ホーム > インタビュー&レポート > ハン・グァン監督インタビュー『亡命/Outside the Great Wall』
故郷を追われ、異国の地で不自由な生活を強いられている、中国から海外へと亡命した知識人、作家、芸術家、詩人、政治活動家たち。彼らの発言を通して、中国の民主化が意味するもの、そして人間の尊厳について問いかける『亡命/Outside the Great Wall』が第七藝術劇場で公開されている。'87年に留学生として来日し、映像や文章など表現の場で幅広く活躍する中国人のハン・グァンが監督を務め、越境者が語る現代中国の実像を浮き彫りにしている。本作の公開にあたり、ハン・グァン監督が来阪した。
60年代の文化大革命から’89年6月4日の天安門事件へと続く中国の民主化運動の中で、多数の文化人が世界各国への亡命を余儀なくされている。しかし、中国国内ではその事実が明るみになることはなく、民主化の動きを抹殺すべく、政府による情報統制が行われているのが現状だと監督は語る。
監督:民主社会であればNOと言えるし、抵抗する力もあるし、議論ができるんです。でも、中国では議論できない。中国は、プロパガンダが上手で、「これは治安のため」などと言って話をすりかえて、大義名分をいくらでも作ってしまうんです。そうすることで一党支配を維持してるんですが、結局、インターネットなど海外と触れ合えるメディアがある以上、国を抑えるためには情報統制しかないんですよね。この映画は、その情報統制に抵抗する個人独自の考えを集めたものなんです。
監督は、情報統制も含めた中国政府の支配体制には長い歴史があると主張する。
監督:中国は権力を重視する国なので、人権や民衆を軽視する傾向にあるんです。これは今の問題じゃなくて、もっと昔からのことで、今でも封建支配が続いているんです。文化大革命でも人民大衆は、上層部の権力闘争に利用されたんです。天安門事件も亡くなったのはほとんど農民でした。その天安門事件が北京大学から運動が盛り上がったように、北京大学は伝統的に民主化寄りの大学だった。でも、今の北京大学の教授は政府寄りの人が多く、大学自体が変質してしまった。政権に協力する教授にはすごく予算が与えられるし、給料も高い。それが中国の経済成長の成果なんです。様々なことがお金で解決できるようになり、お金万能主義になってしまった。昔の中国は家族の国だったのに、今では党のものになってしまった。今の中国は、華やかに見えるかもしれないですが、裏を見れば自然は破壊され、人間が求めるものもお金ばかりで、人間の内部から自然まで全て壊されている。国自体はすごく巨大化しているのに、中身はからっぽなんです。
そう監督が語るように、経済構造は改革され、いわば民主主義国家と並ぶほど裕福な国民も多数存在する中国。しかし、本当の豊かさとは心の豊かさが不可欠で、それには民主化は必須だと監督は語る。
監督:民主化がなければ心の近代化はできない。中国は、大号令で万里の長城のようなものも作れるんです。一方、民主国家だったら図書館ひとつ作るのにも議論が起こって話が進まない。ただ、中国のような集権国家が作ったものは、害があるかどうか議論がないから本当はどうなのかわからないんです。例えば、今中国の原子力発電所は世界一で60基もある。一方、世界各国では原発についての議論が始まってます。そうしたら、中国は日本の原発のニュースの情報統制を始めたんです。このような経済発展が本当にいいのかどうか、人類全体で考えなければならないことだと私は思うんです。
このように語る監督は、’87年に留学生として来日し、学生時代に影響を受けた知識人たちが’89年以降、海外へと亡命していることを知り、本作を作ろうと思ったそうだが、既に来日する際にある決意を胸に秘めていたそうだ。
監督:国を出る時に、中国を変えなければならないという意識はありました。特に権力構造を。'78年という一番自由な時代に大学に通っていて、その時代にある程度の改革、開放はあったんですが、それは経済の面なんです。経済の改革の最後は、政府が変化しないと完結しない。でも、中国には絶対的な独裁主義とマルクス・レーニン主義という越えられない壁が存在するんです。この壁の中で経済改革は必ず腐敗してしまう。中国人の特質が3つあって、そのひとつが健忘症。よく忘れるんです。それと臆病で、自分が絶対に損にならないようにする。そして、正義感の欠如。この作品を作ったのは、人に見せるためももちろんですが、そんな中国人の本質を自分も持っている、そういう自分との戦いなんです。この映画で、中国国内の友人にも縁を切られたりしました。この映画を作ったことは、自爆テロというか、要するに自爆行為ですね(笑)。
(2011年6月 7日更新)
●第七藝術劇場にて公開中
7月2日(土)より、神戸アートビレッジセンターにて
7月9日(土)より、京都シネマにて公開
【公式サイト】
http://www.exile2010.asia/jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/156504/