ホーム > インタビュー&レポート > 奇跡的なミッションとして語り継がれる“はやぶさ”の偉業を支えた 偉大な技術者たちの感動のドラマ 『はやぶさ 遥かなる帰還』渡辺謙ら来場会見レポート
2003年5月9日の打ち上げから実に7年間、60億キロにも及ぶ宇宙の旅を繰り広げ、奇跡的に地球への帰還を果たした小惑星探査機“はやぶさ”。その偉業で日本中に感動をもたらしたプロジェクト・チームの苦闘の日々を、家族との人間模様を絡めてドラマチックに描いた『はやぶさ 遥かなる帰還』が2月11日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。本作の公開に先立ち、本作のプロジェクトマネージャーとして企画段階から参加し、JAXA宇宙科学研究所の川口淳一郎をモデルにした主人公・山口駿一郎を熱演した渡辺謙と坂上順プロデューサーが来阪し、会見を行った。
奇跡的なミッションとして語り継がれる“はやぶさ”の偉業を支えた偉大な技術者たちの感動のドラマを描く本作だが、坂上プロデューサーが映画化を考えた当時は、“はやぶさ”帰還後すぐのことで、JAXA宇宙科学研究所には数多くの企画が舞い込んでいた頃。坂上がそれでも“はやぶさ”の偉業を映画化したいと思った理由はどのようなものだったのだろうか。
坂上:単純に、僕は3億kmも先のことなんて考えたこともないし、そこまで衛星を作って飛ばしてサンプルを持って帰ってくるなんてことは想像もできないことだったんです。それに、地球に帰ってきた時も、大気圏に再突入して“はやぶさ”は燃え尽きてしまい、サンプルだけをオーストラリアに落としていったことが、感動的な話だと思ったんです。後は、こういうことを考えている、科学者だったり技術者だったり、プロジェクトを立ち上げて25年間も“はやぶさ”を追いかけている人たちに会ってみたいと思いました。目先のことに追われてピリピリしている私からすると、どうしてそこまでやってられるのか、そういう取材から始めたんですが、どんどんはまってしまって、“はやぶさ”の引力に惹かれてしまいました。この映画はドキュメントでもないですし、“はやぶさ”を開発し、運用し、世界初の偉業を成し遂げた方々のドラマと、その周辺にいらっしゃる一般の人たちのドラマを描いた作品なんです。
“はやぶさ”の引力に惹かれて映画化したと語る坂上だが、この作品は主役であり、プロジェクトマネージャーでもある渡辺謙の存在なくしては語ることができないほど、映画の中でも外でも“渡辺謙”の存在感は突出している。そんな渡辺に主演を依頼した理由とは?
坂上:まず、この映画に渡辺謙さんはマストだと思ったんです。ドキュメントなのか、どこを中心に描けばいいのか、雲をつかむような話だったので、渡辺謙さんがやると言ってくだされば、企画として成立すると思いました。普通は、脚本を作ってそれをお持ちしてどうですかという話になるんですが、本も持たずに渡辺さんにお話を持っていったら、渡辺さんも技術者の方や科学者の方のことを詳しく知っておられて、やりましょうということになったんです。だから、本もないのに渡辺謙さんが動いてくださったことからこの映画の奇跡は始まったと実感しております。
一方、主役に加えプロジェクトマネージャーという聞きなれない肩書きが付くほど、本作への思いが強い渡辺だが、脚本もない状態で主役を引き受けたのはなぜだったのだろうか。
渡辺:“はやぶさ”のプロジェクトについては、数年前から耳に入っていました。残念ながら、私は帰還の時アメリカにいたので、“はやぶさ”帰還のニュースをインターネットで目にしたぐらいでした。ただ、それ以前の段階でリーマンショック以降、ここ3年ぐらい世界の中での日本のプライオリティというか、評価が下がりつつある危機感みたいなものを感じていて、そういう時に目にしたニュースだったので、日本にはまだこんな力があるじゃないかと思ったんです。そこから半年ぐらい経った時に、“はやぶさ”を映画化する話を聞いて、これは今やるべき題材だと思って、即答でお受けしました。もちろん、昨年は大きな災害が起こりましたし、ちょうど脚本の最終校を作っている段階だったので、この映画を世に送り出すことを躊躇した時もありました。こういう時期に何を届けることができるのかと思って躊躇したんですが、この映画はプロジェクトが成功したという成果だけを表すドラマではなく、色んな困難に立ちふさがれながらも、困難を乗り越えていった技術者たちの話だと最終目的地を定めて、制作に邁進していきました。
