ホーム > インタビュー&レポート > 「こんなに刺激的で毒のある作品は他にはないです」 園子温監督作『恋の罪』水野美紀会見レポート
『紀子の食卓』(2005)『愛のむきだし』(2008)などの話題作を連続して披露し、『冷たい熱帯魚』(2010)の大ヒットも記憶に新しい園子温監督の最新作『恋の罪』が11月12日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかで公開される。20世紀末に渋谷区円山町で起こったセンセーショナルな殺人事件にインスパイアされ、セックスや狂気に彩られた3人の女性の壮絶な生き様を映像化。水野美紀、冨樫真、神楽坂恵という女優陣による心も身体もさらけ出した体当たりの熱演は必見だ。公開に先立ち、刑事の仕事と幸せな家庭を両立しているにも関わらず、愛人との関係を絶つことができない女性・和子の内面を見事に体現した水野美紀が来阪し会見を行った。
園監督と言えば、近年では『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』、来年1月公開の『ヒミズ』など、海外の映画祭でも数多くの賞を受賞するなど、国内外で評価の高い監督。元々、園子温監督のファンで、監督の作品に出たかったと語る水野美紀だが、水野は監督のどの部分に惹かれたのだろうか。
水野 :初期の頃の『部屋/THE ROOM』(1993)という作品や『紀子の食卓』、『自殺サークル』(2002)が面白いと思いました。園監督は、振り切った表現方法を用いる方で、映像やストーリーがすごく刺激的なんですが、その奥には普遍的なものが描かれていて、すごく繊細に響いてくるんです。それが監督の作品の強烈なカラーだと思うんです。こういう映画を撮る監督は、日本はもちろん世界にもいないんじゃないでしょうか。そういう、大胆な中にも繊細さを秘めた監督の個性にすごく惹かれます。
と絶賛した水野だが、きついリハーサルなどで知られる園監督の現場は、もちろん今回が初めて。園監督の演出方法については、水野はどのように感じたのだろう。
水野 :園監督は、現場に入るとすごく穏やかで、多くを語られないんですよね。基本的には、ワンシーンをワンカットで長回しで撮るので、現場のテンションや緊張感を監督もすごく大事にされていて、現場では、台本を読むことと現場で監督が無言で発していることから感じ取って表現して返すという無言のコミュニケーションを、監督と密に交わしていたんだと思います。ただ、死体などの造形物が入ったり、血のりを使うシーンになると監督はすごく張り切っていて、全部自分で微調整したり、手を血のりでドロドロにしてセットしたりしていて、そういう時は監督を特殊だなと思いました(笑)。
意外と穏やかに撮影は進んだようだが、本作で水野が演じる和子は、表面的には平静を装いながらも、心に飢えを抱える女性の虚しさや、女性の業の強さ、自分で自分を持て余してしまうほどのどうしようもなさを抱える女性心理を、身体とともに丸裸にして表現することが求められるという過酷な役どころ。また、水野以外のふたりも、神楽坂恵演じる、ベストセラー作家の夫を持つ清楚な専業主婦のいずみは、満たされない虚しさからアダルトビデオの女優に勧誘され、女としての喜びに目覚めてしまい、冨樫真が演じた美津子は、大学のエリート助教授でありながら、夜は派手なメイクとファッションで街角に立つ売春婦と、それぞれに心に深い闇を抱える女性たちだ。そんな女性心理についてはー
水野 :女性はみんな、場所や会う人物に合わせて、日常的に無意識に演技をしているんだと思うんです。それは、女性なら誰でも納得できる感覚なんじゃないでしょうか。今回の映画で私は、母親で、刑事で、不倫をする女、という3つの面を持つ女性を演じたんですが、全く違和感を持つことなく演じられましたし、神楽坂さんが演じたいずみのように、ふとしたきっかけでひとつの扉を開いてしまってそれからどんどん堕ちていってしまうのも、とてもリアリティがあると思いますし、富樫さんが演じられたトラウマと渇きを抱えた美津子というのもリアリティがあるように感じました。この映画に登場する女性たちは全て、根底では普遍的なものを描いているんじゃないかと思いました。
「リアリティを感じた」と語る水野だが、では水野は和子役を演じるにあたって、和子の心理はもちろん、映画に登場する女性たちの心理状態を理解することはできたのだろうか。
水野 :今回の取材ですごく面白いのは、男性の記者さんと女性の記者さんで聞かれることが全然違うことです。男性の方は、「演じるのは難しくないんですか?」という感じなんですが、女性は(この映画で表現される女性心理を)もう当然のこととしてわかっているというか、共通言語として認識して話されるんです。その違いがすごく面白かったです。たしかに私が演じた和子は、仕事はバリバリしていて職場での自分を演じ、家庭ではちゃんとお母さんを演じて、それでもどこかに満たされたいと渇望している自分がいるんですよね。そこでそれを満たしてくれる人と出会ったりしたらそっちに引っ張られてしまうという感覚は、理解できました。
最後に、本作へのメッセージを聞いてみると、作品同様に刺激的な答えが水野の口から飛び出した。
水野 :毒にも薬にもならない作品が多い中で、こんなに刺激的な毒のある作品は他になかなかないので、たまには身体に毒を入れることも免疫力を高めるうえで大事なことだと思うんです(笑)。だから色んな世代の色んな方に観ていただきたいです。例えば60代や70代の方や、高校生ぐらいの女の子や男の子が観たらどんな風に感じるんだろうと、すごく興味があります。あっ、でもR-18だから高校生は観れないんだった(笑)。この映画は、綺麗ごともないし、嘘もない、力のある作品で、園監督のセンスと情熱が詰め込まれた作品なので、私が出ていなくても観たい作品です。
「女性はみんな場所や会う人によって演技をしている」という言葉がストンと納得できるほど、本作に登場する和子、いずみ、美津子の3人は、昼と夜、家庭と仕事場、家と外で様々な表情を使いわけている。女性ならではの業の強さや日常生活に潜む闇や渇きを、ここまで見事に描ききった作品は今までなかったと断言できる、園子温監督と3人女優たちが提示する壮絶な愛の地獄に堕ちてしまう、毒気たっぷりのエンタテインメント作だ。
(2011年11月10日更新)
●11月12日(土)より、
シネ・リーブル梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.koi-tumi.com/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156433/