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温かみのある日本らしい風合いが滲み出た
ジャパニーズ・アニメーション『フレンズ もののけ島のナキ』
山崎貴監督&八木竜一監督インタビュー

 『ALWAYS三丁目の夕日』の山崎貴監督が、20年来の盟友・八木竜一監督とともに、初めて手掛けた3DCGアニメーション『フレンズ もののけ島のナキ』が、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中だ。泣ける童話として名高い『泣いた赤おに』を基に、心温まる物語がポップに描かれる。赤おにのナキと、彼の唯一の友人である青おに、グンジョーが暮らすもののけ島に、人間の子供・コタケが迷い込んだことから始まる物語が感動的に綴られる。本作の公開にあたり、山崎貴監督と八木竜一監督が来阪した。

 

 本作は、ピクサーに代表されるハリウッド系アニメとはひと味違う、日本ならではの温かみのある風合いと世界観が楽しめる感動のジャパニーズアニメ。まずは、そんな日本の温かみが活かされた色合いなどへのこだわりを聞いてみるとー

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山崎:色合いや世界観については、ミニチュアを使って撮影したことが影響していると思います。温かみがあるというか、手ざわり感のある感じになっていると思うんです。光も、CGの中だけの人工的な光じゃなくて、ミニチュアに本物の照明をあてていますし。それとなんといっても、原作が日本の誇るべき『泣いた赤おに』という素晴らしい作品ですから。“Made in Japan”の良さは知らず知らずのうちに出ますよね。“Made in Japan”を意識したというよりも、むしろそこから逃れようとして、ピクサー的なものにしたいという思いがあって、ポップなものを目指したんですが、日本ならではの風土みたいな根っこの部分からは逃れられないんですよね。そういう日本らしさが素直に出せたことが、海外の作品よりも観客の方の心に伝わりやすいものになったんだと思います。

 

八木:すごくウェットで、湿度も高めな感じですよね。ミニチュアを作るにしても、本物の木を削って作ってるんです。

 

山崎:ミニチュアを作ることの利点は色々あって、先ほど言った手ざわり感だったり、ものすごく複雑なものでも、1回作ってしまえばそこに存在してることになりますし。また、キャラクターのクオリティを上げるためにも背景がリアルなミニチュアとして存在していたら、基準値になって、そこに合わせることができるんです。CGだと、人が頭の中で考えたものだけでできてしまうんです。それだとやっぱり、人によってバラつきができてしまう。単純にミニチュアの背景を作ってしまって、そこにぴったりくるようにキャラクターを作れば、それはもうリアルになるんです。そういう意味でミニチュアは基準値になってくれるんですよ。

 

friends_なき.jpg八木:今回の映画では、リアルでも、どこかありえない世界というか、ちょっとパースがくるったようなデフォルメされている家具を多用していることで、リアリティを少し損なうようにしていたんです。この映画の中の世界のリアリティをどこに設定するかということを決めることがすごく大変でした。それでも、背景もキャラクターも、リアルだけどアニメっぽい世界観が確立できたんじゃないかと思います。映画の世界の中では確実に存在するキャラクターだけど、彼らがここにいたら怖い(笑)ってことですよね。これ以上リアルにすると、気持ち悪くなったり怖くなったりしてしまって、可愛いという感情が芽生えなくなってしまうんですよ。でも、できるだけ可愛いと思ってもらいたいから、ナキもグンジョーも一見怖そうだけど、ギャグ顔もできて、シリアスな芝居もできるキャラクターを作るということが今回の目標だったんです。

 

山崎:キャラクターが決まるまでは、色々試行錯誤はありました(笑)。デザインレベルでいうと100体以上も作ったんですよ。特に、ナキが基準になるキャラクターなので、一番最初に作ったんですが、色々なバージョンを作りました。だんだん、しゅっとしてきたよね(笑)。

 

