発の再稼動が今後、他の地域の原発再稼動のきっかけになると思うので、もう1回ちゃんと考えてほしいんです。この映画が何かを考える、行動を起こすきっかけになってほしいと心の底から思います。今までの社会は他人事でまかり通ってきたかもしれません。でも、映画の中で福島の方が「みんな無知だったんだ」とおっしゃっていたように、これからは、知らなかったでは済まされないことが起こった時にどうするのか、考えて動いていかなきゃいけないと思います。
(2012年7月31日更新)
●8月10日(土)まで、第七藝術劇場にて上映中
●8月25日(土)より31日(土)まで、
神戸アートビレッジセンターにて公開
●順次、京都みなみ会館にて公開
【公式サイト】
http://www.somakanka.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158206/