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「同じ趣味を通して人と人が繋がって、
何かが生まれることで人生が豊かになる」
森田芳光監督が最後に伝えたかった思いを込めたラストエール
『僕達急行 A列車で行こう』松山ケンイチ&村川絵梨インタビュー

 昨年12月に急逝した『間宮兄弟』や『武士の家計簿』の森田芳光監督の遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』が、3月24日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開される。大河ドラマに映画にと、今や日本を代表する俳優となった松山ケンイチと瑛太が、それぞれ好きなジャンルの違う鉄道オタクの“鉄ちゃん”に扮し、鉄道好きの趣味を通して友情を深め合う姿を描いた心温まるヒューマン・コメディだ。恋や仕事には不器用でも、趣味に向かう姿勢はピュアでとことん熱い、そんなふたりが出会い、趣味を通して打ち解け合う中で生まれる可笑しさや友情を描く。本作の公開に先立ち、鉄道に乗って風景を見ながら音楽を聴くのが好きな小町に扮した松山ケンイチと、小町と同じ会社で働く、小町のことが少し好きな日向みどりを演じた村川絵梨が来阪した。

 

 ふとしたきっかけで出会った、大企業で働くマイペースな小町と下町の鉄工所の跡取り息子の小玉。ふたりは、お互いに鉄道を愛する者同士だったことから趣味を通じてすぐに仲良くなる。しかし、趣味や仕事には一生懸命になれるふたりも、恋には奥手で…という、森田芳光監督が念願の“鉄道”&“趣味”を描いた本作。『サウスバウンド』(2007)、『椿三十郎』(2007)に続き3作目となる森田作品で遂に主役を演じた松山と、『椿三十郎』(2007)に続き2作目の森田作品参加となる村川に、「少し好き」というフレーズや話し方など、本作でも随所に見られる“森田ワールド”について聞いてみるとー

 

松山ケンイチ(以下、松山):森田監督の作品に出演させていただくと毎回思うことなんですが、他の現場で経験してきたことが森田監督の前だと全然通用しないんです。森田監督独特のポイントがあって、そこにはまらないとだめなんです。それは、森田監督は言い方や“間”にものすごくこだわりを持っている方なので、監督の演出を受けて、初めて演技が完成するからなんです。僕はもう3回一緒にやらせていただいているんですが、毎回(森田監督の作品に)戻ってくるたびに、そういう“間”やニュアンスが監督の世界観だと思い出すんです。それだけ独特のものを持っている個性的な方だし、本当に唯一無二の方だったと思います。

 

村川絵梨(以下、村川):緊張感と集中力がどんなシーンでも必要になってくる監督で、一瞬のことでも課題をポンポンと投げられるので、アンテナを常に張っていましたし、常に監督に見られている感覚でした。そういう現場での緊張感もすごく楽しかったですし、こだわりの部分に関しての監督の熱意はすごくて、それに応えるのに必死でした。でも、現場に入ってそこまで細かくおっしゃっていただけるのはすごくありがたいことですし、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 そのように、言い方や“間”にものすごくこだわりを持っている森田監督の世界観のなかで“遊ばせてもらっていた”松山だが、撮影中に本当に完璧だと感じたシーンがあったそうだ。

 

松山:ワンカットで撮るシーンで、出演者が5人いて、全員に台詞があるシーンだったんです。そこまで複雑になるとけっこう難しいんですが、全部うまい具合にはまったんです。なんというか、僕自身がそこで生活しているような感覚になったんです。森田監督は言い方にも“間”にもこだわりがあるので、なかなか自然に演じるという感じではないことの方が多いんですが、その時は森田監督の世界観の中で生活できたような瞬間だったんです。その時の監督の「OK!」の声の大きさも全然違いましたし(笑)。そういう瞬間は久しぶりでしたね。

 

 完璧なシーンと松山が語るシーンは、映画を観てのお楽しみだが、そのシーンにも登場していた、本作が初共演となる瑛太演じる小玉と松山扮する小町は、本当に息がぴったりで、ちょっとしたことで顔を見合わせて笑う姿は生まれた頃からの親友のようだった。瑛太とは、撮影中はどのように過ごしていたのだろうか。