八木:だんだん若返っていきましたね。最初はもっとおっさんでした(笑)。

 

山崎:最初はやさぐれたお腹の出たおっさんだったんだけど、ちょっとハンサムになってきちゃって(笑)。

 

八木:でも、主人公だからね(笑)。それに香取さんに演じていただけることになって、だんだんナキが香取さんに似てきたんですよ。口の大きさとか香取さんぽいですよね。と考えるとグンジョーも山寺さんぽいな、と思えてきて(笑)。阿部さんのゴーヤンも阿部さんに見えてきますよね。声優を務めてくださった皆さんからいい声の演技をたくさんもらったので、それに対してアニメーションをつけていく、“プレスコ”という作業を今回は取り入れたんです。

 

 八木監督の話に登場した“プレスコ”という手法は、役者の声をキャラクターに生かす手法で、これは先に音声を収録し、それに合わせて画を制作していくというもの。“プレスコ”であれば、役者のアドリブも生かせるうえ、演技の際の動きや表情も画に反映することができるのだ。では、キャラクターを作る過程で役者の演技によって変わった部分はあったのだろうか。

 

friends_こたけ.jpg山崎:ある程度キャラクターはできていたんですが、声の演技によって直していった部分はあります。今までもプレスコという手法は使われていたと思いますが、ここまで本格的にやった日本の映画はなかったと思います。それはコタケの声を、本物の赤ちゃんの声でやりたかったからです。そうすると、3歳の子どもが出来上がっているアニメーションに合わせて声を吹き込むことは不可能なんですよね。それに、一度俳優さんたちの声で感情ラインが作ると、そこからブレないんですよ。勝手にこっちで考えてアニメをつけると、いいのか悪いのかわからないまま悩み続けることになっちゃうんです。というのも、いくらでも直せるんですよ。手書きアニメーションじゃないから。CGアニメーションってある意味、妥協の塊なんです。諦めるポイントをどこに置くかで作品のクオリティが変わってくるんです。

 

八木:だから、できるだけ高い位置で諦めたいんです。

 

山崎:それに、全部のカットがある一定のレベルに統一されてなきゃいけないのに、期日は決まってますし。そういう意味でも八木は、未知の尺の旅に出たわけなんです。

 

八木:この映画は、約800カットで90分あるんですが、制作に3年半かかりました。正直、最初は本当にできるかどうかわからなかったですね。

 

山崎:今まで作ったものは最長で5分なんです。みんなでひぃひぃ言いながら作って「1年で5分もできた!!」って感動してたんですから。それも相当、うちのスピードとしては早い方なんです。そもそも、“分”って何!?っていう世界ですから(笑)。CMだと秒単位、下手したらコマ単位ですし。そういう作業をずっとしている人たちに対して、“分”だというだけですごいのに、今回は1時間を超えてますからね(笑)。

 

friends_もののけ.jpg八木:本当に、チャレンジでした。そのために、脚本作りの時から場面数をしぼりながらも、お客さんに楽しんでもらえるように考えましたし、服装についても袖をつけてなかったり。ナキもグンジョーも村人も袖がないんですよ。実は、“しわ”が高いんです(笑)。そう思って見てみると、袖はないし、ズボンもはいてないし(笑)。ミニチュアを使うことも底上げになりました。同じようなシーンでカット数がある場合も、色んな角度から写真が撮れるという利点もありますし。クオリティも高くなるし、安定するし、ミニチュアがあることでいい事ずくめだったので、無事に乗り切れてよかったです。

 

 と、今でこそ笑顔で当時のことを語ってくれるふたりだが、企画の段階から考えると6年もの歳月をかけて完成した作品を初めて観た時は、今までの苦労を思い出して感動したのではないだろうか。

 

