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ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2016 落語ライブ見聞録@関西』

夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~

 

漫才やコント、それに新喜劇のイメージが強い吉本興業ですが、
仁鶴さん、文枝さん、文珍さんといった大御所をはじめとして、
なんと、80名以上の噺家さんが所属しているんですね、これが。
で、そんな 吉本興業所属の噺家さんたちによって、
「よしもと落語 若手まつり」と銘打った落語会が、
梅田のHEPホールで3月19日から21日の三連休、ぶっ通しで行われたのでした。
そして、ぶっ通しで行ってきたのでした。

一日5席。日替わりで若手が3席と中堅が1席、
そして、もっとも注目すべきは、三日連続で月亭方正さんがトリで登場するということ。
全ての演者の顔写真が出ていたチラシには、方正さんのおんなじ顔が3つ。

ここで、何よりもまず、全国民に、いや、全世界に対し声を大にして問いたいのは、
「月亭方正の落語、聴いたことありますかぁ~?」
と、このことに尽きるわけです。

いわゆるお笑い芸人から噺家の世界に入って8年足らずだそうで…
え?まだ、8年足らずなの?いやいやいやいや、80年くらいやっているんちゃう、
という、品位、風格、貫録のただよう居ずまいと所作。
マクラでは、「ボク若く見えるでしょ。可愛いから。」とか、
「ロビーで売ってる靴下買ってください! 今、ゼロ!です。」とか、
適度にちょけたり、お馴染みの芸能人のゴシップネタを喋りながらも、
(二日目は、マクラなしでいきなり落語でした!)
ムンムンの“噺家オーラ”を放ちながら、方正ワールドに引っぱり込んでいきます。

三日間のネタは、順に『子別れ』『ねずみ穴』『井戸の茶碗』。
いずれも江戸落語を上方落語に移した噺で、40分を超える“大ネタ”の“人情噺”。
笑いは少なくても、お客さんの気持ちがぐいーっと引き込まれていく様子が見えました。
見えたような気がします。雰囲気です。
でも、
芸人山﨑邦正しか知らなかった人には、かなり意外だったでしょう!
落語というものを初めて聴いた人には、かなり衝撃だったでしょう!

登場人物の丁寧な描き分けと、ひと言ひと言の説得力…。
アカンッ! なんぼ文章で書いても、無理やわぁ、方正落語を表現するのは。
陳腐な言い方で恐縮ではありますが、百聞は一見に如かず、ちゅうのはこのことです。

改めて、全国民に、いや、全世界の人に耳の穴をかっぽじって聞いていただきたいのは、
「月亭方正の落語、聴いてくださいませ~!」
と、このことに尽きるわけです。

続いては中堅枠で登場した三人。月亭八光さん、桂かい枝さん、林家菊丸さん。

主人公である船場の大家の御寮さんが真ん中にいながらも、
個性豊かな使用人たちがイキイキと描かれる『悋気の独楽』を演じる八光さんは、
「よーいドン!」では決して見られない、ピリッとした噺家の顔。

前に演じた若手二席の“色物”でカオスと化した会場を、
抜群のマクラヂカラでご自身の世界に持ち込んで、
夫婦の機微で爆笑をとる『堪忍袋』は、かい枝さんの得意ネタ。

禿げた侍の頭をヤカンと見立て、大家の奥様がぺろぺろなめる『癪の合薬』で、
尻上がりに笑いを増殖させた菊丸さんは、
高校野球の解説者のマクラでも、テッパンの爆笑。

「よしもと落語」の層の厚さと懐の深さと芸の確かさを存分に発揮して、
おそらく袖で聴いている若手に対し「でやっ!」とばかりの、さすがの出来栄え。

 

さてさて、今回の“まつり”の主役である若手噺家さんたちを、
出演順にご紹介していきたいと思います。

初日。

月亭八織(つきていはおり)。2014年6月、月亭八方師匠に入門。
笑顔の素敵なルーキー女子。
天満天神繁昌亭でお茶子さんをしていた時、魔が射して八方さんに弟子入りしたとか。
マクラでは師匠である八方さんと兄弟子である八光さんの“親子ネタ”で、
ちゃっかりウケを持っていく根性は大したもんでした。

林家愛染(はやしやあいそめ)。2009年6月、林家染丸師匠に入門。
爽やかな好青年風。ホンマのところはまだ知らないので、一応、“風”ということで。
前に出た八織ちゃんが緊張して「携帯電話の電源をお切りください」を言い忘れ、
「というわけで、携帯電話の電源を…」で、つかみはOK。
爽やかにやりきって、爽やかに高座を下りていった、爽やかな男前でした。

桂三語(かつらさんご)。2009年12月、六代桂文枝師匠に入門。
ツンツンあたまに人懐っこい笑顔で、お客さんの心の中にスーッと入っていく、
いわゆる、落語家としての“華”を持った若手さんです。
『狸賽』というメジャー古典ネタに時事ギャグをぶち込んで、
ちょっとスベっても突っ込み、またスベっても突っ込んでいく。ナイスファイトでした。

