ホーム > インタビュー&レポート > 事実に忠実に描いた心に染み入る人間ドラマ 『はやぶさ/HAYABUSA』竹内結子インタビュー
JAXA(宇宙航空研究開発機構)全面協力のもと、女性研究者・水沢恵の視点を通して、研究所の面々の“はやぶさ”にまつわる7年間にわたる奮闘を追いかける人間ドラマ『はやぶさ/HAYABUSA』が10月1日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほかにて公開される。監督は、『20世紀少年』3部作の堤幸彦が務め、実在の“はやぶさ”に関わっていた人物たちをモデルに実話を再現している。本作の公開に先立ち、主人公で、“はやぶさ”の運用やJAXAの広報を務める女性研究者・水沢恵に扮した竹内結子が来阪した。
“はやぶさ”と言えば、昨年の6月に地球へ帰還し、持ち帰ったカプセルの中から“イトカワ”の微粒子が発見されるなど、世界初の偉業をなしとげた小惑星探査機で、TVなどでドキュメンタリーや帰還の様子が映され、昨年の“はやぶさ”フィーバーも記憶に新しい方も多いはず。そんな“はやぶさ”にまつわる7年間を描く本作に出演が決まった時は、どのような心境だったのだろうか。
竹内:宇宙開発とか、“はやぶさ”が世界一であるとか奇跡の偉業をなしとげたと言われていただけに、実際にJAXAの先生たちにお会いするまでは、先生たちにスーパーマンのようなイメージを抱いていたんですが、皆さんほんとに気さくな方で、私と同じひとりの人なんだなと、すごく親近感を持ちました。だから、“はやぶさ”もその人たちの手で作られたものだし、そういう方たちの手によって奇跡と言われた行いを可能にしたんだと感じて、遠い世界のことだと思っていたことがすごく身近に感じました。でも、台本をいただいた時は「私に何が務まるんでしょうか」と聞きましたね(笑)。理数系はほんとにだめでしたし、まず“はやぶさ”という存在自体も地球に帰還するという報道で知ったぐらいですから。台本を読む前は、私にいち研究者としての役が来たと思っていたので、「無理、無理」と思っていたんですが、読んでみたら、このプロジェクトに関わる色んな人たちのお仕事を手伝う役どころだったので、それはおいしいな、と思ったんです。でも、実際撮影に入ると私の台詞の中に専門用語がすごく多かったので、調べたり、意味を理解するのがすごく大変でした。
そのように、竹内は水沢恵の役づくり以前に勉強しなければならないことが多かったようだが、逆に本作に出演したことで宇宙への興味も増し、疑問がたくさん沸いてきたことが面白く感じていたよう。
竹内:調べる作業はたしかに楽しいものではなかったんですけど(笑)。ドキュメンタリーを見たり、先生方の話を聞いていくと、ひとつのことをなるほどと思って、そうするとどんどん面白さが繋がっていくというか、疑問がふつふつと沸いていくのが楽しかったです。他愛のないことも聞いてましたね。(JAXAの)川口(淳一郎)先生に「宇宙は音がするんですか?」とか子どものような質問ばかりしてました。そういう些細な質問を聞いていくのは楽しかったです。その期間は頭が良くなってたと思います(笑)。今は、別の作品の撮影に入ってしまったので、きれいさっぱり忘れてしまったのがほんとにもったいないです(笑)。
そんな宇宙や専門用語の勉強に四苦八苦していた竹内だが、実は竹内が演じた水沢恵というキャラクターは、本作で唯一実在のモデルがいない、いわば架空の人物。しかも、猪突猛進というか、目の前の自分が夢中になっていること以外は目に入らない、ちょっと変わったキャラクターだ。
竹内 :現場に入る前に目指すものがないという心もとなさを除いてしまうと、後はもう現場に入ってからでいいやと開き直ってました。劇中での先生方との対応や、色々な出来事にどう反応するかという部分を考えて監督に相談すると、監督が「むしろ水沢さんが反応することで今起きている出来事が深刻な状況なのか、楽天的に考えていいことなのかが伝わると思うので」とおっしゃってくれたので、私は何班かと聞かれたら“リアクション班”です(笑)。リアクションがちょっと変なんですよね、彼女は。水沢さんというキャラクターは、目の前に出されたことに一生懸命になるあまり、身の回りのことがおろそかになってしまうという不器用さを持ち合わせている人。でも、脇目も振らず目の前のことに取り組むその純粋さはすごく素敵ですし、人とのコミュニケーションがちょっと苦手なところがあるんですが、自分の好きなことや伝えたいことに対してだったり、何かに集中している時は、相手を捕まえるかのような目の見開き方をするとか、そういう彼女の変わったところが面白いと思いました。
そして、そういう竹内を取り囲む共演者たちも、西田敏行、高嶋政宏、佐野史郎、山本耕史に鶴見辰吾と錚々たる演技派俳優が、実在のモデルをよりリアルに再現している。そんな錚々たるメンバーとの共演についてはー
竹内 :錚々たるメンバーに臆することなく現場にいられたのは、水沢さんのキャラクターの力が大きいと思います。女としての自分をアピールすることもなければ、愛想良くすることもないですし、ただ目の前のことに向かっていくのが一番大事なキャラクターだったので、(錚々たる方々と共演しているのに)相手の反応を気にしなくていいというところが大きかったです(笑)。
たくさんの人たちの力で実現された“はやぶさ”プロジェクト。その7年間の過程を映し出した本作は、やはり途中で着陸に失敗したり、地上との通信が途絶えたりとトラブル続きだったにも関わらず、偉業をなしとげた“はやぶさ”の姿に感動を覚える人は多いはず。そんな“はやぶさ”の姿に竹内も励まされたそう。
竹内:この“はやぶさ”プロジェクトでも、映画やドラマを作るにしても、目標がひとつあって、それぞれのポジションの人たちがみんな自分のやるべきことを精一杯やって結果を出していくという作業は共通していて、職業は違っても、大勢で何かを作る、何かを手がけるという意味では共通しているんじゃないかと思うんです。その中で、私自身もそうですけど、仕事を始めて何年かすると、ある程度色んなことがわかってきて、色々大変なことにもぶつかってきて、その大変さに疑問を持ち始めて、自分が何のために頑張ってるのかわからなくなる瞬間って、たぶんどなたにもあると思うんですよね。そういう時に、この映画のことを思い出して、今はしんどいけどもうちょっと頑張ったらいいことがあるかもしれない、と思ってもらえると嬉しいです。
本作『はやぶさ/HAYABUSA』をはじめ、来年には2作も“はやぶさ”プロジェクトにまつわる作品が公開される。その先陣をきっての公開となる本作の魅力を竹内に語ってもらった。
竹内 :やはり、堤さんの作品ですから完璧にコピーしたところです。まず事実に一番忠実なのがこの作品だと思います。一番に公開されるので、早いもの勝ちですよね(笑)。3Dのように迫り来るような映像はないかもしれませんが、心に染み入るものはあると思います。事実がこんなに人の気持ちを動かすことができるんだというのが、ちょっと悔しいところもあるんですが(笑)。
ユーモアも織り交ぜながら、にこやかに撮影や“はやぶさ”について語ってくれた竹内。最後に竹内が話してくれたように、“はやぶさ”の姿を見るにつけ、“事実がこんなに人の気持ちを動かすことができる”ことに驚きながら、“はやぶさ”の諦めない姿に何度でも心が震える人間ドラマに仕上がっている。
(2011年9月29日更新)
●10月1日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.hayabusa-movie.com
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156680/