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「ひとりひとりが行動を起こし、エネルギー革命に賛同してほしい」
ドイツを“脱原発”へと導いた注目のドキュメンタリー
『第4の革命 -エネルギー・デモクラシー』
カール・A・フェヒナー監督インタビュー

 2010年にドイツで上映され、13万人を動員する大ヒットを記録してドイツを“脱原発”決定へと導いたといわれる注目のドキュメンタリー『第4の革命 -エネルギー・デモクラシー』が3月2日(金)まで第七藝術劇場にて公開中だ。著名な環境活動家やノーベル賞受賞者、政治家らが、今後30年以内に100%再生可能エネルギーへのシフトができることを様々な角度から分析し、紹介している。元TVプロデューサーのカール・A・フェヒナー監督が4年がかりで完成させた本作の公開にあたり、監督が来阪した。

 

 ドキュメンタリーでは異例となる13万人を動員し、2010年に最もドイツで観られたドキュメンタリー映画となり、現在、40ヵ国以上で上映され、20ヵ国語に翻訳されている本作。その後さらに、4000回以上の自主上映会が行われ、昨年の東日本大震災後に再び注目を集めドイツの公共放送で放送され、200万人以上が見たことで、ドイツでさらなる話題を呼び、テレビ放送翌月の6月6日にメルケル首相が脱原発を閣議決定した。ドイツにおける脱原発の動きのきっかけとなった本作を作ろうと思ったきっかけとはどのようなものだったのだろうか。

 

監督: 2006年にヘルマン・シェーアが書いた1冊の本に出会ったことがきっかけです。その本の中には、今後30年~40年で世界中のエネルギー需要が100%再生可能エネルギーで賄えるようになるという事実が示されていました。その内容にジャーナリストとして非常に興味を持ち、1年以上をかけてリサーチをしました。最初は、本当に世界中のエネルギーを再生可能エネルギーで賄うことが可能なのか疑問を持っていましたが、そのリサーチの結果、賄えないということを証明しているレポートがどこにもなかったので、賄うことが可能だと確信し、この映画を作ろうと決意しました。そして、世界中から探し出した、興味深いプロジェクトに関わる10人のカリスマ的な人物を選び、彼らに取材していったんです。

 

 この映画を作るきっかけとなった、ドイツ連邦議会議員のヘルマン・シェーア以外にも、多くの人物が実例を示して、再生可能エネルギーへのシフトは可能だと訴える本作が話題になったことで、ドイツでは様々な化学反応が起こり、最終的に脱原発宣言へと繋がったのだ。

 

監督:ドイツでは、この映画を観た多くの人が新しいエネルギーの考え方に目覚めたと思います。ドイツでは1999年に連立政権が誕生してから本格的にエコの意識が高まっていったのですが、2000年に世界で初めて再生可能エネルギーの固定価格買取制度が導入され、それも今では60カ国以上で導入されている制度です。その結果、当初の予想を上回るほどにドイツでは現在再生可能エネルギーの普及率が高まりました。始まった当初の2001年は2.8%という、今の日本よりも低い発電率だったのですが、11年経った今ではドイツで使用されるエネルギーの20%以上が再生可能エネルギーで賄われています。実は、この20%というのは2015年の目標だったんですが、3年も早く実現し、2020年には50%が再生可能エネルギーで賄われるという予測がなされています。それはまさに波のようなムーブメントで、再生可能エネルギー関連のビジネスも成長し、ドイツでは30万人の新しい雇用も創出されています。

 

 そのように、いきなり脱原発へと動いたのではなく、元々の素地としてエコの考え方や再生可能エネルギーへシフトするという考え方が市民の中にあったことも、今回のムーブメントを起こすきっかけとなったようだ。では、ドイツでは以前から反原発運動が行われていたのだろうか。

 

監督:ドイツでは、30年以上も反原発運動が続いています。私も個人的に何年もこの活動に参加しているのですが、毎年隣国のフランスからドイツまで核廃棄物が輸送される時には、1万人ほどの市民が人間の鎖で妨害しています。昨年の福島第1原発の事故のショックから、さらに反原発の意識が高まり、ドイツで30万人規模の反原発デモが起こったことで、ドイツ政府もようやく脱原発宣言を出して、2020年までに完全撤退することが決まったんです。

 

 日本でも、昨年の福島第1原発の事故後、急速に反原発運動が起こっており、本作で何度も登場する“再生可能エネルギー”という言葉も、ニュースや新聞などで急に使われだしている。では、日本でもドイツと同じように、“再生可能エネルギー”へシフトすることは可能だと監督は考えているのだろうか。

 

監督:国民がどれぐらいパワーを持ってこの問題に取り組んでいるのかが大事なんです。ドイツでもデンマークでもどこでもエネルギーシフトに対しての抵抗勢力は必ず存在しました。しかし、基本的な民主主義を活用し、選挙や市民活動などで、それに対抗することは可能です。ドイツの隣国であるフランスは、日本以上に原発に依存している国なのですが、私が住んでいるところはドイツとフランスの国境から50kmしか離れていません。一番近い原発は100km以内のところ、東京と福島第1原発と大体同じぐらいの距離にあるんですが、フランスは脱原発にこれから長い時間がかかると思います。しかし、日本はドイツより遥かに資源に恵まれた国で、日本はドイツの4割以上多い太陽光発電が可能ですし、風力発電や水力発電、海流の温度差発電の資源にも恵まれているので、日本が本格的に再生可能エネルギーを導入すれば、ドイツよりも早いスピードで実現できると思います。

 

 「日本が本格的に再生可能エネルギーを導入すれば、ドイツよりも早いスピードで実現できる」と断言している監督だが、この映画を作った後だっただけに、昨年の3月11日に起こった東日本大震災の影響による福島第1原発の事故には、心を痛めていたよう。それだけに、この映画は言わば、日本のためにあり、この映画を観ることによって、再生可能エネルギーへのシフトを推し進めてほしいと監督は語る。

 

監督:この映画は、日本人のため福島の人たちのために作られた映画だと思います。原発問題は、世界全体で変えていかなければならないことですし、この映画の中にはたくさんの具体的な方法や解決策が示されています。“海を愛さなければ船は愛せない”ということわざがあるのですが、ひとりひとりが行動を起こすことでしか始まらないんです。ドイツでは、村レベルのコミュニティで再生可能エネルギーの導入を促す市民活動が活発になっています。また、この映画の『第4の革命』というタイトルに込めたのは、人類の長い歴史の中で、第1の革命である農業革命、第2の革命である産業革命、そして第3の革命であるIT革命、そしてこの第4の革命がエネルギー革命であるという強い思いです。100%再生可能エネルギーで世界中のエネルギー需要をまかなう革命を起こしたいんです。この革命は、エネルギーだけではなく、人間の考え方の転換という意味もあります。世界規模で行われているエネルギーシフトの活動へ参加しよう、自分たちで実現させようという招待であり、参加を呼びかける映画なのです。何事も、人間が心で感じなければ始まらないので、この映画は固くなりすぎず、人の心に呼びかけるように作りました。私たちは、心で感じ、頭で考え、そこで足を動かして歩き出さなければ何も始まりません。だからこそ、日本の皆さんにこの映画を観ていただいて、エネルギー革命に賛同してほしいと心から願っています。そうすることで、世界中のエネルギー問題だけでなく、世界中の様々な問題解決に繋がると信じています。




(2012年2月14日更新)


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カール・A・フェヒナー監督

Movie Data


『第4の革命 -エネルギー・デモクラシー』

●3月2日(金)まで第七藝術劇場にて上映中

【公式サイト】
http://www.4revo.org/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/158045/