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記録映画界の名女性監督が映し出す遥かなる故郷への思い
『遙かなるふるさと 旅順・大連』羽田澄子監督インタビュー

 日本の女性監督のパイオニアであり、記録映画の第一人者でもある羽田澄子監督の最新作『遙かなるふるさと 旅順・大連』が大阪・十三の第七藝術劇場で公開中、8月20日(土)より神戸アートビレッジセンターで公開される。旧満州の大連市と旅順で生まれ育った同監督が、日中の国交回復後も長らく未開放で、一昨年になりようやく全面開放された同地を訪ね歩く。羽田監督の記憶の中にある懐かしい故郷の面影が甦るとともに、すっかり様変わりしてしまった現代の中国が見えてくる。本作の公開にあたり、羽田澄子監督が来阪した。

 

 大正15年に旧満州で生まれ、成人するまでの大半を現在の中国の大連と旅順で過ごした羽田澄子監督。「日中児童の友好交流後援会」が企画した旅順と大連のツアーに彼女は参加し、撮影が許可されたことで本作は作られた。まずは、大連には何度か足を運んだことがあるそうだが、日露戦争の激戦地であった旅順は2回目で撮影は今回が初めてとのこと。まずは、中国の変化について聞いてみるとー

 

監督:1999年に初めて旅順に行って、大連には1980年代、文化大革命の後で訪れました。大連に訪れた時は文化大革命の直後だったので疲弊しきってボロボロになっている感じでしたが、旅順には1999年に行った時に既に高層ビルが建っていて、そして、服装が変わっていました。最初の頃は人民服を着ている人ばかりでした。色んな意味で中国はどんどん豊かになっていると思います。やはり建造物が全然違っていて、高層ビルがどんどん建って、道路の幅が広くなって、色んなものが新しくなってました。

 

 そして、何度か足を運んだことのある大連と違い、2度目の訪問となる旅順に対しては、また違う思いを監督は持っているよう。また、軍港であることによってより観光地化されている現在の旅順にも、監督は複雑な思いを抱いている。

 

監督:(旅順には)基本的な街並みは残っていますし、懐かしいという思いは強いです。でも、ただ懐かしいと感傷に浸ることはできない場所なんですよね。旅順は軍港で軍の施設がたくさんあるので、なかなか開放されなかったんですが、日中の国交が回復して、日本人が懐かしい場所に行きたがるようになって、中国は観光事業として開放したんだと思います。お金になると思って復元した施設などもたくさんありますし。また、旅順には日露戦争を再現するような場所を作ったりしていて、歴史をどうこうと言うよりは、中国からすると利益を生み出す観光スポットになっているんです。

 

 監督が語るように、観光地化された旅順や大連には様々な歴史的施設や再現した施設が数多く存在し、劇中監督ら一行はそのような施設をツアーとして巡っている。その中には、亡くなった人の骨がそのまま展示されている施設があるなど、衝撃的な展示もある。監督もその展示方法には驚いたようでー 

 

監督 :刑務所や監獄には今まで日本人は入れなかったんですが、今回は入ることができたんです。でも、写真の展示だけは見せてもらえたんですが、奥は見せてもらえませんでした。おそらく、日本人に殺された人たちの骨などが展示してあるんだと思います。ここに中国の人たちの考え方が現れてますよね。これが中国の人たちの挙国一致の精神を教育するのに役立っているんだと思うんです。あれは全て教育施設ですから。外国から侵略をうけて中国はこんなにひどい目にあった歴史があるということを若い人たちに伝えるために、中国はあの施設を使って愛国主義教育に使ってるわけです。

 

 本作が映し出すのは、そのような衝撃的な施設を巡る映像ばかりではなく、その多くは羽田監督が、以前暮らした旅順や大連の街を訪ね歩く姿やその時代の写真など。それは、ともすればプライベートフィルムのようになってしまいがちだが、監督は編集の段階で、自分の説明を映画に組み込まないと自分の思いは伝わらないと気づき、逡巡を繰り返した後に本作が出来上がったそうだ。

 

監督:私個人の映像を入れることは、旅順と大連への思いを映画にしたいと思っていただけで、撮影の段階では全く考えてなかったんです。編集の段階になって、もっと私の気持ちを伝えようと思うと自分のことも説明しないと伝わらないと気が付いたんです。実を言うと、引き揚げの時には日記やノート、写真なんかも全部没収されたので、私は写真を1枚も持たずに日本に帰ってきてるんです。でも、亡くなった母がアルバムを持っていたので、母の持っていた写真を使って編集を始めたんです。結局、客観的な説明では映画にならないんです。私なら私の感性をとおしたものでなければ表現できないと、編集の段階に入って考えているうちに明確になって、こういうかたちになりました。

 

 「ただ懐かしいと感傷に浸ることはできない場所」と監督が語るように、普通の人ならば「ただ懐かしい」と感じられるふるさとに、複雑な思いを抱く監督の思いが伝わるドキュメンタリーだ。




(2011年8月12日更新)


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Movie Data


(C)Jiyu Kobo Co., Ltd.

『遙かなるふるさと 旅順・大連』

●第七藝術劇場にて公開中
●8月20日(土)より、神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://www.jiyu-kobo.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156529/