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「この映画を観て「恋をしたい」と思ってもらえれば嬉しいです」
生田斗真、吉高由里子らを迎えて人気コミックを実写映画化した
『僕等がいた』三木孝浩監督インタビュー

 小畑友紀による累計1200万部突破のベストセラー・コミックを、生田斗真、吉高由里子らを迎えて前・後篇二部作で映画化した『僕等がいた』が、前篇・後篇ともTOHOシネマズ梅田ほかにて公開され、大ヒットを記録している。『ソラニン』の三木孝浩監督がメガホンをとり、高校から大学、そして社会人になるまでの激動の10年以上にも渡って純愛を紡ぎ続けた男女の想いと、ふたりに訪れる数々の試練とふたりの運命が描かれる。本作の公開にあたり、三木孝浩監督が来阪した。

 

 10年にわたってファンから愛される累計売上1200万部を突破する超人気コミックの実写映画化。前作『ソラニン』も浅野いにおの人気原作を基に実写映画化したものだったが、三木監督が、人気原作を映画化するに当たって一番気をつけたことは何だったのだろうか。

 

三木孝浩監督(以下、三木):原作に忠実にというよりは、原作自体が大ヒットしていて、ファンの方もたくさんいらっしゃる作品なので、作品をリスペクトする気持ちが大切だと思っていました。今回の『僕等がいた』の良さは、台詞に代表されているように、すごく詩的なところだと思うんです。だから、その世界観は崩したくないと思いました。原作の中に登場する台詞は、現実世界では言わないような言葉だとは思いますが、ファンタジーとしては成立すると思いますし、誰も言わないだろうけど、言われたいという思いはファンの方の中にあると思うので、実写化するに当たっても台詞はちゃんと表現したいと思っていました。

 

 監督が語るように本作には、「過去に負けない今を作ろう」や「オレは高橋と出逢うために生きてきた」など、誰も言わないだろうけど言われてみたい台詞がたくさん登場する。それらは、ファンの心の中に名シーンとして残っているはず。そのような名シーンの数々がきちんと描かれていることも、本作のヒットに繋がっているのだろう。監督は、そんな名シーンを実写化するにあたって意識したことがあるそうだ。

 

三木:思い出って、例えば花火だったら音だったり色だったり、記憶と結びつけられるものがあると思うんです。今回の映画は、現役の高校生たちももちろん観ると思うんですが、20代や30代、40代の方に対しても、誰でも高校生活の中で覚えているであろう記憶に、繋がるような要素を入れて物語を作りたいと思ったんです。夏祭りや放課後の風景など、誰しもが通り過ぎてきた思い出にリンクするように気を付けてシーンを盛り込んでいきました。

 

 幅広い年代層に自身の思い出とリンクしてもらえるように考えていたという監督だが、では監督自身の印象的な台詞やシーンなどはどのシーンなのだろうか。

 

三木:台詞で言うと、屋上で花火を見ているシーンで七美が「プラマイゼロにならないかな」という台詞です。ロジックも無茶苦茶なんですが、そういう無茶苦茶さも含めて七美の一生懸命さを表した言葉だと思うんです。なんとか自分の思いを伝えたいというひたむきさが伝わってくるシーンですよね。それと、「矢野」や「高橋」という名前を呼ぶ瞬間にそれぞれの思いが込められていると思うので、映画でもそこを観ていただけると嬉しいです。

 

 ここまで原作に登場する台詞や名シーンのことを聞いていると、監督はじっくりと原作を読み込んでいるように感じられるが、映画化が決まるまでは原作を読んでいなかったそう。しかし、新鮮な気持ちで原作を読んだからこそ、生まれた表現もあったようだ。

 

三木:それこそ小学校ぐらいの時に妹が読んでいたコミック雑誌の「りぼん」を読んだぐらいで、少女漫画はほとんど読んだことがなかったんです。だから、『僕等がいた』を読みだした時はまず、読み方が難しかったですね(笑)。独特のリズム感もそうですし、現実で話している言葉と心の声である心象風景の境目があまりなかったので、どっちを表現しているのかわからなくなったりしました。でもそれが面白いと思った部分ではありましたし、主人公がトキメキましたっていう場面での、キラキラした感じの少女漫画独特の作法がすごく面白いと思ったので、これを映像化しなきゃいけないんだと思ったんです。だからこそ、ナレーションでうまく要所要所を締めることは必要だと思いました。

 

 たしかに、吉高由里子演じる七美が生田斗真扮する矢野のトキメいた瞬間のキラキラした感じは、特に印象的だ。それに加えて、前篇では輝くように青い空、後篇では夕暮れ時の暗くなりかけた空など、前篇と後篇で空の印象や光の感覚を変えていることで、高校生の楽しい恋愛時期から大学~社会人へと環境が変化していく様もよりわかりやすく伝わってくるように感じられた。

