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「些細な日常の出来事の中にこそ、かけがえのないものがある」
『奇跡』是枝裕和監督、まえだまえだインタビュー

 『歩いても歩いても』『空気人形』などの作品で国内外に多くのファンを持つ是枝裕和監督が、人気お笑いコンビ・まえだまえだのふたりを主演に迎えて描いた最新作『奇跡』が6月11日(土)より梅田ブルク7ほかにて公開される。九州新幹線開通の日に起こるといわれる“奇跡”をめぐって、その奇跡を信じる子どもたちと、彼らを見守る大人たちのドラマが描かれる。離婚した母と鹿児島で暮らす少年・航一は、博多に住む父に引き取られた龍之介と連絡を取り合い、ふたりは再び家族をひとつにまとめようとしていた。そんな折り、福岡と鹿児島を結ぶ新幹線の開通日に奇跡が起こるという噂が。この“奇跡”に併せた壮大な計画を練り…という物語が綴られる本作の公開にあたり、是枝裕和監督と、主演の航一を演じた前田航基(兄)、龍之介に扮した前田旺志郎(弟)が来阪した。
 

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 是枝監督とまえだまえだ。一体どんな雰囲気なのかと思いながら3人を待っていると、はしゃぐまえだまえだのふたりを監督がなだめるという、実際の親子のようなかけあいで登場した。まずは、当初主人公が男の子と女の子という設定だったにも関わらず、オーディションでまえだまえだに出会い、物語の設定を変えてまで、まえだまえだを撮りたいと思ったという監督に、オーディションのことについて聞いてみるとー
 

監督:オーディションの前にお兄ちゃんの方は、都会から火山があって灰の降る鹿児島に引っ越してきて、環境変化が受け入れられない男の子と考えてました。なので、大阪と東京でオーディションをしました。それと同時に博多に、願いごとを叶えるために新幹線を見に行く女の子がいて、彼女と出会うラブストーリーという風に考えてたんだけど、(航基と旺志郎)ふたりとも撮りたくなっちゃったんで、女の子はやめて男の子にしたんです。ふたりについては、旺志郎くんの自由奔放な感じをこのまま撮りたいと思ったし、お兄ちゃんは非常にお芝居ができるし、オーディションの時から群を抜いてたので、この子は映画を背負える子だと思いました。旺志郎は、撮ってからみんなびっくりしてましたね。「こんなにできるんだ」って(笑)。
 

旺志郎:やればできるねん(笑)。
 

 すかさず、合いの手を入れる弟の旺志郎。こういう自由奔放さこそ、監督が見初めた理由だろう。だが、映画の仕事は初めてで、久しぶりのオーディションだったふたりは、どのように感じていたのだろうか。
 

航基:久しぶりのオーディションだったので、だいぶ緊張しました。昔は慣れていたというか、よくオーディションを受けてたから雰囲気にはなじんでたんです。最近はなかったので、雰囲気を忘れてたというか、初めてオーディションを受けに行く時と同じ感覚でした。
 

旺志郎:僕は全然(笑)。あんまり緊張はしてなかったけど、初めての映画だったから、受かるかな~っていうドキドキ感はありました。
 

 そして、ふたりに実際のオーディションの様子を聞くと、「誰が監督かわからなかった」(旺志郎)、「監督からえらい人オーラが全く感じられなかった」(航基)と口を揃えていた。では、実際に撮影に入ってからの監督の印象はどのようなものだったのだろう。
 

航基:怒らなくて穏やかで、優しい監督でした。むしろ監督も一緒に怒られてました(笑)。
 

監督:ほんとです(笑)。時間守らないし、撮影もおすし、子どもたちが遊びだすと一緒になって遊ぶかし、地元の人と無駄話してたりとかするし。そうしたら、スケジュールを先に進めないといけない人は怒るわけですよ(笑)。すいませんって言ってました(笑)。
 