本作には、渡辺が演じたJAXA宇宙科学研究所の川口淳一郎をモデルにした主人公はもちろん、JAXA宇宙科学研究所で働く技術者や科学者が多数登場する。そして、渡辺が語ったように、その誰もが“はやぶさ”を地球に帰還させるためにありとあらゆる努力をし、色んな困難に立ちふさがれながらも、困難を乗り越えていった姿に私たちは感動を覚えるのだ。
渡辺:先日、川口先生とお話させていただいた時に、「ほんとにこの人たちは諦めの悪い人たちでね」とおっしゃっていて、僕はそれが物を作っている人の共通点じゃないかと思ったんです。映画を作ることもそうですし、僕も俳優という仕事をしていますが、本当に諦めが悪いし、執念深い。表現することや物を作ることのゴールというのは、なかなか設定しづらいので、どこまでも追求してしまうところがあるんです。僕は、彼らの諦めの悪さにシンパシーを感じました。
坂上:この映画は、ヒーローの映画ではなくリーダーの映画だと言っているんです。例えば、謙さんがプロジェクトマネージャーを引き受けてくださった時から、“はやぶさ”に渡辺謙がかけ算になって引力を持ったことで、この映画に人が集まってきたんです。私は、オーラという言葉は嫌いなんですが、謙さんの一歩でも前に行くんだというポテンシャルやエネルギーにスタッフも俳優さんも力をもらって、自分の精一杯以上の力を発揮してくれていたように感じました。
そんなJAXA宇宙科学研究所で働く科学者や技術者以外にも、“はやぶさ”の部品を作った工場は日本中に数多く存在し、劇中では山崎努が町工場の社長を演じ、サンプル部品などを納品しているエピソードも描かれている。大阪では、東大阪の町工場が宇宙開発に携わっていたそうだが…。
渡辺:先日も“はやぶさ”に関わった118社の方に集まっていただいたのですが、でもその方々がやったことが全て“はやぶさ”に使われたわけではないんですよね。要するに、研究の結果、切り捨てなきゃいけなかったことは山のようにあるんですよ。でも、僕はそういうことが日本の技術力を底支えしていると思ったんです。だから、未来の宇宙工学を担う子どもたちにはもっと見たり聞いたりして、夢をどんどん語ってほしいです。
最後に、本作は2月11日(土)に公開されるが、その他にも昨年の10月に1本、来月に1本と同じ“はやぶさ”を題材にした映画が3本も公開されるというのは異例中の異例のこと。坂上がJAXA宇宙科学研究所に映画化の話を持ち込んだ時には7本も企画があったそうで、それが3本に減ったとは言え、他の“はやぶさ”映画については、どのように感じているのだろうか。
渡辺:非常に僭越な言い方をしてしまうと、ほとんど意識していません。僕が“はやぶさ”のプロジェクトで感動したのは、衛星を飛ばし、カプセルを回収したというだけで終わってないからなんです。回収したカプセルを一般の方にどんどん見せていたり、広報活動を通じて“はやぶさ”プロジェクトの意義や目的を、どんどん提唱しようとしているんです。僕はそれが宇宙開発の大切な要素だと思いますし、そうされているJAXAの方に敬意を表しています。さらに僭越な言い方をすると、僕らは最後の広報活動のひとつだと思っています。“はやぶさ”という本当に大きなプロジェクトがこんなに素晴らしい人たちの努力や知恵によって成果を得ることができたんだという、広報活動の締めとだと思っていただきたいですね。
渡辺が、他の“はやぶさ”映画を全く意識していないと語る裏には、本作への圧倒的な自信のほどが伺えた。たしかに本作は、渡辺扮する山口の、部下から避難されることはあってもより高度なレベルを要求するものの、責任は全て自分が取るというリーダーシップぶりや、科学者、技術者ひとりひとりのレベルの高い活躍など、渡辺の言葉を借りると、そういう底支えがあったからこそ“はやぶさ”のプロジェクトは成功したのだと痛感させられる部分が多く登場する。そういった、技術者たちのドラマに特化したからこそ、本作はより“はやぶさ”の偉業に感動を覚える良質のドラマに仕上がっているのだ。
(2012年2月10日更新)
●2月11日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.hayabusa2012.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156087/