ホーム > インタビュー&レポート > 「この映画で30代や40代の女性の方が魅力的だと感じてもらえたら 嬉しいです」深川栄洋監督が女性へのエールの気持ちを込めた ガールズムービーの決定版『ガール』深川栄洋監督インタビュー
人気作家・奥田英朗が2006年に発表した同名小説を、香里奈、麻生久美子、吉瀬美智子、板谷由夏と豪華女優陣を迎えて映画化した『ガール』が、5月26日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。恋や仕事、結婚や出産に悩みながらも自分らしく生きようとする女性たちの姿が描き出されている。『白夜行』や『神様のカルテ』など、叙情的な演出で評価の高い深川栄洋が監督を務めたことも話題の作品だ。本作の公開にあたり、深川栄洋監督が来阪した。
本作では、29歳・独身で広告代理店勤務、“ガール”としての潮時に悩む由紀子役に香里奈、不動産会社勤務で新米管理職、34歳の夫あり・子供なし、職場での年上男性部下に悩む聖子役に麻生久美子、文具メーカー勤務・34歳・独身で、ひと回りも下の新入社員への恋に悩む容子役に吉瀬美智子、自動車ディーラー勤務・36歳・シングルマザーで、仕事と家庭の両立に頑張りすぎている孝子役に板谷由夏と、豪華な女優陣が女性なら誰しもが抱いたことのある悩みに悩む姿を体現。勤務先も、取りまく環境も全く違うのに何故か気の合う友達同士である彼女たち、それぞれの人生を群像劇的に映し出しながら、4人の堅い友情も色濃く描かれている。今までの深川監督の作品の傾向とは少し違うように感じるが、まずは、深川監督に原作を読んだ時の感覚について聞いてみるとー
深川栄洋監督(以下、深川):監督のお話をいただいてまず、脚本を読む前に原作を読んだんです。そうしたら、女性ってこんなこと考えてるんだという驚きがあって、すごく面白いと思ったんです。それで、監督を引き受けようと思いました。でも、その後でプロデューサーから「例えば『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいに、原作よりももっと“ポップ”にしたい」と言われたので、「(監督をやるのは)僕じゃない方がいいんじゃないですか?」と聞いたんです。そうしたら、「そう思っているのは君だけだ。出来るよ」と言われたので、プロデューサーを信じてやってみることにしました。
そのように聞くと、今までの『神様のカルテ』や『洋菓子店コアンドル』のように、じっくり登場人物の感情を見せていく作品と違い、ファッショナブルで“ポップ”な雰囲気を醸し出している本作の監督を務めることには、やはり戸惑いはあったということだろうか。
深川:正直、「僕でいいのかな?」という気持ちはありました。僕が今まで作ってきた映画がわりと地味なものが多いですし、原作を読んだ時も『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008)ではなく、『彼女を見ればわかること』(2001年に公開された、キャメロン・ディアスら豪華女優陣共演による5人の女性の生き方を見つめるオムニバスドラマ)のような映画をイメージしていたので、プロデューサーの思いに応えられるのかどうか不安ではありました。でも、たしかにプロデューサーがおっしゃっているようなラブ・コメディではない、ロマンチック・コメディの映画は日本にはないと思いましたし、映画にする意義があると思ったんです。
では、5つの短編からなる原作から4編を選出し、ひとつの物語が構成されている本作の脚本を作るうえで気をつけたことは、どのようなことなのだろうか。
深川:“ポップ”にしたいというプロデューサーの思いには応えようと思ったんですが、映画としての品格というか、女性のファッションと同じような感覚として“ポップ”さをまとうだけにして、映画自体を軽薄なものにはしたくないと思いました。それと、原作に描かれている登場人物の悩みや苦しみ、壁を乗り越えようとする瞬間にはちゃんと焦点を当てて、見せたいと考えていました。“ポップ”さのブレーキとアクセルをちゃんと使い分けることを心がけていました。例えば、前半30分は飛ばして、登場人物それぞれの悩みが見えてきたらアクセルを弱めて芝居を見せていくようにしていました。お客さんが退屈しないように、登場人物4人のリレーションにも気をつけました。
