ホーム > インタビュー&レポート > 老舗の福祉施設や宅老所の現場を舞台に “老い”と“死”を見つめるドキュメンタリー 『季節、めぐり それぞれの居場所』大宮浩一監督インタビュー
自らが理想とする介護を実現しようと、施設・事業所を立ち上げた若者の姿を描いた『ただいま それぞれの居場所』で、平成22年度文化庁映画賞文化記録映画大賞を受賞した大宮浩一監督の最新作『季節、めぐり それぞれの居場所』が、6月29日(金)まで第七藝術劇場にて上映中、その後、7月7日(土)より神戸アートビレッジセンター、7月21日(土)より京都みなみ会館にて公開される。老舗の福祉施設や宅老所、デイサービスの現場を舞台に、介護スタッフと利用者たちのそれぞれの居場所と、彼らが直面する“老い”と“死”を見つめる。本作の公開にあたり、大宮浩一監督が来阪した。
本作には、青森県の「花まるデイサービスセンター」や岩手県宮古市のNPO法人「愛福祉会」など、『ただいま それぞれの居場所』(2010)には登場していない施設も出てくるが、メインとなっているのは千葉県にある宅老所「井戸端元気」や埼玉県の民間福祉施設「元気な亀さん」など、『ただいま…』に登場していた施設だ。大宮監督は、本作を続編と位置付けているのだろうか。
大宮浩一監督(以下、大宮):『ただいま…』の時は、介護保険の導入から10年が過ぎて、若い人たちが介護の業界に参入してきたことに興味があったので、ある意味(介護の現場を)ポジティブに描いた映画だったと思うんです。それと前作では、当然存在している“死”をあえて避けていた部分がありました。でも、今回は最初から“死”をテーマにしようと思っていたんです。このような作品を撮り続けていることで、介護は生活の一部で、生活が少し変わっただけだという認識を持てるようになってきたんですが、それでもその先にある“死”は別だと思っていたんです。それが、“死”も生活の一部というか、最期ではあっても日常の中に“死”も含まれていると感じるようになったんです。それがこの映画を作ろうと思ったきっかけでした。
そのように感じるようになったきっかけは?
大宮:『ただいま…』以前から介護施設の映画を撮っていたんですが、介護施設で患者さんを看取った職員の方が、ほぼ例外なく患者さんに「ありがとう」と言うんです。それが何となく気になっていたんです。遺族の方が職員に「ありがとう」と言うのは、お世話になりましたということで、理解できるんですが、看取った職員の方が亡くなった方に対して「ありがとう」と言うのは、何に対しての御礼の言葉なのか疑問に感じたんです。それはたぶん、亡くなった方が何かを伝え、何かを残したからだと思うんです。その「ありがとう」というキーワードが気になっていたんです。
それは、『ただいま…』以前から気になっていたということなのだろうか?
大宮:そうですね。今の時代って“死”が見えなくなっているじゃないですか。“死”を見ないようにしているというか、“死”を避けるということは生きることも避けているということだと思うんです。厚生労働省が発表した数字によると、2030年には年間160万人の人が亡くなるそうです。今が120万人なので、40万人ぐらい増えるんですよね。でも、病院と特別養護老人ホームで面倒が見られるのは100万人なんです。じゃあ、後の60万人は自宅か死に場所がないわけですよ。この数字は実際のベッド数を考えれば出てくる数字ですし、逆に場所が確保されたからといって、いい死に方ができるわけではないですよね。いい死に方という表現は違うかもしれませんが、本人も周りも納得できる“死”を迎えることができていれば、「ありがとう」という言葉が生まれるのかな、と思ったんです。そういう人が増えていけば、少しずつ世の中も良くなっていくんじゃないかと思うんです。
スタッフの方たちの「ありがとう」という言葉が気になっていたと語る監督だが、本作は、『ただいま…』と比べ、施設で働くスタッフの方の話で構成されているシーンが多い。特に、「井戸端元気」で暮らしていた田中千代さんについて語るスタッフたちの姿は印象的だ。
大宮:僕らという外部の人間に話すことで、すごく気持ちが整理できると思うんです。仕事仲間とは違う人と話すことで、スタッフそれぞれの中での物語が継続していって、肉体的、物理的には亡くなっているんですが、まだまだ彼女たちの中で語られることによって、生活や日常の一部になっていくんだと思うんです。おそらく、今でもあの施設では田中千代さんのことについて語られていると思います。四十九日などの法要の時にだけ思い出されるのではなく、日常生活に生き続けているんだと思うんです。いつかは消えてしまうかもしれないですが、それは徐々に消えていくんだと思いますし、亡くなった方もそれまでは生活の一部ですよね。
また、本作には東日本大震災の被災地である宮城県や岩手県の介護施設やNPO法人、「東北関東大震災・共同支援ネットワーク」を拠点として活動する「井戸端元気」の伊藤の姿など、被災地での介護も映されている。被災地の施設を映した監督の意図とは?
大宮:『ただいま…』は、介護についてすごくポジティブに描いたので、それだけではずるいとは思っていたので、どうしてもきちんと“死”を描きたいと思ったんです。皆に看取られる、言わば一番いい死に方かもしれない“死”だけではないことの象徴が3月11日の東日本大震災だったと思うんです。東日本大震災で亡くなられた方もひとつの“死”ですし、介護施設で亡くなる方も“死”ですし、映画の中に登場する両親を立て続けに亡くされた子安姉妹にとっても、両親の死は“死”ですよね。
その両親を立て続けに亡くした子安姉妹が、最後に「大丈夫。意外と平気かも」と語るシーンは、この映画の中でも特に印象的なシーンだ。
大宮:この映画は不親切で、いつ亡くなられて、いつ撮影したのかをテロップで入れていないのですが、正確にはあの時点で、ご両親が亡くなられて1年半ぐらい経っているんです。普通は、親が亡くなった直後には笑いませんよね。お客さんには、その笑顔に引っかかってほしいと思ったんです。その笑顔が出るまでの時間や葛藤を想像してもらいたいんです。「みんな心配するけど、大丈夫。意外と平気かも」という言葉が出るまでの時間を想像してもらいたいし、そのための映画でもあるんです。今回の東日本大震災でも、すごく時間はかかると思いますが、そうやって被災者の方が声を出すまで見守るしかないと思うんです。
(2012年6月27日更新)
●6月29日(金)まで、第七藝術劇場にて上映中
●7月7日(土)より、
神戸アートビレッジセンターにて公開
●7月21日(土)より、京都みなみ会館にて公開
【公式サイト】
http://www.kisetsumeguri.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158446/