二日目。

笑福亭笑利(しょうふくていしょうり)。2014年9月、笑福亭鶴笑師匠に入門。
そう、このコラムでも書かせていただいた、
厚生労働省から児童福祉文化財に認定されたパペット落語の、
あの、笑福亭鶴笑師匠のお弟子さんです。(http://kansai.pia.co.jp/series/rakugo2015/)
『鯉つかみ』というネタ、見覚えないなと思ったら、自身の新作だそうで、
昨年ラスベガスであった歌舞伎公演からのインスパイア、とのこと。
なかなか、感じよくしゃべっているなぁと思ったら、
「うちの流派は、ちょっと他とは違っておりまして…」と言って、
出たっ!そして、やられたっ!笑福亭鶴笑一門、恐るべし。そして、楽しむべし!
プチパペット落語でした。

桂ぽんぽ娘(かつらぽんぽこ)。2006年10月、桂文福師匠に入門。
見ているだけで笑顔になれる、まあるいお姉ちゃん。
ボケにダジャレ、お客さんいじりに毒舌、ぼやきをテンポよくポンポンとかまして、
独自の不思議なカオスの世界に。
自作ネタの、赤ちゃん同士が喋るという『赤ちゃん談義』は、なるほどの着眼点。
ナイスチャレンジでした。

桂三幸(かつらさんこう)。2002年4月、六代桂文枝師匠に入門。
舞台役者的な男前。
今回の若手の中では、キャリアがあたま一つ出ている三幸さん。
バイトネタのマクラも手慣れたもので、ネタに入ってからも安定感あり。
きっともっとヤンチャしてるであろう、ひとり会を、ぜひ観に行ってみたくなりました。

三日目。

桂文五郎(かつらぶんごろう)。2013年1月、桂文珍師匠に入門。
オモロさが滲み出てる、やや老け顔のお兄ちゃん。
師匠である桂文珍さんがいないところで落語をするのは、実は今回が初めて、
ということで、開放感たっぷりで伸び伸びしているのか、逆に緊張しているのか、
自分でもわからなくなっているような感じでした。
ネタは『牛ほめ』。粗削りながらも、まずは自分が楽しそうにやっていて、○(マル)。

月亭天使(つきていてんし)。2010年2月、月亭文都師匠に入門。
故桂米朝師匠の弟子が月亭可朝師匠、その弟子が月亭八方師匠、
その弟子が月亭八天師匠(現文都師匠)ということで、
天使さんは米朝師匠の“やしゃご弟子”。時代の連なりを感じます。
天使という名前で敬老会に行った時の失敗という完成されたマクラから『初天神』へ。
子どもネタは、女性落語家の個性が出て、いいもんです。

桂あおば(かつらあおば)。2010年9月、桂ざこば師匠に入門。
今回の9人の若手の中では、最も若手らしい若手だったかも。
一見とっ散らかったようなマクラは、計算なのか天然なのか。
ネタは2009年に「第2回上方落語台本大賞」で優秀賞を受賞した『ハンカチ』。
若手らしく、前のめりに突っ走りきりました。

以上、今回出演した噺家さんが13人ということは、
吉本興業にはあと70人くらいの噺家さんがいるということで、
そこには、まだまだ、どんな才能があるか分からないわけで、
早くも第二回の“まつり”の開催を大きく期待いたします。

そして最後に、全国民に、いや、全世界に対し心の底から訴えたいのは、
「落語は、ほんまに、おもろいでぇ~!」
と、このことに尽きるわけです。

ほら、今夜も今週末も、どこかで爆笑落語が、あなたをお待ちしていますよ~。

 

(2016年4月8日更新)


その他のオススメ落語公演

『立川談春 独演会2016』
発売中 Pコード:448-486
▼4月8日(金) 18:30
明石市立市民会館 中ホール
全席指定-4000円
[出演]立川談春
※未就学児童は入場不可。
[問]明石市立市民会館■078-912-1234
チケット情報はこちら

 

『桂文珍独演会』
〈JAPAN TOUR ~一期一笑~〉

発売中 Pコード:448-418
▼4月21日(木) 13:00
ロームシアター京都 メインホール
全席指定-4500円
[出演]桂文珍/他
※未就学児童は入場不可。
[問]グリークス■06-6966-6555
チケット情報はこちら

発売中 Pコード:448-527
▼4月24日(日) 12:00/16:00
神戸文化ホール 中ホール
1階席-4500円 2階席-3800円
[出演]桂文珍
※未就学児童は入場不可。
[問]神戸文化ホールプレイガイド
■078-351-3349
チケット情報はこちら

 

