ホーム > インタビュー&レポート > ゴッホと浮世絵 夜のカフェテラスとのつながり 【オフィシャルレポート】
■ゴッホと浮世絵
《夜のカフェテラス》の作者、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)は、日本に強いあこがれを抱いていたことでも知られています。1880年代のパリでは、日本から輸入された美術品への嗜好、ジャポニスムが一世を風靡し、ファン・ゴッホも1886年のパリ移住と相前後して浮世絵版画に注目し始め、弟のテオとともに収集し、現在そのコレクションはアムステルダムのファン・ゴッホ美術館に伝存しています。
《自画像》1887年4-6月、油彩/厚紙、32.4×24cm
クレラー=ミュラー美術館
©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.![]()
■北斎と広重
言うまでもなく葛飾北斎(1760〜1849)と歌川広重(1797〜1858)は、江戸時代後期の浮世絵を代表する絵師ですが、その名声は日本だけにとどまりませんでした。その浮世絵版画は、従来の西洋絵画には見られない、意表をついた構図と清新な色彩感覚により、特に1880年代のパリで広く愛好されるようになりました。ファン・ゴッホもその作品を敬愛し、《夜のカフェテラス》にも、歌川広重の作品からの影響が指摘されています。今回の展示では、神戸市立博物館所蔵品から、北斎・広重の浮世絵版画を紹介します。
《夜のカフェテラス(フォルム広場)》1888年9月16日頃、油彩/カンヴァス、80.7×65.3cm
クレラー=ミュラー美術館
©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.![]()
■歌川広重《猿わか町よるの景》とは?
フィンセント・ファン・ゴッホの傑作のひとつ《夜のカフェテラス》。その基調となっているのは、夜空の青色と、カフェの黄色い灯りの対比で、西洋絵画の夜景表現としてはかなりカラフルな、斬新な表現が目を引きます。
この作品の構図は、歌川広重《名所江戸百景 猿わか町よるの景》の影響を受けたとも言われています。大通りのはるか奥に設定された消失点にむかって、町並みが直線的に収斂(しゅうれん)していく、線遠近法によって構図を組み立てています。その中に、藍色の空と、月に照らされた地面、その上を行き交う人々などが描きこまれています。
歌川広重画《名所江戸百景 猿わか町よるの景》安政3年(1856)以降、紙本木版色摺、神戸市立博物館蔵
ファン・ゴッホはこの版画について手紙で言及していませんが、《夜のカフェテラス》を描くにあたって、参照していたとしてもおかしくない要素を持ちます。
「名所江戸百景」は全120図からなる、広重の晩年を代表する揃物で、江戸で好評を博したばかりではなく、フランスでも画家たちが多く参照しました。そのうち、神戸市立博物館所蔵の《猿わか町よるの景》は後版(初版で人気が出た浮世絵版画を、版を新たにして増刷したもの)ですが、初版・初摺の風情をよく伝える良質な1枚です。本図の夜空の藍色に見える版木の木目は、ファン・ゴッホ兄弟が収集したとされる1枚(ファン・ゴッホ美術館蔵)と同一のものです。
神戸市立博物館 塚原晃

神戸市立博物館 コレクション展示室
ファン・ゴッホ兄弟も《猿わか町よるの景》の版画を所持していたとなると、いろいろと想像が膨らみますね。ファン・ゴッホの《夜のカフェテラス》と、歌川広重《猿わか町よるの景》をじっくり見比べる好機です。この機会にぜひ神戸へお出かけください。

神戸市立博物館 大ゴッホ展展示室

《夜のカフェテラス(フォルム広場)》1888年9月16日頃、油彩/カンヴァス、80.7×65.3cm
クレラー=ミュラー美術館
©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands.![]()
(2025年12月 5日更新)
会期:2026年2月1日(日)まで開催中
会場:神戸市立博物館
料金:一般-2500円 大学生-1250円
※開館時間:9:30~17:30(金 ・土~20:00)。最終入場:閉館30分前まで。休館日:月曜日、12/30(火)~1/1(木)但し、月曜日が祝・休日の場合開館、翌平日休館。高校生以下無料。大学生及び高校生以下は、学生証・生徒手帳等要提示。障がい者手帳等を提示の方は無料。神戸市在住満65歳以上の方は当日一般料金の半額。(要証明)。期間中1回有効。土日祝及び1月は入場予約優先制。予約は神戸展公式サイトまで。
大ゴッホ展の入場券の提示で、一般200円、大学生100円でご覧いただけます。
(通常料金一般300円、大学生150円)
2026年2月1日(日)までのコレクション展示
・国宝 桜ヶ丘銅鐸・銅戈(実物展示)
・聖フランシスコ・ザビエル像(複製展示)
・北斎と広重
・唐絵目利の絵画
・ヨーロッパのガラス―かたちと装飾
・青銅器をもう一度