インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 何を食べるかよりも、誰と食べるかということの 大切さを痛感するグルメな感動作 『極道めし』前田哲監督インタビュー

何を食べるかよりも、誰と食べるかということの
大切さを痛感するグルメな感動作
『極道めし』前田哲監督インタビュー

 刑務所内のある房で大晦日の夜のおせち料理を賭け、5人の同房者たちが「今まで食べて美味しかったもの」の話をし、どのエピソードが一番喉をごくりと鳴らした人が多いかを競うという心温まる物語『極道めし』が9月23日(金・祝)より梅田ブルク7ほかにて公開される。誰しもが持つ、“食”にまつわる人との思い出が、舞台劇のような、またチープなコントのような、そしてアニメーションも取り入れた、実験的な試みの演出による、コミカルながらも涙を誘う人情ドラマに仕上がっている。本作の公開に先立ち、前田哲監督が来阪した。

 

 本作の見どころは、5人それぞれが語る、見るからに美味しそうな“思い出めし”の数々と、それにまつわるエピソード。刑務所の中という閉ざされた世界にいることで美化されているであろう思い出話は特に胸をうつ。まずは、暗い刑務所の中との対比でより印象に残る、男たちが語る“思い出めし”の演出方法について監督に聞いてみるとー

 

監督:5人が語る話は、本当のことなのか、作りごとの嘘なのか、事実は分からないわけです。しかし、その“思い出めし”の中には間違いなく家族や、大切な人への気持ちが入っています。映画は、フィクションという作りごとの嘘で“真実”を物語るもので、そういう意味では映画そのものの構造と同じだと思いました。語りをどのようにイメージし、映像化するか・・・、幻想的というか、どこかファンタジーのような、要するに空想の世界なので、本当か嘘かもわからないし、喉をごくりと鳴らしたら勝ちなんですから、みんな頭の中で想像しながら聞いているということで、ああいう表現があってもいいんじゃないかと思いついたんです。

 

 そして、監督の演出に見事に応えた刑務所で同房となったメインキャストたちも、主演に抜擢された永岡佑や、個性派俳優の勝村政信、舞踏家で大森南朋の父親としても知られる麿赤兒、映画初出演ながらそのぽっちゃり体型が人の目を惹きつける、ダンスカンパニー・コンドルズ所属のぎたろー、幼少期から子役として活躍し、今後が楽しみな落合モトキ、また永岡演じる健太の思い人で本作のヒロイン、しおりを演じた木村文乃など、個性的で賑やかなキャストの顔ぶれも楽しみのひとつ。 

 

監督 :主人公の栗原の古臭い男の感じが永岡くんに合っていると思ったんです。でも今回の撮影はしんどかったと思いますよ、かなり。他の4人は楽しく、和気あいあいとしていましたが、彼には話しかけないで、ひとりになる状況に追い込んだので、ひとりぽつんとしてました。麿さんは阪本順治監督の『どついたるねん』で僕が助監督を務めて以来の付き合いなんですが、絶えずキャスティングはしたいと思っていて、今回も自分の中では一番最初にあの役は麿さんにやってもらおうと決めてました。舞台に立って表現してる人だから、オーラが出てるんですよね。ぎたろーくんと木村文乃ちゃんはこれから来ると思いますよ。文乃ちゃんはCMが4本も決まりましたし。ぎたろーくんは、こういうキャラクターが今は塚地さんぐらいしかいないから、引っ張りだこになるんじゃないですか。

 

 そんな魅力的なキャストたちが演じてみせた“思い出めし”のエピソードと同じぐらい私たちの心を捉えて離さないのが、“思い出めし”の数々。好きな食べ物のテッパンである「スキヤキ」や「卵かけごはん」、あっと驚く「オムライス」、「おっぱいプリン」など、おなかがすいている時に観ると、思わずお腹が鳴ってしまいそうな“思い出めし”がたくさん登場する。実は、そんな魅惑的な“思い出めし”を考えたのは誰でもない、前田監督だ。 

 

監督 :色々考えましたね。定番のカレーやラーメンは入れた方がいいんじゃないかとか。(あっと驚く「オムライス」(※映画を観てのお楽しみ!)は何か驚かせたいというのと、ボリューム感がほしかったんです。そして、「おっぱいプリン」はみんなの憧れですしね。プリンと茶碗むしって好きな男の人多いんですよ。茶碗むしは、母親の思い出があるんだと思います。ほとんどの男性はマザコンの要素を持っているんじゃないですか。最初に出会い、密に接触する女性は母親ですし、子どもの頃の世界は、一番近い存在である母親の影響なしでは生きていけないでしょう。そこから逃れることなんてできませんよね。捨て身で愛してくれる人なんて母親以外いないと思います。男なんて所詮、母親という女から生まれ、愛した女の呪縛の中で生きていく。男なんて生き物はそんなもんです。そういう映画なんです、この映画は。男がいかにだめかという映画なんです。この映画は、僕個人のことで言うと母親に対するラブレターでもあるんです。母親が作ってくれたものを食べて育ってきたわけですけど、みんなちゃんと「いただきます」って言ってないと思うし、「ご馳走様、美味しかった」って毎日作ってもらっていても言ってないと思うんです。自分の自戒でもありますが、ほとんどの人が「ありがとう、美味しかった」とも言わず、当たり前だと思って暮らしていると思うんです。これだけ身近な人がどんな思いで作っているのか思い知ってほしい。自分に対する反省と自戒も込められています。

 

 そのように、感謝の気持ちを口にすることの大切さや当たり前の毎日のありがたさを前田監督が語ってくれたように、本作には、“誰にだって忘れられないメシがある、忘れられない人がいる-”という心を震わせるキャッチコピーがついている。

 

監督:何を食べるかということよりも、誰と食べるかということですよね。誰が作ってくれた料理なのかが大事なんですよ。結局、忘れられないメシというのは、この映画のキャッチコピーも散々考えたんですが、“忘れられない人がいる”ということなんです。誰が作ってくれたのか、誰と一緒に食べたのか、それは一番身近にいる、当たり前の毎日を過ごしている家族であったり、一緒に住んでいた愛する女であったり、その時間がいかに幸せだったのかということを、登場人物たちはこういうことで思い知ったんです。でも、本当は普段からそういう思いでいるかいないかということが大きいと思うんです。なかなか普通に生活しているとそこまで思い至らないと思うんだけど、今年は震災があって、忘れていた大切な人への思いやりや譲り合う気持ちとか助け合うことの大切さをみんなが思い出したんじゃないでしょうか。普段の僕らが「いただきます」「ご馳走様」「ありがとう」「美味しかった」という言葉を身近な人に言えているかどうかということですよね。それは、丁寧に毎日を生きるということだと思うんです。照れくさくてなかなか言えないかもしれないですけど。人に元気をあげるということは、その人から元気をもらうということ。だから、感謝の気持ちもそれと同じだと思います。

 

 監督が語ってくれたように、“何を食べるかということよりも、誰と食べるかということ”が大切だと改めて気づかせてくれる、観終わった後で大切な人とご飯を食べたくなるグルメな感動作だ。食欲の秋だけに、映画館で映画を観た後は食べすぎに要注意です!




(2011年9月26日更新)


Check
前田哲監督

Movie Data

(C)2011『極道めし』製作委員会 (C)土山しげる/双葉社

『極道めし』

●梅田ブルク7ほかにて上映中

【公式サイト】
http://gokumeshi-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156356/