ホーム > インタビュー&レポート > 地域医療再生に取り組む“愛知・南医療生活協同組合”の活動を 映し出す、小池征人監督による“命の3部作”完結編 『だんらんにっぽん -愛知・南医療生協の奇跡-』 小池征人監督インタビュー
『いのちの作法 沢内「生命行政」を継ぐ者たち』『葦牙-あしかび-こどもが拓く未来』の小池征人監督による“命の3部作”の完結編とも言える『だんらんにっぽん -愛知・南医療生協の奇跡-』が、6月15日(金)まで第七藝術劇場にて上映中、その後、7月より神戸アートビレッジセンター、京都シネマにて順次公開される。地域医療の崩壊が叫ばれる中、地域医療再生に取り組む“愛知・南医療生活協同組合”の、50年の活動と歴史に迫るドキュメンタリーだ。無縁社会が叫ばれる中、人との繋がりについて考えさせられる1 作になっている。本作の公開にあたり、小池征人監督が来阪した。
本作は、名古屋市南部で伊勢湾台風により甚大な被害を受けたことをきっかけに発足し、現在では6万人もの組合員数を誇る大集団となった南医療生活協同組合の活動をとともに、医療生協を利用している方の表情をイキイキと捉えていく。まず、南医療生活協同組合の映画を作ろうと思ったきっかけについて聞いてみるとー
小池征人監督(以下、小池):きっかけになったのは、2008年に中京大学で『いのちの作法 沢内「生命行政」を継ぐ者たち』の上映と講演で呼ばれた時に、たまたま介護事業所の“グループホームなも”の方々と出会ったんです。そこで映画にも登場してもらった中村さんに出会って、彼女のキャラクターに惹きつけられて、何もイメージはなかったんですが、ある種の映画の直感みたいなものがひらめいたんです。もうひとつは、2008年は都内で年末に派遣村ができたりしていた時代で、世の中も閉塞的になっていましたし、世の中から共同意識が欠落しているように感じていたことがあります。そこで、もしかしたら愛知の医療生協の活動を映画にすることで、バラバラになった社会をもう1度“共同”の意識に目覚めさせてくれるんじゃないかと思ったんです。今までは衣食住を社会が保障していたのに、今では企業も家族でさえも支えきれなくなっている。要するに、社会が存在してないんです。そんな時代に、愛知の医療生協は社会を作っているんだと思うんです。これは社会の見本となるかたちじゃないかと思ったんです。
そのように考えて映画を作ることを決めた小池監督だったが、大きな事件が起こるわけでもなく、医療生協の中の介護施設や病院などを利用する方とお世話をする方のコミュニケーションを映すことで、映画にできると確信できたのだろうか。映画を作っていくうえでの苦労はあったのだろうか。
小池:たしかに、映画にすることを考えていくうちに難しいな、とは思い出しました。下手に作ってしまうと医療生協の宣伝映画のようになってしまいますし、組合員の方がやってらっしゃることは、誰かのお世話をしたり、衣食住を助けるという当たり前のことですし、何のドラマもないんですよね。だから、これを撮っていても映画になるのか不安はありました。でも途中で、利用している方がイキイキしていればいいんじゃないかと気づいたんです。結局、映画を観た方が「なんでこんなに皆イキイキしてるんだろう? この組織は何なんだろう?」と考えてくださればいいわけなので、極力説明を省いて、(医療生協の)施設を利用されている方たちの表情を映したつもりです。
では、実際に監督が取材を重ねるうちに感じた、愛知・南医療生活協同組合の素晴らしさとはー
小池:まず、組合員の合意形成に時間をかけていることだと思います。そこが非常に民主的だし、ひとりひとりが自分の言葉を持っているから、やりたいことを自分の責任でやっていけているんだと思います。リンカーンの有名な言葉をもじると、ここは「組合員の組合員による組合員のための組織」なんです。会議も民主的ですし、大人数で回数も多い。それと、特別なリーダーがいるのではなく、誰しもがリーダーになれることもこの組織の強いところだと思います。それは何故かというと、みんなが勉強会に参加して、医療や薬、介護のことについての知識を得るとともに経験を重ねているからなんです。経験を積んで、知識を持っていれば、誰でもリーダーになれるんです。
「経験を積んで、知識を持っていれば、誰でもリーダーになれる」と語る監督だが、思い返せば今までの監督の映画は、『いのちの作法 沢内「生命行政」を継ぐ者たち』(2008)で、全国に先がけて老人医療の無償化を達成した旧沢内村の“命”の理念を描き、『葦牙-あしかび- こどもが拓く未来』で心に傷を負った子供たちの未来と希望を描いてきた。そんな前2作と本作には共通点もあるように感じる。
小池:僕は、普通の人が持っている力ってすごいと思うんです。僕自身がすごく弱い人間なので、弱者が集まって何かをすることや、協同組合が好きなんです。弱い人間たちがつまずきながらでも、集まって何かをやればやっていけると思うんです。意識はしていませんが、今までの2本の映画と本作はそういうことが共通しているのかもしれません。
では、最後に本作に込めた思いを監督に聞いてみると、愛知・南医療生協で実践されている「ケアする」ことや「お世話をする」ことをとおして、本来の医療の姿が見えてきたー
小池:この映画で映されているように、愛知・南医療生協で誰かをケアしている人は、ケアされている人の時間に合わせて動いているし、付き合っているんです。それがここのすごさだし、“いのち”だと思います。先ほど、大したドラマもないと言いましたが、考えようによってはすごいドラマがあるんですよね。相手の“いのち”の時間に、人がどれだけ付き合えるのか、結局、主人公は当事者なんです。社会の都合や人の都合で左右される時代になっている現代において、愛知・南医療生協の活動からは、必ず何かを感じてもらえると思います。
(2012年6月 8日更新)
●6月15日(金)まで、第七藝術劇場にて上映中
●7月より、神戸アートビレッジセンターにて公開
●順次、京都シネマにて公開
【公式サイト】
http://danran-nippon.main.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158579/