ホーム > インタビュー&レポート > 「女性を描く映画を作りたかった」 『八日目の蝉』成島出監督インタビュー
直木賞作家・角田光代による同名ベストセラー小説を、『孤高のメス』の成島出監督が映画化した『八日目の蝉』が梅田ブルク7ほかにて公開中だ。愛人の赤ん坊を誘拐し、自分の子として育てた女性・希和子の実像を、成長した“娘”恵理菜が自身の呪われた半生に決着をつけるように見据えていく姿が、じっくりと炙り出される。永作博美と井上真央が共に難役に挑戦し、求心力のある芝居を見せていることでも話題の作品だ。公開に先立ち、成島出監督が来阪した。
本作の見どころは、なんといっても永作、井上をはじめ小池栄子など豪華女優陣による演技合戦だ。特に、主人公の希和子を演じた永作と恵理菜に扮した井上は、圧倒的な演技で観るものを魅了している。そんなふたりの演技について監督はー
監督:井上さんは、彼女自身が『八日目の蝉』の題名じゃないですが、女優として脱皮したかった時期だったというのはあったみたいですね。本人も裸でぶつかりました、と言ってました。彼女自身がこの役をやる以上はそういうことが必要だとわかった上で挑戦してくれたんだと思います。そして、永作さんも今回の役はテクニックで出きる役ではないし、全身全霊でぶつからないとやりきれる役ではないと思っていたんではないでしょうか。だから、永作さんも全身全霊で希和子を演じてくれましたし、最後は抜け殻のようになってしまってました。今までやってきたお芝居では届かないということを、僕がどうこう言う前に彼女たちが身を持ってわかってくれていましたし、素晴らしい女優さんたちとこの作品を映画にできて良かったと思います。
そんな永作と井上の“魂”の込められた演技が観られる本作は、誘拐犯とその誘拐犯に育てられた子どもという特殊な状況を描きながらも、希和子の子どもを思う気持ちや恵理菜が希和子の思いに気付くシーンなど、心に響くシーンが数多く登場する。そこに監督が込めた思いが見える。
監督:この映画は確かに特殊な話なんですが、希和子と恵理菜が置かれた喪失感みたいな状況や原作のベースにある土台が非常に今の日本を象徴していると思うんです。この作品は、経済が豊かになって、ふっと立ち止まった時にどこに希望があるのかと、追い詰められていくふたりの話なんですよね。この映画に登場する恵理菜の父親や、恵理菜の不倫相手である岸田ら、だめな男たちは揃って約束を守らないし、はっきりしないし今の日本の政治家と同じことをしている。現代はこんなに豊かなのにどこに幸せを求めればいいのか、どこに希望の光を見出せばいいのか、そういうことへの怒りは僕の中にあって、そこは原作を映画化したいという大きな原動力になってました。だから、安直なハッピーエンドではないんだけど、閉塞感の中でも希望の光を見つけて観終わった後に温かい思いになってくれればいいと願っています。僕がこの映画で伝えたかったことは、どんなに美しい風景よりも一番美しいものは“思う心”だということ。だから、女性的な強さも切なさも含めて映画から感じていただけたら嬉しいです。
言葉をひとつひとつ丁寧に選びながら真摯に語ってくれた成島監督が「女性を描く映画を1回やってみたかった」と話す本作。監督の思いと豪華演技派女優陣の演技が見どころの感動作だ。
(2011年5月 9日更新)
●梅田ブルク7ほかにて公開中
【公式サイト】
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