 

三木:空も確かにそうなんですが、どちらかというと光の捉え方で前後篇の見え方を変えています。前篇は、昼間の太陽の光で、ハレーションを起こしているような、まぶしい感じの光を捉えたいと思っていて、後篇は闇の中にぽつっと灯る暗闇の中の光をイメージしていました。前篇では光がキラキラしているのに、後篇では、どんどん闇へと沈んでいくので、後篇で過去を思い返す時により違いがはっきり表せると思ったんです。後篇で、前篇の思い出が活きるように、特に光のコントラストは意識して前篇と後篇で分けたつもりです。後篇での闇の中に灯る光は、七美の変わらぬ矢野への思いをイメージしていて、それが矢野を導く方位磁石になるというか、夜の海で光る灯台のようなものをイメージしてもらいたいと考えていました。

 

 そのような、光の使い方に加えて、本作では俳優たちのアップシーンが多用されており、監督の前作『ソラニン』とは真逆の印象を受けてしまった。それも、原作でのアップシーンの多さを尊重する意図があったのだろうか。

 

三木:今回は、できるだけキャラクターの気持ちに寄り添ってもらえるようにめちゃくちゃアップを増やしました。『ソラニン』の時は、引いたカットが多くて客観的に見せていたんですが、今回は、観ている方がキャラクターの感情に寄り添えるように、キャラクターたちの些細な感情の変化までも感じ取ってもらうことを大事にしていました。でも、それは浅尾さんが『ソラニン』を描いた時のアプローチと小畑さんが『僕等がいた』を描いた時のアプローチの仕方の違いだと思うんです。僕は、原作をリスペクトするうえで、作家さんが物語を描く時にキャラクターとどのように向き合っているのかを踏襲したいと考えているんです。キャラクターとの向き合い方が違っていなければ、物語が多少変わっても原作の世界観は崩れないと思ったんです。特に今回は、長い原作のストーリーを変えて前後篇に納めないといけなかったので、そこは肝になってくると思いました。

 

 そして、実写化するうえで、ネックとなってくるのが高校生時代を描く前篇と大学~社会人時代を描く後篇のキャストをどうするのかということだ。三木監督は、絶対に前篇後篇は同じ役者でないといけないと思っていたそうだが、その理由とはどのようなものだったのだろうか。

 

三木:『僕等がいた』は誰かを思い続ける6年間を描くのに、役者さんを変えてしまうと、その思いが崩れてしまう気がしたんです。たしかに、生田さんも吉高さんも20歳を超えているのに高校生を演じるということで、客観的に見ると抵抗があると思うんですが、描きたいのは社会人になってからの思いの方なので、その人を6年間ずっと思い続ける気持ちを描くうえでは役者さんを変えることはできないと思いました。

 

 そんな監督の熱い思いでキャスティングされた生田と吉高。ふたりが演じる矢野と七美は、今までふたりが演じてきた役柄とは、少し違っているように感じる。

 

三木:今回演じてもらった矢野と七美は、生田さんも吉高さんも今までのパブリックイメージとは少しギャップがあると思います。でも、むしろそこが面白いと思ったんです。吉高さんだったら、小悪魔的というかちょっと斜に構えた感じの役が多かったと思うんですが、元々僕は5年ぐらい前にショートフィルムでご一緒したことがあって、実際の吉高さんは全然パブリックイメージとは違うんですよ。その時にすごく純粋な子だと思っていたので、みんなに見せていない七美のような部分が吉高さんにはあるということは確信していました。

 

 たしかに、生田と吉高が恋愛に生きる姿を繊細に綴った本作は、今年を代表する作品となるだろう。最近では、なかなか直球の恋愛映画が作られることは珍しくなっているが、監督が今、この時代に直球の恋愛映画を作った意図とはー

 

三木:僕は、今の時代にラブストーリーはものすごく必要だと思うんです。やっぱり、恋愛は人をエネルギッシュにするし、力を生み出すきっかけになると思うし、それに、女の子が元気な方が社会も元気だと思うんです。女の子が元気になったり、元気を生み出す瞬間って絶対に恋愛をしている時だと思うので、恋愛エネルギーって実は今の日本にすごく必要だと思うんです。だから、この映画を観て「恋をしたい」と思ってもらえれば、日本を元気にする一端は担えるのかな、と思っています(笑)。




(2012年4月25日更新)


Check
三木孝浩監督

Movie Data

『僕等がいた 前篇』

●TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156679/



(C)2012「僕等がいた」製作委員会 (C)2002小畑友紀/小学館

『僕等がいた 後篇』

●TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中

【公式サイト】
http://bokura-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/157933/

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