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「棺おけに入れてもらいたい作品になった」
『さや侍』松本人志監督、板尾創路ら会見&舞台挨拶レポート

 『大日本人』『しんぼる』と、既成の映画概念を打ち破ってきた松本人志監督が時代劇に挑戦した監督第3作目『さや侍』が6月11日(土)より大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。侍の命とも言える刀を捨て、鞘(さや)しか持たない“さや侍”勘十郎と、その娘・たえの流浪の旅と、勘十郎が捕らわれた後に挑む“30日の業”をとおし、親子の絆を映し出す。「笑い」を中心に据えた前作までと異なり、本作では人と人との繋がりや父と娘という親子の葛藤や結びつきなど、無名の53歳と9歳を主演に起用して監督自身の演出そのもので見せており、監督自身に娘が誕生した影響が様々なシーンで感じられる作品となっている。公開に先立ち、松本人志監督と勘十郎の牢屋敷の見張り番役を演じた板尾創路、勘十郎の娘・たえに扮した熊田聖亜、サプライズゲストとして主演の野見隆明らが来阪し、会見と舞台挨拶を行った。
 

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 「頑張りました。よろしくお願いします」という松本監督の第一声で会見は始まった。松本人志監督の監督第3作目にして、初の時代劇挑戦となった本作。松本監督と時代劇という組み合わせを意外だと感じた方も多いかもしれない。まずは、3作目の制作について聞いてみるとー
 

松本:今回はおとぎ話をやろうと思ったんです。よく、映画の宣伝文句で「笑って泣けて」ってよく耳にするんですが、意外とそういう映画は少ないと僕は思っていて。だから、ちゃんと笑いと涙があるハイブリッドな映画を作ってみたいなと思った時に、込み入った、深読みするようなストーリーは邪魔だと感じたので、今回は誰が見てもわかるものになっていると思います。時代物に関しては、撮ってみるとこんなに大変かと思うぐらい朝も早くて、殺人的なスケジュールだったので、できることなら二度とやりたくないです。
 

 このように「時代物は二度とやりたくない」と語る松本監督だが、本作で主演の野見に次ぐ出演シーンを誇った板尾は、さらに不満があるようだ。
 

板尾:“づら”は大変でしたね。僕も時代劇は初めてじゃないんですが、こんなに長期間に渡って毎日“づら”をかぶったことはなかったので。悪気はないと思いますが、江戸時代の人はなぜあんな髪型にしてたんでしょう(笑)。ちょっと江戸時代の人を嫌いになりました(笑)。後世の人のことを考えてないですもん。迷惑してます(笑)。」
 

 ふたりとも、時代劇特有の“づら”などに不満はあるようだが、松本監督第3作目のもうひとつの驚きは、松本監督自身がメインキャストとして出演していないことだろう。そんな松本監督に代わり、主演を務めたのが、松本監督が以前に手がけたTV番組「働くおっさん劇場」に出演していた一般男性・野見隆明だ。
 

松本:野見さんが切腹をしたくないがためにジタバタするというのは、最初から思いつきとしてありました。ギャラがなしで済みますし、完全な素人さんなのでヒットしなかったらあいつのせいにできますしね(笑)。野見さんには、これが映画だとも言わず、台本も渡してなかったんです。彼は、本気で“30日の業”をしてたんですよ。ただ、野見さんひとりだとあまりにも画面が汚いので、子どもをつけようと思って、最初は男の子だったのが女の子に変わったことで、僕の父親としての思いが(映画に)出てきたんじゃないかと自分では分析してます。
 

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 松本監督が語るように、監督自身が父親になったことが影響しているだろうと感じられるシーンが、本作には随所に存在している。そこには監督が込めた娘への思いが透けて見える。
 

松本:うちの子どもはまだ1歳半なんですが、この映画に登場するたえは、僕の理想の娘ですね。ああいう娘になってくれたらいいなとは思います。でも、自分は野見さんみたいになりたくないです。絶対になりたくないです(笑)。
 

 本作について、笑いを交えながら和やかに話す松本監督だが、随所に、並々ならぬ本作にかけた意気込みが感じられる。最後に“映画を作ること”について松本監督に聞いてみるとー
 

松本:僕もよくわからないんですよ。なぜこんな辛い思いをして映画をやるのか。映画に限らず何かを作っていくことで、棺おけに入れてもらえるものが増えていくというか、棺おけまで持っていけるものをできるだけいっぱい作りたいというか、そんな感じなのかな。この『さや侍』はそれに値する作品になったと思います。これだけ大掛かりなことはTVでは難しいでしょうし、いつも言ってるように、映画は海を渡ると思うし、映画はずっと残っていくものなので。20代30代では出来なかった、照れくさい自分の正直な思いは、今回初めて人を使うことでストレートに表現できたと思います。
 

 ただならぬ監督の意気込み感じられる本作だが、“30日の業”も見どころのひとつ。実際に、まるでコントのような30個のネタを野見扮する勘十郎が披露している。熊田は「実際に自分が絵を描いた腹踊りが一番好き」、野見は「ふすま割りが、なかなか割れなくて大変だった」、松本は「うどんすすりです。ほっしゃん。にレクチャーしてもらったけど、あれはびっくりした」と語るように、純粋に楽しめるものになっている。松本監督の真骨頂とも言える父親と娘の感動的な物語の中でも、“笑い”は忘れない、ある意味松本監督らしさを感じるシーンも楽しんでほしい。




(2011年6月 9日更新)


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Movie Data



(C)2011「さや侍」製作委員会

『さや侍』

●6月11日(土)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開

【公式サイト】
http://www.sayazamurai.com/

【映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155956/