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フランスの振付家ローラン・プティがチャップリンの名画を題材に生み出した同名バレエ作品の映画化に、『それでもボクはやってない』の周防正行監督が挑戦した『ダンシング・チャップリン』が4月16日(土)よりテアトル梅田ほかにて公開される。本作は、この企画が実現するに至った舞台裏を記録した第一幕と、華麗にしてユーモラスなバレエが繰り広げられる第二幕で構成されている。監督の妻である草刈民代が盲目の娘や子供など、全7役を演じ分けているのも見どころのひとつ。本作の公開にあたり、周防正行監督と主演の草刈民代が来阪した。
監督と主演女優という立ち位置は、‘95年に公開された『Shall we ダンス?』以来となるふたり。しかも、題材が草刈のフィールドであるバレエということで、まずは、お互いの印象や映画制作について聞いてみるとー
監督:今回は、草刈のフィールドに僕がお邪魔するという立場で、撮影の準備段階から普通の映画の撮影だったら主演女優に絶対にしないような相談を色々としていました。例えば、「こういう撮影をしたいんだけど、どうだろうか?」とか、「ダンサーは一日に何演目踊れるのか」などです。そうすると草刈から、ダンサーは本番の時間に合わせて身体も気持ちもつくっていくと言われたので、何時に撮影を開始するのかを決めて、映画のスタッフもそれを逆算して仕事をしていました。今回は、監督と女優という関係ではなくて、バレエの世界で生きてきた草刈に、僕がやりたい映画撮影をどういう風にすれば可能になるのかを相談していたので、草刈はプロデューサーというか、半分助監督のような存在でした。
草刈:私以外の出演者の方が全員外国人で、映像作品を作るということに慣れていない方ばかりだったので、日本人と海外の人の間、そして映像の世界と舞台の世界という、色んな意味で架け橋のような立場に立って、撮影を円滑にすすめようとしていました。モノを作ることにおいて、わかりあえることはすごく大事なことで、信頼関係を得るまでに時間がかかるところを今回は監督が夫であることによって取っ払えたので、作りたいものにだけ意識が向かい、監督である周防と一緒に生活していることがこの映画を作る上ですごく役立ったんじゃないかと思います。
そんな草刈のアドバイスを受けながら、振付家の巨匠として知られるローラン・プティの舞台の映画化に挑んだ周防監督。本作の映画化に至るきっかけはなんとローラン・プティの妻である元バレリーナのジジ・ジャンメールのルイジ・ボニーノへの提案だったそうだ。
監督:ローラン・プティの奥さんがルイジ・ボニーノに「『ダンシング・チャップリン』の映像化を考えたらどう?」と言ったことと、前々から彼女が、草刈はこの作品にとてもあってるから、いつか踊れるといいねと言っていて、さらに旦那が映画監督なんだからちょうどいいという話を聞いたんです (笑)。そしてルイジも、もう60を過ぎているので、彼が『ダンシング・チャップリン』を踊れなくなったら誰が踊るんだ、と。それに加えて、草刈の踊りを撮る最後のチャンスだと思い、映画化の話をすすめました。元々はチャップリンという偉大な映画作家にプティが捧げて映画を舞台化したものを、バレリーナを妻に持つ映画監督の僕がもう1度映画にするというのは、挑戦しがいのある仕事じゃないかと思いました。そして、商業映画にすることで単なる舞台映像の記録ではなく、映画版『ダンシング・チャップリン』を作ることができたと思っています。
様々な縁によって映画化へと導かれた本作の元となった舞台版の振付家、ローラン・プティは、監督も15年来の知り合いで、草刈も何度も振り付け作品に参加しており、長年の信頼関係によって本作は作られている。そんな本作の元となったバレエ版『ダンシング・チャップリン』には、彼にしかなしえない振り付けが見られる。
草刈:ローラン・プティ作品というのは、演劇的で踊りでないと表現できない世界なんです。クラシックバレエからひとつ発展させた先駆者の振付家なんですよね。今の振付家のように複雑な振り付けでは一切ないんですが、動きや役柄のニュアンス、状況を伝えるということを踊りによって表現できる人でないと表現できない踊りなんです。ローラン・プティ作品を見ると、初めてバレエを観る人にも伝わりやすい高いクオリティがあるんです。だから、この映画も初めてバレエを観た人でも想像してなかった世界を体験できるような作品になっていると思います。この作品で踊りの表現の面白さが伝わってほしいですね。
草刈は、引退公演の直後から練習に入り、並々ならぬ意欲でこの作品に挑み、監督である周防もバレエを商業映画とする本作にただならぬ熱意で臨んだことが、この会見で強く伝わってきた。踊りでこんなにも深い表現ができることに驚かされる、必見の1本だ。
(2011年4月14日更新)
●4月16日(土)より、テアトル梅田ほかにて公開
【公式サイト】
http://www.dancing-chaplin.jp/
【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/155139/