ホーム > インタビュー&レポート > 「明日は今日よりいい日かな、と思わせてくれる作品」 『まほろ駅前多田便利軒』
直木賞受賞作家、三浦しをんの同名小説を、瑛太&松田龍平という実力派俳優ふたりの主演で映画化した『まほろ駅前多田便利軒』が梅田ガーデンシネマほかにて公開中だ。まほろ駅前で便利屋を営むしっかり者の、瑛太演じる多田と、そんな彼のもとに転がり込んできた、松田扮する変わり者の男・行天の奇妙な交流が綴られていく。異才・大森立嗣監督のもと、ぶっきらぼうだが、熱く優しい名コンビを熱演した主演ふたりの佇まいに注目してほしい作品だ。公開に先立ち、大森立嗣監督が来阪した。
本作を語る上で欠かせないのが、主人公である多田と行天。原作の設定では主人公ふたりの歳はもう少し上で、30代後半から40代前半。しかし、監督が望んでキャスティングしたのは、監督とプライベートでも交流がある20代後半の瑛太と松田龍平。ふたりのキャスティングについて聞いてみるとー
監督:彼らふたりとは、もともと古くからの付き合いなんです。それと同時に彼らが結婚したり子どもが生まれて、彼らも20代後半になってきて俳優としても次のステップに上がる時だろうし、俺自身が彼らとすごくやってみたかったんです。彼らも今までの若いだけの感じではなく、陰のある男っぽい役ができる年になっただろうし、いいタイミングだと思いました。
監督の思惑どおり、本作では瑛太も松田も少し陰のある30代の複雑な男心を見事に表現している。しかし、そんなふたりに対する監督の演出はというとー
監督:俺は、基本的にああしろ、こうしろとは言ってないです。ただ、“嘘をつくな”っていうのはいつも伝えてました。後は、感情のふり幅を大きくしようよ、というのと、演技をしながら、自由に反応することを大事にしようと。彼らはふたりとも勘がいいから、俺が普段何気なくしゃべってることとか、俺が作った映画を観て、俺の思っていることを何となく感じてくれて、勝手に気付いてくれる。劇中の(付かず離れずの)ふたりの関係と、俺とふたりの関係は似てる気がします(笑)。
瑛太と松田が演じた、付かず離れずのふたりは今の時代には珍しいほどおせっかいで、面倒見がよく、こんな便利屋が実際にあってほしいと感じてしまうほど。そこに監督の込めた未来への“希望”が見える。
監督:“希望”ってすごい大事なことだと思うんだけど、俺は“希望”という言葉を簡単に使いたくなくて。今の時代って個人主義が発達しすぎて、みんな愛されたい願望がすごく強い。簡単に言うと、みんな寂しいんだよね。寂しいから、ネットをチェックしてメールして。そういう時代に、自分の領域を侵してくれる人がいると、嬉しいじゃない。言葉でも行動でも。そういうことをこの映画の主人公たちはずっとやってるんだよね。彼らの優しさがほんの少しでも伝わって、明日は今日よりいい日かな、と思わせてくれる作品になっていればいいなと思いますね。
そんな、じんわりと心に染みる本作の音楽を担当しているのが『くるり』の岸田繁だ。今回、初のソロ名義での活動として参加した岸田の音楽は、作品にぴったりとはまり、さらに胸に響くものにしている。
監督:俺が元々好きだったので、脚本書いてる時に「くるり」を聞いてたんです。今回、初めて岸田くんに会った時に、“可愛らしい感じで”というイメージと“シーンを説明するような音楽はやめてほしい”とだけ言って、後は任したって感じでした(笑)。この映画の縁で家が近いことも判明し、飲みに行ってる店も同じだったので、岸田くんとは最近よく飲みに行っています(笑)。
キャスティングや劇中音楽、映画に込めた思いまで笑いを交えながら語ってくれた大森監督。監督が語るように、観終わった後に明日への“希望”を感じられる、しみじみと胸に響く1作だ。
(2011年4月25日更新)
梅田ガーデンシネマほかにて公開中
【公式サイト】
http://mahoro.asmik-ace.co.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
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