旺志郎:ちょっとは怒ると思ってたけど、ほんとに全然怒りませんでした。
 

航基:まさか監督が怒られるとは思ってなかったし、監督って怒られるイメージないじゃないですか。だからおもろって思いました(笑)。
 

監督:僕が怒らないのは、怒らない性格なのではなくて、子どもを撮る時にはあれはだめ、これはだめと言い始めるとルールに縛られて、言ってと言った台詞しか言わなくなるんです。だから、それで自由度が下がるのが嫌で、自分でそういうことは言わないというルールを決めてるんです。甘やかしてると言われるかもしれないけど、結果的にはその方が映画に収まらないような子どもの色んな表情が撮れるので、今回はそのやり方でやりました。単純ですけど、「笑って」って言って撮るより、こっち側で面白いことをやって笑ってるのを撮る方がいい笑顔になるじゃないですか。それと一緒ですよ。全てのシーンで言わされてる感じがしないし、自分の中から出てきてる感じがするから、今回それはすごくうまくいったと思ってます。オーディションの時に、そういうやり方でうまく引き出せる子を残していったので、そのセレクションは正しかったと感じました。
 

 では、今回も是枝作品の常連である原田芳雄や樹木希林に橋爪功、阿部寛にオダギリジョー、大塚寧々と錚々たる演技派俳優が名前を連ねているが、逆に、大人の俳優陣にはどのような演出をしていたのだろうか。
 

監督:大人の俳優さんに対しては何も言ってないです。台本は渡してますが、逆に言うと大人の俳優さんは画面に映っている演出家というかたちで、僕の代わりに子どもと関わりながら子どもから表情を引き出してもらうための味方になってもらってました。だから、その場で本人に台詞を言ってもらうという、贅沢なリハーサルに希林さんにも橋爪さんにも付き合っていただきながら、(子どもとの)掛け合いを決めていたので、(彼らも)演出側なんです。だからそういうことが出来るというか面白がれる人をキャスティングしました。
 

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 そんな大人の俳優陣との演技の中に、航基は橋爪功と、旺志郎はオダギリジョーと、それぞれ迫真の演技を見せているシーンがある。それも、長時間のワンカットの撮影だったのだが、ほぼふたりに任せたことで監督は狙い以上のものになったと感じたそう。だが、ふたりにとってはー
 

航基:一番苦労したシーンですね。橋爪さんとのマンツーマンのシーンだったんですが、監督の思惑どおりだったみたいです。あのハラハラ感がいいって、この映画のキャンペーンで一緒に取材を受けてる時に聞かされて、すごいなと思いました。僕は、勝手に自然に一生懸命説得しようと思ってやってたから、一本取られたと思いました(笑)。
 

監督:一応狙いどおりということで(笑)。
 

 取材の最中も、まえだまえだのふたりの素朴な質問にも丁寧に監督が答えているのが印象的だった。最後にありそうでなかった『奇跡』というタイトルにちなんで、この映画にまつわる奇跡について聞いてみると、監督は「天気が良かった。台風もうまく避けてくれたし」というコメントだったが、まえだまえだのふたりからは「ふたりで映画に出れたことが奇跡」と監督が思わず笑顔になるような感動的なコメントが。そんなタイトルに込めた思いを監督に聞いてみるとー
 

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監督:最初に、“奇跡を願いに行く話”という風に思いついて付けたんですが、ストレートすぎるから恥ずかしくて(笑)。だから、ずっと(仮)ってつけてたんです(笑)。でも、撮ってる間に『奇跡』っていうタイトルだから、わかりやすく奇跡が起きた方がいいんじゃないかっていうアドバイスがけっこうきたんですよ。だけど、嘘くさいと思って。人がどこかに奇跡を感じるというか探せるような話にしようと思ったんです。逆に、これで「奇跡」とつけておけば、観た人が探してくれるんじゃないかと(笑)。見過ごしてしまいそうな些細な日常の出来事の中にこそ、大切なかけがえのないものがあるということに子どもたちが気付く物語なんです。




(2011年6月10日更新)


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Movie Data

(C)2011「奇跡」製作委員会

『奇跡』

●6月11日(土)より、梅田ブルク7ほかにて公開

【公式サイト】
http://kiseki.gaga.ne.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155257/