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塚本晋也監督が挑んだ
Coccoの世界観を映像化するCocco主演作
『KOTOKO』塚本晋也監督インタビュー

 海外でもその映像世界で高い評価を集める塚本晋也監督が、シンガーソングライターのCoccoを主演に、母と子を描くヒューマン・ドラマ『KOTOKO』が、シネ・リーブル梅田にて上映中、その後、4月14日(土)よりシネ・リーブル神戸、4月21日(土)より京都シネマにて公開される。映画初主演となるCoccoは、もがき苦しみながらも、愛する息子を守るために懸命に生きる母親を体当たりの演技で挑み、女優としての才覚も発揮した。第68回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で最高賞を受賞した話題作だ。本作の公開にあたり、塚本晋也監督が来阪した。

 

 COCCOのことを最も尊敬するシンガーソグライターと評する塚本晋也監督。まずは、COCCOに惹かれる理由について聞いてみるとー

 

塚本晋也監督(以下、塚本):COCCOさんがデビューされた15年前ぐらいから、COCCOさんの歌とCOCCOさんが歌っている姿と彼女の歌の世界観にすごく興味を持っていたんです。それを探索したくて、いつか一緒に映画を作りたいと思い続けていました。だから出演していただくだけではなく、COCCOさんの世界を垣間見たいという気持ちだったので、COCCOさんにインタビューを繰り返して脚本を書いたんです。COCCOさんは世界で起こる出来事に対しての不安や痛みの感情が強いし、とても敏感なので、そういうKOTOKOを表現するうえでも、彼女はこの映画に不可欠でしたし、COCCOさんの存在によって、子どもを育てていくうえでの不安や恐怖という感情が、映画の中でよりリアルに浮き彫りになったと思います。

 

 「COCCOにインタビューを繰り返して、脚本を書いた」そうだが、監督は、母と子をテーマにすることをいつから考えていたのだろうか。

 

塚本:ちょうど、僕が7年ぐらい介護していた母親を亡くしたばかりのタイミングだったことと、COCCOさんはひとりの子のお母さんでもあるので、自然と母と子というテーマに目がいったんだと思います。僕はずっと母親を介護していたので、マザコンみたいに母親にベタベタの状態だったんですが、COCCOさんは子どもさんとちょっと距離があったんです。COCCOさんが子どもを撮った写真集があるんですが、そのタイトルも「ひとりの少年が私の部屋にいる」というタイトルで、子どもを少年という言葉で表現しているんです。その子どもとの距離がなんなんだろうと思って探りたくなったんです。でも、最終的には僕のベタベタのマザコンみたいな感情もCOCCOさんの子どもとの距離も、愛情の深さの表現なんだということがわかりました。

 

 監督とCOCCOの母と子の距離感は全く違うように思えるが、結局は「愛情の深さの表現」だとわかったと語る監督。映画の中でも、COCCO演じるKOTOKOは、様々なことに過剰に反応しすぎるあまり、神経質になりすぎ過敏になっているシーンが何回か登場する。もう少し詳しく聞いてみるとー

 

塚本:子どもへの感情を考えてみると、COCCOさんは映画の中のKOTOKOのように、実際はすごく神経質なんです。でも、僕はもうちょっとラフ。そう考えると矛盾があるんですが、極端な話、COCCOさんは自分が死ぬとしたら子どもも一緒に死ぬという考え方で、僕は自分が死ぬんだったら子どもには絶対生きていてほしいんです。その極端な違いが映画の中もそうですし、KOTOKOの中でも葛藤として起こっていて、それが映画の核となっていますし、映画の最後に導き出されたことだと思います。だから、戦場なんかに子どもを行かせるぐらいなら、自分で殺した方がいいというCOCCOさんの話と、そうやって殺すと言いながらも、母親というのは手は下さないし、逆に子どもの方が母親を助けてくれる存在になるんじゃないかという、僕なりのCOCCOさんへのエールを込めてラストシーンを用意したんです。そこには、母親を亡くした後子どもに救われた自分の実感もありましたし、母親への感謝の気持ちも込められています。

 

 監督が描いた戦争への不安に加えて、映画の中でKOTOKOを怯えさせているのは、テレビから流れている虐待や子どもの事件のニュース。そこにも監督の意図が含まれている。

 

塚本:僕は、単純に子どもが虐待にあったというニュースを見たくなかったので、そういう自分の感覚でああいうニュースを入れたんです。でも、撮影の直前に震災が起こってからは、放射能に対して全然平気なお母さんもいれば、KOTOKOぐらい過敏になっていたお母さんもいて、そのお母さんたちの姿を見ているうちに、KOTOKOが特別な存在ではないという実感がでてきたので、よりリアルにKOTOKOを描くことができました。この映画は、バイオレンスな表現も多い映画ですが、むしろそのお母さんたちに観てもらうことができれば、毒か薬かはギリギリですし、一瞬は猛毒ですが(笑)、後で強いワクチンのように効いて回復していくんじゃないかと思うんです。大変な思いをしている人に、「大丈夫だよ、頑張ろうよ」って言ってもピンとこないと思うんですが、同じような人がいることを極限まで描いた映画を観る方が心に響くんじゃないかと思うんです。