そのように、ブレーキとアクセルを使い分けたことで、本作には今までの深川監督の作品とはまた違ったテンポの良さやリズム感の良さが生まれている。特に、クライマックスの麻生久美子演じる聖子が、要潤扮する嫌味な年上の部下・今井とバトルを繰り広げるシーンや、香里奈扮する由紀子が手がけたファッションショーのシーンを交互に見せていくテクニックは素晴らしく、どんどん映画に入り込まされてしまう。
深川:プロデューサーもテレビ局の方ですし、最初はここまで色んな要素を盛り込むのかと驚きました。エピソードが多すぎるんじゃないかと思いながらも、それを演出の力でやりきっていくのは新鮮でした。ひとつのことを長い時間をかけて説明していくのが『神様のカルテ』だとしたら、『ガール』は色んなエピソードを色んな技術で見せていく映画なんです。今までは自分が持っている映画のテクニックの中からひとつかふたつを使って映画を作っていたのが、今回は持っているテクニックを全て吐き出して1本の映画になったという感覚です。だから結果的に、頭の中で空想していたことも、試験的に考えていたことも全部この1本でやりつくした感じがしていますし、全く違う目標に進もうとしている4人の登場人物のシーンを細かく入れ替えていても成立するんだとか、色々なことがすごく勉強になりました。
また、5編のエピソードから4編を選び出したことに加え、原作と大きく違っている点は、向井理演じる由紀子の彼氏・蒼太の存在だ。蒼太は、おしゃれにも無頓着で飾らない性格に加え、女心には疎く、由紀子とは口喧嘩が絶えないというキャラクター。特に、口喧嘩のシーンは、男女問わず経験があると思われるほどリアリティに富んだ、かみ合わなさが表現されている。
深川:他の人たちの悩みがわかりやすいのに比べて、由紀子の悩みが一番ぼんやりしていて、内面の漠然としているものに対して悩んでいるのでそれを表現するには、聞いてくれる相手や反応してくれる人が必要だと思って、(向井理演じる蒼太くんは)脚本の段階で生み出したキャラクターなんです。僕も35年間、身近にいる色んな女性に勉強させていただきましたが(笑)、女性と話をしていると、女性の中では会話が成立していても、男性としては全くわからなくて、結果的に女性が何を言おうとしているのか先回りして考えて、ようやく会話が成立して、時間軸が一致することが多かったので、時間軸を合わせられない向井くんのキャラクターは20代前半の苦労していた頃の僕の感覚です(笑)。女性に対して「何を怒ってるの?」って聞くと「私の話聞いてないの?」って喧嘩になったりするじゃないですか(笑)。本当に女性が考えていることを理解するのは難しいですね。
そのように、女性を理解するのは難しいと言いながらも監督は、以前『洋菓子店コアンドル』の時の取材で「女性が頑張っている姿はすごく美しいし、かっこいいと思うから、それを応援したいんです」と語っていた。特に、本作はそんな監督の思いが反映されているとともに、監督ならではの登場人物への愛情が感じられる作品となっているからこそ、登場人物が頑張る姿を応援したくなるとともに、泣けてきてしまうのだ。
深川:女性が頑張ってる姿って、なぜか泣けてくるんですよね。僕が『ガール』を監督する理由はそこにもあるんじゃないかと思ったんです。僕の女性に対する眼差しというか、愛情を持ってこの映画をくるむことに、僕が監督をする意味があると感じたんです。女性監督だと、もしかするとやりすぎてしまったり、キャラクターを救わない部分があるかもしれないですが、僕は女性監督が作る女性像よりも男性監督が作る女性像の方が好きだったので、そういう女性への思いを投影したかったんです。
そんな監督のキャラクターへの愛情が色濃く表現されているのが、吉瀬美智子演じる容子のキャラクターだ。ひと回り年下の新入社員に恋心を抱いてしまったことを認めたくないものの、小さなことで喜んでしまう容子の振る舞いは、本当にキュートで、コメディエンヌとしての新たな顔を見せてくれる吉瀬の姿に驚く人も多いのではないだろうか。さらには、嫌味な年上の部下・今井に扮した要潤も、実は前作『神様のカルテ』にも出演しており、ふたりともキーパーソンとして存在していた俳優だ。