山崎:僕は完成した時よりも、社内のプロデューサーから「山崎さん、お金納まったよ」って言われた時の方が感動しました。というのもこの映画は、情熱だけで大赤字作って、いいものができたけど、会社はなくなっちゃいましたと、なりかねない規模の作品なんです。だから、最初に決めた予算の中でなんとか収まって、スケジュールも守って、でもみんながいいと言ってくれるものを作ることが大事だと思っていました。八木は大変だったと思うんですけど、その中でちゃんと収められたことにすごく感動しました。

 

八木:僕は勘で動いていた部分もあって、ちょっとはみ出したんじゃないかと思ってたんです。でも、山崎から電話がかかってきて「収まったよ」って言われて、目が点になるぐらい驚きました(笑)。僕はやっぱり完成した時は感動しましたね。僕がこの映画を作っている間に実写の山崎作品がどんどんできてましたから(笑)。

 

山崎:この映画が作られてる間に僕は4本作りましたからね。この映画の企画自体は、『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)が終わった時から始まっているんです。だから、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007)、『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)、来年公開される『ALWAYS 三丁目の夕日’64』(2012)まで作って、ようやくですもん(笑)。

 

八木:(山崎の映画が)どんどん通り過ぎていっちゃうんですよ(笑)。

 

山崎:特急と鈍行みたいだよね(笑)。それに、今回は線路を引きながらですから、それがすごいですよ。僕の場合はある程度できあがったシステムに乗せてもらって映画を作っていますが、八木の場合は線路を引きながら作っていますから。

 

八木:線路を引くというか、整地するところからでしたね。でも、何時何分には着かなきゃいけないって決まってましたけど(笑)。

 

山崎:ほんと、よく着いたよね(笑)。

 

八木:でも、今回ほぼ白組の社内で作れたので、これを続けていけたらいいなと思います。せっかくこういうやり方で映画が1本できたわけですし。今度はもっと、時間をかけずにうまくできるんじゃないかと夢が広がりますよね。

 

山崎:たしかに、線路は引いたわけだからね。この映画を作るにあたって、色々制限はあったんですが、制限があることは、そんなに悪いことじゃなくて、制限の中でより良いものを作ろうとするには、とんちしかないんですよね。お金がなければ、頭を使うしかないし、そこから良いものが生まれてくるんです。だから、制限があることは決してマイナスなことではないんです。

 

 そんな様々な制限がある中でも、ふたりの発想は留まることを知らなかった。それを表わすエピソードの最たるものが、たくさんのプロデューサーが揃う製作委員会に提出する、パイロット版と呼ばれるサンプル映像を作る際に、他の映画から拝借した香取の声を入れたものも作っていたというもの。それによって、この映画の企画がぐんと前へ進んだそうだ。

 

八木:そのアイデアを一番最初に考えついたのは山崎なんです。最初から、ナキは香取さんにやってもらいたいと思っていたので、パイロット版を作る時に『西遊記〈2007年〉』の時の香取さんの声を使って作ったんです。そうやって作ってみたら、ナキのキャラクターにぴったりだったんです。

 

山崎:メジャー感が急に出たんですよ。最初は自分たちの声で作っていたんですが、なんか自主映画に毛がはえたみたいな感じで。画のクオリティは高いんだけど、声の質が悪いんですよ(笑)。案の定、製作委員会のプレゼンで僕たちの声の方を見せたら、「なんかな~」みたいな雰囲気になって。香取くんのバージョンは隠し玉だったし、さすがに反則なのでやばいかと思ってたんですが、みんなの反応が鈍かったので、見せちゃいました(笑)。見せたら、みんな目の色が変わりましたね。あの落差も良かったんじゃないかな(笑)。

 

 その落差という言葉が表わすように、劇中でもその落差が効果的に使われている。それが、コタケがもののけ島に流れ着いてしまうシーンのまるで急流すべりをすべっているかのような迫力や、ナキとコタケがキノコを探しに行くシーンのナキの大ジャンプと、村の生活などの控えめなシーンの迫力の落差だ。

 