 

 本作では、“母親の極限までの過敏さ”が描かれているが、逆に監督はそういう過敏さを肯定しているということなのだろうか。

 

塚本:KOTOKOは、相当過敏な人のように描かれていますし、そう思われると思うんですが、僕としては今の状況で、わざと神経を鈍らせずに、真っ向から生きているとあれぐらいになってしまうんじゃないかと思うんです。だから、狂気を描いたというよりはまともすぎる人を描くとああいう風になってしまったという感覚はありました。本当に、今の世の中って子どもにとって心配なことはすごく多いですし。震災があった後のお母さんたちって、KOTOKOみたいな人が多かったんです。でも、一方で平気な人もいるんです。何も気にしていない人からすると、完全防備している人はおかしく見えるし、逆に完全防備している人からすると何もしてない人はおかしく見えるんですよね。

 

 本作はそのような母親の過敏さに加えて、暴力描写も激しい。監督自身も、「バイオレンスな表現が多い映画」と語っているが…。

 

塚本:僕自身は、COCCOさんのファンの方のことも多少考えて、暴力描写を少し和らげようとしたんですが、COCCOさんの方が、「暴力をゆるく描いてしまったら、適度に暴力を肯定していることになるから、絶対否定的に描きましょう」とおっしゃって、僕もその意見と同意見だったので、徹底的に暴力描写は入れました。過去の僕の映画だと、ファンタジーなんですよねあくまで暴力って。でも、この映画の暴力は今までとは全く違う成り立ちで、本当に恐ろしいように描かないといけないと思ったんです。それは、そうしないといつか来るかもしれない戦争の恐怖は表現できないと思ったからです。でも、暴力を否定すると言っていますが、暴力をふるうことを否定しているのであって、人間の中には本能としてあるものなので、本能としてあることさえ許されないというような描写はしていません。だから、映画としてバイオレンス映画というものが娯楽として存在しているわけですから。その存在は否定しませんし、僕の映画はほとんどそういうものばかりですから(笑)。だから今までの『鉄男』などは、バイオレンス映画ですよね。でも、今回の映画はそういう娯楽として存在しているものではなく、今までよりも生身に近い皮膚感覚を感じてもらえるんじゃないかと思うんです。

 

 先ほどから監督が語っている「戦争の恐怖」。その一方で、監督はいつか戦争映画を撮りたいそうだ。

 

塚本:本当は戦争映画を作りたいんです。実は長年の夢で、遂に時期がきたと思ってるんですが、お金がないんですよ(笑)。今まではお金がなくても作ってきたんですが、さすがに戦争映画はお金がなくても作れるとんちが思い浮かばないんです(笑)。今までは色々工夫してなんとか作ってきたんですが、戦争映画は爆発しなきゃいけないし、でもCGは使いたくないし。拳銃1個買って、プラスチックで型をとって複製を作ろうとか考えてみたんですけど、爆発が本物じゃないといけないし、撮影するにしてもどこか南国に行かなきゃいけないし、厳しいですね。この世界で最大の恐怖とも言える戦争を、地獄絵図のようにパノラマ的に描きたいんです。だから、この映画は僕にとっていつか作りたい戦争映画の序章みたいな位置にあるんです。

 

 そのように、この映画を「いつか作りたい戦争映画の序章のような位置にある」と語る監督だが、長年温めていたCOCCO主演の映画ということ以上に、本作は監督にとって特別なものとなっているように感じる。

 

塚本:僕はキャスティングを考える時はいつも、その役に一番相応しい人は誰だろうと考えるんですが、この映画は元々COCCOさんにインタビューして、COCCOさんの世界観を描いているので、他の人だと作れない。だから、この映画はCOCCOさんがいないとできなかったんです。僕は、いつもどんなことをしても映画を作ると思っているので、この人じゃないと作れないという言葉は嫌いなんですが、この映画ばかりは無理でしたね。そういう意味では、今までの映画と全然違うと思います。




(2012年4月12日更新)


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塚本晋也監督

Profile

つかもと・しんや●1960年、東京都生まれ。1987年に『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。1989年に『鉄男』で劇場映画デビューすると同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞し、衝撃の世界デビューを果たす。その後も、ヴェネチア国際映画祭コントロコレンテ部門審査員特別大賞を受賞した『六月の蛇』(2002)、同映画祭メインコンペ部門で異例のSF映画の正式上映となった『鉄男 THE BULLET MAN』(2009)など、製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集など全てに関与して作りあげるスタイルで国内外を問わず数多くの賞を受賞。マーティン・スコセッシ監督やクエンティン・タランティーノ監督ら多くの監督を虜にする日本人監督。また、毎日映画コンクール助演男優賞を受賞した『とらばいゆ』(2002)や、NHKの「ゲゲゲの女房」や「カーネーション」など、俳優としても評価は高い。

Movie Data


(C) 2011 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

『KOTOKO』

●シネ・リーブル梅田にて上映中
●4月14日(土)より、シネ・リーブル神戸にて公開
●4月21日(土)より、京都シネマにて公開

【公式サイト】
http://www.kotoko-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157578/