深川:吉瀬さんにしても、要さんにしても、今までに見たことのないキャラクターを演じてもらうということは、賭けでもありました。でも、ふたりとは『神様のカルテ』で1回一緒にやっているので、ふたりにはもっと引き出しがあるんじゃないかと思っていたので、吉瀬さんにはちょっと飛び降りていただいて(笑)、要さんは本当に大好きな役者さんなので、一緒にやりたいと思いました。要さんは、(対立する役の)麻生さんがカットがかかった後に、「あんたさ、よくそんな腹の立つようなこと言えるよね、ほんとムカつく」って要さんに言ったぐらいのはまり役ですから(笑)。
そして、もうひとり本作を彩るうえで重要なキャラクターとなっているのが、檀れい演じる光山晴美だ。“お光”と影で呼ばれる彼女は、38歳独身で、流行最先端の派手なファッションに身を包む、“イタい若作り女”と思われているというキャラクター。それを檀れいが、見事なぶっとびぶりで演じていることにも驚く方は多いはず。
深川:檀さんは、好感度が高くて、お嫁さんにしたいと言われている女優さんですからね(笑)。でも、この前映画が完成してから初めて檀さんにお会いしたんですが、「恥ずかしかった。でも、すごく面白かった」とおっしゃっていたので、安心しました(笑)。でも、僕は30代、40代の女性の方がすごく魅力的だし、色んな選択をして色んなものを捨ててきているので、話すことも深いし、面白いんですよね。20代の女の子はまだ少女のような感じで、僕はあまり魅力的には感じないんですが、この映画で30代や40代の女性の方が魅力的なんだと感じてもらえたら嬉しいです。日本の社会は男社会なので、社会がもっと30代や40代の女性を面白いと興味を持つようになったら、もっと『ガール』みたいな映画が増えていくと思うんです。
確かに、本作『ガール』に登場する女性たちは、皆20代後半~30代後半で、女性ならではの様々な悩みに苦しみ、戦いながらも頑張っている。そんな彼女たちの姿に励まされる女性は多いはずで、本作はまさに、監督が女性へのエールの気持ちを込めた作品に仕上がっている。
深川:頑張るという言葉が言いにくくなってきましたが、何に対してでも愛情を注いで頑張っている女の人は美しいし、可愛らしいし、それを見守っている人が必ずいると思ってもらえると、もっと女の人が生きやすくなるんじゃないかと思っていたので、自分を表現することを止めずに、もっと自分を表現して周りの人たちを巻き込んでいく社会になればいいと思います。僕は、フランスに行くのが好きなんですが、パリの地下鉄で真っ赤なコートを着たお婆さんとかがいらっしゃるんですよね。そういう方たちは、自分に似合うからとか、ファッションでもなく、自分が着たいから着てるんです。そういう感覚ってすごくチャーミングだし、羨ましいと思いますし、自分が進みたい道を行くとお客さんに思ってもらえたら、僕もこれからもっと面白い映画が作れそうな気がします。
(2012年5月24日更新)
ふかがわ・よしひろ●1976年、千葉県生まれ。『ジャイアントナキムシ』(1999)と『自転車とハイヒール』(2000)が《ぴあフィルムフェスティバル》のPFFアワードに2年連続で入選。『狼少女』(2005)で劇場長編映画監督デビューを果たす。その後、西島秀俊主演の『真木栗ノ穴』(2008)や中村雅俊主演の『60歳のラブレター』(2009)がスマッシュヒットを記録し、注目を集める。一昨年公開された『半分の月がのぼる空』(2010)を皮切りに、昨年公開の『白夜行』(2011)、『洋菓子店コアンドル』(2011)、『神様のカルテ』(2011)、そして今年は本作『ガール』(2012)が公開されるなど、監督作が相次ぐ人気、実力を兼ね備える、最注目の若手映画監督。
●5月26日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://girl-movie.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157060/