八木:たしかに、そういうシーンが印象に残るように、他のシーンは大人しくしていました。だから、カメラワークにものすごく気を使いました。本来、CGってけっこう動き回れるんです。だけど、できるだけ動き回らないようにというか、動き回る時を制限して、ここぞという時に動き回らせていました。そこにもお金の問題があったりするんですが(笑)。

 

山崎:でもそれは、すごく実写っぽいアプローチだと思います。実写映画で撮影する時って、セットの中にナキとグンジョーとコタケがいたら、あんまり変なところにカメラって入らないですよね。CGだと入れちゃうから、色んなところに入りたくなるんですが、今回はミニチュアだからあんまり入れないんです。実写だったらこういう風に撮るという、昔からのカメラワークにしていました。でも、時々は跳ねたりして。ずっと大人しいままだとお客さんも飽きちゃうので(笑)。

 

 20年来の付き合いがある山崎監督と八木監督。ここまで話を聞いていても、どちらかのコメントに一方がフォローしたり、さらに盛り上げたりとコミュニケーションは抜群だった。先ほどの話に登場したように、山崎監督は、八木監督が本作に集中している間に4本もの映画を作り上げている。日本ではふたりで監督を務めることは極めて稀なことだが、今回ふたりで本作を監督したことで、お互いへはどのような印象を持ったのだろうか。

 

山崎:僕は現実的に他の映画をたくさんやっていたので、CGの細かい作業が全くできなかったですし。こういうキャンペーンも手分けしてできるので、楽ですね(笑)。それと、八木が監督になれて良かったです。

 

八木:3年半もこの作品だけを手がけていたので、客観的な目線が失われてしまったり、思い込みで進んでしまうところがあったと思うんです。できるだけ客観的に見ようとはしていたんですが、そんな中で客観的に山崎が言ってくれるひと言がきくんですよ(笑)。

 

山崎:作業工程の煩わしさや苦労はわかっているから、言いずらくはなるんだけど、そこで空気を読まずにひどい物言いをしていました(笑)。

 

八木:でも、その客観的意見がためになったし、すごく勉強になりました。

 

 最後まで息がぴったりだった山崎監督と八木監督。企画の段階から数えると、6年もの歳月をかけて作られた本作は、様々な紆余曲折を経ながら、あらゆるところにこだわった、まさに日本らしさが生かされた日本が海外に誇ることができるCGアニメーションだと言えるだろう。年末年始のお休みに、ぜひ家族や恋人、大切な人と一緒に、“Made in Japan”の良さが滲みでたジャパニーズ・アニメーションを体験してほしい。




(2011年12月22日更新)


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Profile

やまざき・たかし●1964年、長野県生まれ。1986年、白組に入社。香取慎吾主演の『ジュブナイル』(2000)で映画監督デビュー。2002年には、『Returner〈リターナー〉』(2002)を発表。2005年に『ALWAYS 三丁目の夕日』を発表し、その温かみのある世界観と最先端のCG技術を融合させて作り上げた感動的なドラマが話題を呼び、興行収入33億円の大ヒットを記録。その後も『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007)、『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)、1月21日(土)に公開される『ALWAYS 三丁目の夕日’64』(2012)とヒット作を数多く手がける。

やぎ・りゅういち●1964年、東京都生まれ。1987年白組に入社。CMのデジタルマット画やゲームムービーのCGディレクションに携わる。ゲーム『鬼武者3』のオープニングムービーで、2004年度のSIGGRAPHのElectronic Theaterで入選を果たす。次代を担うCGクリエーター。20年来の盟友・山崎貴監督とともに手がけた本作『フレンズ もののけ島のナキ』が初監督作となる。

Movie Data




(C)2011「friends」製作委員会

『フレンズ もののけ島のナキ』

●TOHOシネマズ梅田ほかにて公開中

【公式サイト】
http://www.friends-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155967/

Present Infomation

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