『よしもとの落語会 月亭二人会』
発売中 Pコード:449-631
▼4月23日(土) 11:00
三木市文化会館 小ホール
前売指定-2500円
[出演]月亭八光/月亭方正/他
※5歳以上は有料。4歳以下は膝上のみ無料。お席が必要な場合は有料。カメラ又は携帯電話での撮影禁止。出演者は変更になる場合がありますので、予めご了承ください。変更・払戻不可。
[問]チケットよしもと予約問合せダイヤル
■0570-550-100
チケット情報はこちら


『桂雀々独演会』
発売中 Pコード:448-584

〈雀々らくご道 ~さいしょの一歩~〉
▼4月28日(木) 18:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「東之旅(発端~野辺~煮売屋~七度狐)」「たぬさい」)
[ゲスト]笑福亭三喬

〈雀々らくご道
~魅力的な面々との出逢い~〉
▼4月29日(金・祝) 13:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「代書」「くっしゃみ講釈」)
[ゲスト]桂梅團治

〈雀々らくご道
~そして、これからのらくご道~〉
▼4月29日(金・祝) 17:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「蛸芝居」「らくだ」)
[ゲスト]笑福亭仁智

※未就学児童は入場不可。3回通し券あり(Pコード:786-625)。

[問]オトノワ■075-252-8255
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さよならBRAVA!「らくごのお時間」落語会
発売中 Pコード:449-936
▼5月28日(土) 15:00
シアターBRAVA!
[全席指定-2000円
[出演]桂三扇/笑福亭たま/笑福亭鉄瓶/桂雀太/桂吉の丞/桂りょうば
※未就学児童は入場不可。
[問]シアターBRAVA!■06-6946-2260
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『第九回立川談笑独演会』
発売中 Pコード:448-699
▼5月29日(日) 13:00
大丸心斎橋劇場
全席指定-3500円
[出演]立川談笑
※未就学児童は入場不可。
[問]ページ・ワン■06-6362-8122
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『桂雀々独演会』
発売中 Pコード:448-328
▼7月10日(日) 14:00
京都府立文化芸術会館
全席指定-3500円
[出演]桂雀々(「動物園」「舟弁慶」「茶漬幽霊」)/ナオユキ
※未就学児童は入場不可。
[問]オトノワ■075-252-8255
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『ざこば 南光二人会』
発売中 Pコード:449-515
▼7月30日(土) 13:00/17:00
新神戸オリエンタル劇場
S席-4000円 A席-3000円
[13:00公演出演]桂ざこば(「へっつい幽霊」「お玉牛」)/桂南光(「天狗裁き」「住吉駕籠」)/桂吉の丞
[17:00公演出演]桂ざこば(「遊山船」「一文笛」)/桂南光(「鹿政談」「つぼ算」)/桂そうば
※未就学児童は入場不可。車椅子の方はチケット購入前に会場[TEL]078(291)1100まで要問合せ。
[問]新神戸オリエンタル劇場■078-291-9999
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『立川志らく・談笑 二人会』
発売中 Pコード:448-742
▼8月6日(土) 14:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
A席-4000円 B席-2500円
[出演]立川志らく/立川談笑/他
※未就学児童は入場不可。
[問]芸術文化センターチケットオフィス
■0798-68-0255
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『立川談春独演会』
5月28日(土)一般発売 Pコード:448-752
▼6月25日(土)・26日(日) 15:00
ロームシアター京都 サウスホール
指定席-4320円
[出演]立川談春
※未就学児童は入場不可。両日ともに同演目になりますので、あらかじめご了承ください。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
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5月28日(土)一般発売 Pコード:448-769
▼7月1日(金)~3日(日) 14:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
指定席-4320円
[出演]立川談春
※未就学児童は入場不可。全公演、同演目になりますので、あらかじめご了承ください。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
チケット情報はこちら

 

『桂雀々独演会』
発売中 Pコード:448-328
▼7月10日(日) 14:00
京都府立文化芸術会館
全席指定-3500円
[出演]桂雀々(「動物園」「舟弁慶」「茶漬幽霊」)/ナオユキ
※未就学児童は入場不可。
[問]オトノワ■075-252-8255
チケット情報はこちら

『落語ライブ見聞録@関西』一覧

【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
【其の六】米朝一門会
【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
【其の十】ぴあ寄席 ~湯けむり落語編~
【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(大阪)

【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(神戸)

【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
【其の十四】志の輔らくご in 森ノ宮 2014
【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
【其の十六】志の輔らくご in 森ノ宮 2015
【其の十七】桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK
【其の十八】笑福亭鶴笑の夏休みファミリー劇場~笑福亭鶴笑のパペット落語~
【其の十九】夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~
【其の二十】よしもと落語 若手まつり

『2012年 立川談春見聞録』一覧

【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
【8】11月公演見聞録『白井権八』『三軒長屋』
【9】12月公演見聞録『冨久』『六尺棒』
【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』