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監督の映画への愛が込められたラブ・ストーリー
『Lily』中島央監督インタビュー

 スランプに陥った新進気鋭の脚本家と献身的に彼を支える恋人との関係性を主軸に、脚本家という職業の苦悩と実像を描き出したラブ・ストーリー『Lily』が9月24日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場にて1週間限定で公開される。アメリカで映画製作を学び、脚本家としてキャリアをスタートさせた日本人監督・中島央の初の長編作だ。撮影はロサンゼルスで、アメリカ人キャストとスタッフで製作され 全編英語の仕上がりとなっている。本作の公開にあたり、中島央監督が来阪した。

 

 スランプ中の若手脚本家・ヴィンセントは、映画会社から「あと1週間で脚本を仕上げないとクビだ」と言われてしまう。そんな創作の苛立ちを同じ家に住む彼女にぶつけてしまい、すれちがいから彼女から別れを告げられてしまう…というラブ・ストーリーが綴られる本作。主人公の職業が脚本家であることから、自身も脚本家であった監督の実体験が元になっているのか、まずは率直に監督にぶつけてみるとー 

 

lily_photo.jpg監督 :そこはあまり意識してなくて、ただ純粋に「いい映画を作りたい」ということだけを考えてました。この脚本も追い詰められて書いたんですが、俺ってこういうこと考えてたんだって自分のことを再発見しましたね。それと、この映画はヴィンセントの映画だとよく言われるんですが、僕が一番こだわったのは、ヴィンセントの彼女のキャラクターをどう描くかということなんです。僕も脚本を書いてる時はヴィンセントが主人公だと思って書いていたんですが、編集しているうちに、これはヴィンセントの目から見た彼女という女性の話だな、と思ったんです。それと、普通の人の話というか、誰もが共感できる話にしたかったというのはありました。人間誰でも壁にぶつかることはありますし。当時の僕は、ヴィンセントに近い状態で、実際素敵な女性と付き合ってたんですが、その彼女を失った時に女性って偉大だな、と思ったんですよ。その偉大さを映画に閉じ込めておきたかったんです。女性って付き合えば付き合うほど愛が深くなっていくんですよね。そんな彼女を失った時に、脚本を書き直して編集もやり直して、「愛こそ全てだ」という最後の言葉を入れたんです。でも、本気で思っていなかったら、ああいう言葉ってすごく上滑りする言葉だと思うんです。でも、どん底から彼が何を学んだかを提示しないと観客は納得しないと思って、あの言葉を入れたんです。

 

 監督が語るように、主人公の職業というよりは、映画には監督自身の心境や状況が少なからず反映されているようだ。劇中で、彼女も失い、仕事もピンチに陥ってしまったヴィンセントが、エージェントにクビを告げられ、とっくみ合いの喧嘩をするシーンがある。それは今まで声を荒げることのなかったヴィンセントが突然キレたような、唐突にも思えるシーンだが、そこには監督の強い思いが込められている。 

 

監督 :脚本を書いている時点で、ヴィンセントは絶対に喧嘩をしなきゃいけないと思ったんです。ただ単にクビを宣告されるだけだったら観客が見ても納得しないと思ったんです。殴られることによって、完全に終わったということも表現できると思ったんです。ヴィンセントがそうなんですが、人生を壊しているのは自分だし、人のせいじゃないんですよ。この当時の僕もそうだったんですけど、つまらなくしているのも自分なんです。言い換えれば、どんな環境でも自分で良くできるし、それってどんな仕事にも当てはまると思うんです。自分がゲームオーバーだと思わなければゲームオーバーなんてないんですよ。自分が楽しいと思っていればどうにでもできるんです。(閉塞感のある)今の時代だからこそ、この映画に共感してもらえるんじゃないかと思うんです。

 

 「人生を壊しているのは自分だし、人のせいじゃない」「つまらなくしているのも自分」など、心に響く言葉を発する監督だが、そこには監督自身が『Lily』の日本公開に至るまでに経てきた様々な経験に基づいている。

 

監督:元々は、サスペンス映画を作ろうと思ってたんです。セットも作ってオーディションも終わってたのにおしゃかになっちゃったんですよね。それで、擬似予告編とか作ったりしてたんですが、それじゃ意味がないと思って。学生映画でもいいから短編映画を作ろうと思ったんです。そうしたら映画を作れることになって、短編の『リリィ』を作ったんです。それが国際映画祭に出品されて。でも、長編の『Lily』を作るという発想はなかったんです。結果的には、俺が『Lily』を作ったんじゃなくて、俺を使って『Lily』を作らされたんじゃないかな。日本でも年間200本ぐらい編集されても公開されない映画があるんですよ。ある意味『Lily』は出るべくして出た映画だと思ってるし、だからこそこの映画を信じてよかったと思います。

 

 「映画を信じる」という、映画好きにしか発することのできない言葉がすごく印象的だった。そんな、監督自身も大の映画好きと豪語するように、主人公の脚本家・ヴィンセントの部屋に貼られた、フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』など、映画史に残る名作のポスターをはじめ、本作は監督の映画への愛が込められた作品になっている。監督自身の映画への思いを聞いてみるとー

 

監督:全ての映画が好きですね。ゴダールやアンジェイ・ワイダ、日本だと黒澤明がずっと好きで、ウォン・カーウァイも好きですし、『恋する惑星』なんて映画館に3回も観に行きましたし。ポール・トーマス・アンダーソンとかクェンティン・タランティーノとか、アメリカ映画は全て好きなんです。だから、『Lily』は、自分の好きなものを全部出したらこうなってしまったというか。色んな映画体験が詰まった作品なんです。映画ってすごく素直で、その人の本質しか出ないんですよね。自分を大きくみせようと思っても、その人の大きさに合ったスケールの映画しかできないんですよ。映画史に残る映画って、映画自体がパワーを持っていると思うんです。そういうところを突き詰めて考えると、いくらきれいごとを並べても嘘のない映画ができてしまうんですよね。




(2011年9月22日更新)


Check

Movie Data

『Lily』

●9月24日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場にて1週間限定公開

【公式サイト】
http://lily-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156156/


Profile

なかじま・ひろし●東京都生まれ。アメリカ・カリフォルニア州にて映画製作を学ぶ。2003年にサンフランシスコ州立大学映画学科卒業後、脚本家としてキャリアをスタート。2007年に初監督短編『リリィ』を発表し、第40回ヒューストン国際映画祭、第11回ロサンゼルス国際短編映画祭など、世界中の映画祭で評価を受ける。2008年、『リリィ』を元に初の劇場用長編『Lily』の製作を開始。本作は第62回カンヌ国際映画祭にてワールド・プレミア上映後、追加撮影と再編集を経て日本での公開を迎えた。