 

松山:瑛太さんの柔らかい空気感も小町と小玉の雰囲気に影響していたと思います。同じ趣味を持っているけれども考え方も好きな部分も違うことを、お互い肯定も否定もせず、邪魔せずに自由に過ごせる雰囲気がふたりから出ていたと思うんです。それは、キャラ設定もありますが、瑛太さんの雰囲気から生まれたものだと思います。瑛太さんとちゃんと話をしたのは今回が初めてだったんですが、トゲがない方なので、いつのまにか僕が色々話しているのを瑛太さんが聞いてくれていましたね。

 

 劇中の小町と小玉のような雰囲気で撮影中も過ごしていたことで、よりふたりの雰囲気にリアリティが増したのだろう。松山は、本作に出演するまでは、特に電車には興味を抱いていなかったそうだが、本作に出演したことで電車をだんだん好きになってきたようだ。

 

松山:まず、電車を好きな人ってほんとにたくさんいるんだと思いました。交通博物館や鉄道博を見に行った時に、オタクだけじゃなくて、普通の人も子どもも年輩の方も、本当に幅広い年齢層の方がいたのでオタクだけの文化じゃないんだと思いました。僕もだんだん見ているうちに好きになってきましたし。僕が一番好きな電車は、この作品には出てこないんですが、天皇家の方が乗られる御用列車です。外装も内装もほんとに細かいところまで職人さんの技が効いていて、歴史的建造物なんじゃないかと思えるほど荘厳なんです。単純に日本の技術ってすごいなと思いました。そういう風に考えると、これもひとつの電車の楽しみ方なんだろうなと思ったんです。駅弁が好きな人がいれば、景色を見るのが好きな人もいて、音を聴くのが好きな人もいて、色々な人がいて、奥が深いなと思いました。普段、電車に乗っている時は大体本を読んでいて、昼間だったら景色を見たりしています。映画の中に登場するローカル電車からの景色は自然がいっぱいあるので、そういう風景も今回は楽しんでいました。わたらせ鉄道からの景色なんかはほんとに素晴らしかったです。

 

 本作に出演したことで、松山は、新たな趣味に目覚めかけたようだが…女性からすると、鉄道オタクの“鉄ちゃん”を描いた映画と聞くと、ちょっと抵抗のある方も多いような気がする。では、女性である村川ならではの女子目線で観た本作の魅力とは?

 

村川:映画のタイトルである『僕達急行』や鉄道と聞くと、女性はどうしてもちょっと近寄りがたく感じてしまうかもしれませんが、全然そういう映画じゃないですし、日常生活の中でみんな当たり前のように電車に乗りますよね。そういうことよりも、趣味を通して出会って、ふとした瞬間に意気投合して、もしかしたら人生においてかけがえのない存在となる人に出会ったり、ちょっとしたことがこんな風に膨らんでいくんだという、ほっとできる作品だと思うんです。だから、とっつきにくい感じを取っ払って女性の方に観ていただきたいですね。それに、恋の部分でも色んなジャンルの女性が出てきて、色んなアピールの仕方をしているので、自分に照らし合わせてみても面白いんじゃないかと思います(笑)。

 

 ふたりがそれぞれ、本作の魅力を語ってくれたが、本作は惜しくも昨年急逝された森田芳光監督の遺作となってしまった。松山は、森田監督のラストメッセージをどのように感じて役柄を演じていたのだろうか。

 

松山:趣味を持つことで人生が豊かになるということを描いているように感じていました。確かに、色んなことがうまくいく作品ですし、現実ではこういう風になることは稀かもしれないですが、同じ趣味を通して人と人が繋がって、何かが生まれることってあると思うんです。それが自分に新しいものを与えてくれたりすることで人を豊かにするし、それってすごく大事なことだと思うんです。そういうことがお客さんに伝われば嬉しいです。




(2012年3月23日更新)


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Movie Data




(C)2012『僕達急行』製作委員会

『僕達急行 A列車で行こう』

●3月24日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開

【公式サイト】
http://boku9.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155598/