インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > ヴィンセント・ギャロの鬼気迫る演技を映し出した傑作 『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ監督インタビュー

ヴィンセント・ギャロの鬼気迫る演技を映し出した傑作
『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ監督インタビュー

 『アンナと過ごした4日間』で17年ぶりに監督業に復帰した、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキによる、アフガニスタン駐留の米兵を殺し拘置されたタリバン兵の脱走劇『エッセンシャル・キリング』が8月20日(土)より第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォほかにて公開される。極限状態に置かれた主人公に扮したヴィンセント・ギャロは、台詞も一切なく、表情と動作で過酷なサバイバルを体現している。前作『アンナと過ごした4日間』では、東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞、一昨年のキネマ旬報の洋画ベストテンでは第7位にランクインするなど、監督自身が第2の故郷と呼ぶ、日本で愛されている監督だ。本作の公開に先立ち、そんなイエジー・スコリモフスキ監督が来阪した。

 

 ヴェネチア映画祭審査員特別賞と主演男優賞をW受賞した本作『エッセンシャル・キリング』で米軍に追われるアラブ人兵に扮したヴィンセント・ギャロは、一旦は米兵に捕まるものの、その後もひと言も発することはなく、ひたすら森の中を逃げ続けるという、“サバイバル”という言葉がぴったりで、どんどん野生化していくというキャラクター。そんなキャラクターにヴィンセント・ギャロを選んだ理由とはー

 

監督:私は、ヴィンセント・ギャロとは昔からの知り合いで、『GO!GO! L.A.』という映画で共演したこともあります。彼のことは動物的で野性的な役者だと思っています。いい役者であるということはもちろんですが、彼は危険な男という感じがするんです。私は、初めからヴィンセント・ギャロしか頭になかったですし、(彼が)ひげ(をはやすこと)や髪型などでアラブ人に見えることもプラスだと思いました。

essential_photo.jpg

 そんなヴィンセント・ギャロ扮する脱走兵がひと言も発しないうえに、よく映画で見るような●●年●月●日、●●というような、年代や場所を特定するような場面の説明も本作には一切ない。それも、極限まで研ぎ澄まそうという監督の演出だ。

 

監督:わざとセリフなどの説明は省いたんです。それは、出来るだけ映画を曖昧にしたかったからです。主人公がひと言口を開けば、彼がどこから来たのかわかってしまうし、物語がどこから始まってどこで終わるのかを限定させたくなかったんです。この映画の主題に政治的な目的はないですし、彼がどこからどこへ運ばれていくのか、彼はテロリストなのか、無実なのか、どのような人物なのかということを全て曖昧にしたかったんです。この映画の本当の主題は、動物が狩りにあうような状態に陥ってしまった、ひとりの男の運命を描きたいということなんです。この21世紀の高度に発達した社会の中でこのような悲劇的なことが起こり得るということを描いたんです。

 

 3月に起こった東日本大震災の影響で、多くの海外の俳優や監督が来日をキャンセルする中来日し、なんと来阪まで果たしてくれたイエジー・スコリモフスキ監督。周囲の反対なども想像できるが、監督は「私が日本に来ることを止められる人なんて誰もいません(笑)」とはっきり言い放ってくれた。そんな監督が極限まで研ぎ澄まして描く、ヴィンセント・ギャロ演じる、ひとりの男の生きるか死ぬかのサバイバルを映し出した傑作だ。




(2011年8月18日更新)


Check

Movie Data


『エッセンシャル・キリング』

●8月20日(土)より、
第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、
京都みなみ会館にて公開
●9月10日(土)より、
神戸アートビレッジセンターにて公開

【公式サイト】
http://www.eiganokuni.com/EK/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156578/